第5話 落とし穴はすぐそこに
「4層は魔物も結構いるね~」
オークを過剰に切り刻みながらソフィたんが言う。
先程コボルトの集団やオーク単品と出会い勝利した。
「ゴブ。ゴブゴブ。(そうだね。油断せず行こう。)」
連携が売りのコボルトも、生まれたてじゃあまり脅威とならない。
脳筋、いや脳肉のオークも単騎ではそう怖くない。
「たっ助けてーっ!!!」
その時、助けを求めて叫ぶ声が遠くに聞こえた。
「――っ! あっちよっ!」
ソフィたんがすぐさま向かっていく。
◆◇◆◇
近くにたどり着くと、1人の女性が必死にオークから逃げていた。その数、5!
「ゴブゴブ! ゴブブ!(無理だソフィたん! 逃げよう!)」
1匹をどうにか倒せるオークが5匹、どう考えても勝てない!
「シュナさん……でも」
あの女性には悪いがソフィたんを危険な目には合わせられない!
「――っ」
目に涙を浮かべるソフィたん。目の前の人を救えない、そんな無力感を滲ませながら。
……あぁ、違う。違うだろ。そんな顔をさせるために一緒にいるんじゃあない。
ソフィたんを危険から守るのなんか当たり前だ!
ソフィたんの優しい笑顔を! それを害する存在から守るために俺はいるんだ!
覚悟を決めろ! 限界を超えろ!
ゴブリック・パワー!
「ゴブッ!(あの女性と一緒に安全なところへ!)」
ソフィたんにそう言い、豚野郎どものところへ一気に駆け出す!
「シュナさん!? ……ぐすっ、わかったっ!」
ゴブリンにはあるまじきスピードとパワーを持って先頭にいるオークを殴りつける!
「ぶもぉっ!」
しかしすぐに体制を立て直し、他の4匹とともに俺を睨む。
いいぞ、俺に注目していろ!
「こっちよ!」
ソフィたんが女性に向かって叫ぶ。
「あっあっ……」
言葉にならない声を上げ、女性がソフィたんの方に向かって全力で走っていく。
これであっちは大丈夫かっ?
問題はこっちだ!
オークは突然の乱入者がただのゴブリンだと知って無警戒に突進してる。
「ゴブブ! ゴブゴブ!(当たるか! 鈍足豚野郎!)」
俺は言葉が通じるかわからないがそれでも挑発し続ける。
ティロン♪
≪スキル:挑発を獲得しました≫
おぉ! 助かる!
スキルの使用を意識し、挑発を続ける。
勢い任せの力強い攻撃を避ける。
知能は低いようで連携はしてこないが、数が多い!
「ぶっぶっぶもぉっっ!」
なかなか当たらない俺にイライラしている様だ。
「ゴブッ!」
隙を見てこちらも一発かますがダメージはそう大きくない。
「――ッ(――あっぶねッ)」
すぐさま他のオークが殴りかかってくる。
それを紙一重で躱す。
遅いが体重の乗った攻撃に冷や汗が止まらない。
中学生が小学生の低学年を襲っているような対格差だもんな……
これは……なかなかしんどい!
「(こっちはもう大丈夫だよ!)」
どのくらい経っただろうか、挑発し、躱し、殴り殴られ、ようやく避難完了の意思が届いた。
ほぼ同格の相手を複数相手取り、よくやったんじゃないだろうか。
俺も逃げたいが……すでに満身創痍だ。
「ゴブ、ゴブ!(すぐに逃げるから、先に出口行ってて!)」
「……わかったよ、気を付けてね!」
ソフィたんに俺の焦燥感が伝わらないように意思を遮断する。
震える足に活を入れ、その場から逃げるために走り出す。
「ぶぶもぉっ!」
俺が逃げようとしているのに気が付いたのか、オークたちが追いかけてくる。
「ゴッブッゴッ……(はぁっはぁっ……)」
喉は既に乾ききっている。目の前もチカチカしてきた。
それでも進まなければ、二度とソフィたんに会えないんだと必死に走る。
あぁ、ソフィたん。帰ったらいっぱいほめてもらうんだ……
そう思った瞬間、俺の足がもつれバランスを崩してしまう。
「ゴッッ!(ぐはっ!)」
そして大きな一撃をくらってしまった。
大きく吹っ飛ばされ、通路に転がり込む。
「ゴッゴブッ(いっいてぇよクソッ)」
頭から血を流し、フラフラと立ち上がる。
変なこと考えるんじゃなかった……
これは、もう、逃げられんかもしれん。
「ぶもっもっも!」
鬱陶しく逃げ回っていた獲物が、もうまともに動けなさそうだとわかり機嫌を良くするオーク共。
ニヤニヤと不快な笑顔で見下ろしてくる。
くそっ諦めてたまるか!
その不細工な笑顔めがけて殴りかかるっ!
「シュナさんっ! 『小回復』!」
覚悟を決め飛びかかると同時に温かいものが体を包みこむ!
これは……いける、みなぎるぅ!
「ゴブブッブ・ゴブー!(ゴブリック・ナックル!)」
しかし足りない! ならばッ!
「ゴブゴブゴブゴブーッ!(オラオラオラオラーッ!)」
足りないならッ足りるまで! 殴るのをやめないっ!
「ぶっぶもっぶ……」
拳がひしゃげ骨が剥き出しになるも構わず、殴り続ける!
「『小回復』!」
ソフィたんが継続的に回復してくれる。
やがて目の前のオークは力尽き、膝から崩れた。
「ゴブー!ゴブー!(次はてめぇだ!オラー!)」
「ぶもっ」
今までのお返しとばかりに別のオークに襲い掛かるが、相手はまだ4匹。
数の有利をいかされ、苦戦を強いられる。
負けてたまるかーっ! こっちにはめがみっく・パワーがついているんだっ!
「ゴーブーーーッッッ!!!」
ティロン♪
≪存在進化の条件を満たしました。これより実行します。≫
「ゴ?(ん?)」
「えっ?」
「ぶ?」
突然、俺の体が輝きだした!
誰がとめることなどできるだろうっ!
ボキボキグチャボキィッ!
「ギャーッッ!(ギャーッッ!)」
とめてっ誰かとめてっ!
光の中、体を潰され形作られては潰され……
それを永遠とも思える感覚の中繰り返す。
気の遠くなるような一瞬の後、光が消えた。
「ホブーッ!」
おめでとう! ゴブリンはホブゴブリンにしんかした!
「ぶもっ――」
目の前のオークを殴りつけると、簡単に吹っ飛ぶ。
力がみなぎる! 体も軽い!
「ホブホブゴブーッ!(いくぞてめぇらーっ!)」
溢れる全能感のままに襲い掛かる。
そしてそれまでの苦戦が嘘のようにオークを掃討したのだった。




