第2話 虹の橋
「それでは、今日は村周辺の整備や異変の報告をお願いします。スライムを見つけたら必ず討伐してくださいね」
昨日に引き続き、Fラン冒険者のノルマ依頼だ。
受付嬢さんに今日の依頼の説明を受ける。
スライムはなぜか村の周辺に沸くそうだ。なぜか3匹セットが多い。
冒険者を目指す子どもが最初に挑戦し、ピンチになるとパパンが助けるってのが毎年の風物詩だそうな。
きっと不器用だけど愛に生き愛に死ぬ、いい父親なんだろうなぁ。
俺の父親? どっかでギャアギャア言ってるよきっと。
「スライムですが、基本的にはランクも付かない最弱の魔物ですが、極めて稀にとても手の付けられない魔物に進化します。一説には大きな町を一飲みにし、大陸を滅ぼしたとかなんとか。ですので見かけたら必ず滅してくださいね」
なにそれ怖い。
「わ、わかりましたぁ~」
村の外に出ると、いましたスライム。
「ゴ―、ゴブゴー!(やっておしまいなさい、ソフィさん!)」
「は、はぃぃ~!」
ここに来る前に話したんだけど、ソフィたんがスライム討伐したいんだって。
命のやり取り、確かに慣れた方がいいかもね。
「ん~、えーいっ!」
ぽよよ~ん
「もーいっちょおー!」
ぽよよ~ん
「なにをー!」
ぽよよ~ん
……
…………
……………………
「なんでぇ、どうしてぇっ!?」
んー、そうくるかぁー。
何度杖で殴ってもダメージらしいダメージが入らない。
スライム君も困惑しっぱなしだ。
きっとそういうことなのだろう。
さすが、めがみっく・パワー。
暴力では、何も救えない。
「なにそれ~! 意味わからないっ!」
俺もわからない。
しばらく試したが結果は変わらなかった。
「ゴ、ゴブゴブゴ!(ま、まぁ戦闘は俺に任せてってことで!)」
サクッとスライムに手を突っ込み魔石を抜き取る。
するとスライムは溶けて消えた。
「う~、くやしぃ~……」
「ゴブ。ゴブゴブ。(ソフィたんのその手は傷付けるためのものじゃない。誰かを癒すためにあるんだよ。)」
それっぽいこと言っておく。
「ぅん、そう思っとく。ありがとね」
よかった、機嫌治った。
スライムを狩りながら村の周囲を一通り見回ったが特に異変は見当たらなかった。
「何もなかったねぇ~。そうだ! ちょっとあっちの森の方行ってみようよ!」
いつもとは反対方向にある森を指さす。
ソフィたんって好奇心旺盛だよね。
「ゴブゴブゴブ?(あっちは俺も行ったことないけど大丈夫かな?)」
「大丈夫大丈夫! ちょっとだけ、手前側だけだから~♪」
まぁこの周囲はランク1の魔物がほとんどみたいだし大丈夫かな。
森に到着した。
俺の中の何かが、こっちはコボルトの森、稀にオークが出ると囁く。
……まぁゴブリン時代の知識だが。
「わぁ、森だね!」
「ゴブ!(森だね!)」
「何かないか探しに行こ~♪」
「ゴ~!」
奥の方を目指して移動する。
「見て! リンゴがなってるよ!」
「ゴブゴブ。(本当だねぇ)」
「あれ食べてみたい!」
「ゴブ?(酸っぱいと思うよ?)」
「そうなの? でも食べたいなぁ~!」
「ゴブゴブ(はいはい)」
ひょいひょいっと木に登って2つ小さいリンゴを採る。
「いただきまぁ~す! ……すっぱぁーっ!」
「ゴッブ!(すっぱ!)」
「本当に酸っぱいねっ!」
言いながら頑張って何とか完食。
「お店のリンゴは何であんなにおいしいんだろ~?」
「ゴゴゴゴブブブ!(品種を組み合わせたり、他の果物と一緒に置いておいたりすると甘くなるみたいだよ?)」
「へぇ~、よく知ってるね~。農家の人に感謝だね!」
俺のはただの前世の知識だよ。同じように聞かれて調べたんだっけ。
はて? 誰に聞かれたんだ?
……何か大切なモノを忘れている気がする。
「すごいね、前世の知識! 他にどんなこと覚えてるの?」
「ブ~ゴブゴブ?(う~ん、あまり大したことは覚えてない感じ?)」
毎日を必死に生きてた感じ?
体を動かすのには自信があります!
「そっかぁ。まぁきっと優しい人だったのはわかるよ!」
面と向かって言われると照れるわい。
「ゴブブゴ(俺もソフィたんの前世わかるよ。)」
「え、なになに?」
「ゴブ!(女神様!)」
「もぅやめて! からかわないで!」
――と、ここで何者かの気配を察知。
「ゴブ!(ソフィたん魔物だよ!)」
「――っ! はい!」
「キャンキャン!」
現れたのはコボルト。どうやら1匹だけの様子。
いい機会だ、あれを試そう!
「ゴブ!(『鑑定』!)」
≪鑑定結果≫
コボルト
この世で最も弱い魔物の1つ。一部の女性を虜にする。
仲間意識が強く、下衆な小鬼と異なり高潔な精神を持つ個体が多い。
その連携力を侮り命を落とす冒険者も少なくない。
女性を虜にって羨ま……さすがキャンキャン言ってるだけありますな!
いや、あのモフモフか?
てかゴブリン引き合いに出すなよ! どこまで嫌いなんだ……。
「私はシュナさんのこと嫌いじゃないよっ!」
ありがとうソフィたん。
ソフィたんがいるから生きていけます。
「ゴブブッブ・ゴッブブ!(ゴブリック・ナックル!)」
知りたいことも知れたので戦闘開始!
……と同時に戦闘終了。
さすが俺と並んで単体最弱候補。
嫉妬心を乗せた強打で頭を殴ったら一発だったぜ。
「シュナさんお疲れ様! 後は任せて~!」
先程、敵を倒せないと知ったソフィたんが――。
「じゃあ、私は剥ぎ取りを頑張るよ!」
と言っていたので任せることに。
……大丈夫かなぁ。
▲
「ぐすぐすっうっぷ……」
そうだよね、そうなるよね。
「ゴブゴブ?(大丈夫?)」
現実を叩きつけてくる系のネズミで少し慣れたが、解体作業は俺だってかなりきつい。
しかも時間がかかるから、他の魔物もどんどん寄ってくる。
そしてさらに解体作業が増える……の悪循環だった。
弱い魔物だけだったので助かったが。
さすがにきれいに解体することは諦め、魔石だけ抜いた後血を洗い流すために近くの小川で休憩することに。
「ご、ごべんねぇ~……」
「ゴブ! ゴブ!(気にしないでよ! ゆっくり休もう!)」
「うぅ……ありがうっぷ」
「ゴブゴブ?(そんなにきついなら、解体も俺やるよ?)」
「それは大丈夫っぷ! 私も頑張るんだからっ!」
そっか、ソフィたんが頑張るって言うなら任せるよ!
「うんっ! ありがっぷ!」
――おや、あれは?
「ぶもぉっ!」
血の匂いに誘われたか、浅い森には滅多に出ないオークだ!
「あ、あれはランク2の魔物のオーク!」
魔物はその脅威度に応じて大雑把にランク分けされる。
同ランク内でも差はあるが、ランク2は中級冒険者になってからの討伐が推奨される。
「ゴブ!(『鑑定』!)」
≪鑑定結果≫
オーク
世の女性の大敵。小鬼並みに下劣な存在で食事とメスのことしか頭にない。
身長は160cm程だが体重が非常に重く攻撃力が高い。人権は当然無い。
その肉は美味で、冒険者には色んな意味で親の仇のごとく狙われる存在。
ここでも小鬼を引き合いに出すんかい!
この鑑定結果は誰が考えているんだろうか?
少なくともゴブリンのことが嫌いな存在だろう。
まぁ、好きなやつはいないだろうけど……。
「ぶぶぶもぉぉ」
――っ! こいつソフィたんをいやらしい目で見やがって!
「うっ気持ち悪っ……オロロロロロ……」
ぁ。
このやろうっ! ソフィたんが! 今まで! 必死に! 我慢してたのに!
絶対に許さんっ!!!
ゴブリック・パワー、全っ開っ!
「ゴブブッブ・ゴッブブ!(ゴブリック・ナックル!)」
「ぶもぉっ!?」
たかがゴブリンと侮ったか!
オークに拳がクリーンヒットして吹っ飛ぶ!
勢いのまま馬乗りになり顔面を連打する!
「ゴブゴブゴブ!(オラオラオラっ!)」
実は格上とか、普通に戦ったら苦戦必至とか、冷静になったら負けとばかりにがむしゃらに拳を叩きこむ。
「……」
やがて豚野郎は完全に沈黙した。
「ゴブ!(やったぜ!)」
「ひっぐ……ぐすっ……」
失ったものは、大きかったが……。
今回は俺が解体することにし、その後ソフィたんを慰めながら帰路に着いたのだった。




