彼がいない危機(複数視点)
「おはようございます」
昨日はあまり寝られませんでした。まさか、カズさんがお腹が空いていなくなるとは思いませんでした」
「おはよう・・・」
エリスさんも元気がないように見えます。きっと眠れなかったのでしょう。
「ティア、鹿や熊の肉はまだある?」
「いえ、昨日で無くなりました」
「そう・・・」
エリスさんの得意料理が作れなくてますます落ち込んでしまいました。
「今日は、私の料理を手伝ってもらえませんか?」
「ええ、そうね。そうするわ」
今日も11人分の食事のために頑張ります。
「ティア、食材はまだあるの?」
人参を切りながら、エリスさんは聞いてきました。
「大丈夫ですよ。11人なら、3ヶ月は用意できます」
私も心配になって昨日調べましたからたしかです。
「なら、平気そうね」
「はい」
それからは無言で調理していると、ミリス様とロエナ様がやってきました。顔が初めて会った時より悪いですけど、どうしたのでしょうか?
「あのエリス・・・ティアさん・・・」
「どうしたの?」
「あの・・・どのくらい料理を作れますか?」
「どういうことでしょうか?」
「実は・・・」
ロエナは先ほど起きたことを話し始めた。
長老たちに呼ばれ、わたしたちは集会場に集まっていた。
「今日はよく集まってくれた」
アルト・・・あの事件の後に長老にまで駆け上がった。バルスの腰巾着。彼を睨んでいる人もいた。あの時に家族が死んだ遺族だろう。
「今日は大切なことを報告しなければならないからだ」
報告?まさかまた量を減らすとかじゃないよね。わたし以外にもそう思った人はいるみたいで、目を細めていた。
「エリスが戻ってきたのだ」
え?
「エリス?」
「だれだ?」
「あの事件の後いなくなった子じゃない」
「ああ、あの子か」
エリスが帰ってきたことを発表してどうするつもり?
「エリスはラグスとモーリー一家に夕食を振舞ったそうだ」
周りがざわざわし始めた。
「エルフ法典第21条に『エルフは食料を分け合わないといけない』とある」
その法には一項があって『階級で少々の量の差異は許容範囲である』のせいで今こうなっているのよね。
「だから君たちライトにも今夜、料理を振舞ってくれるはずだ」
それを聞き、喜びの声が上がった。
これって・・・まさか・・・
「ミリス、ロエナ」
アルトに名前を呼ばれた。
「エリスに楽しみだと伝えといてくれ」
アルトの顔はニヤニヤと笑っていた。
「―――というわけなの」
「ライトの人数は何人くらいなのでしょう?」
私が聞くと
「300人ちょっとかな」
300人!昨日の食べっぷりを考え見るにとても今ある食材では賄える量ではありませんでした。
「どうにかならない?ウチたち山菜をとってきたんだけど・・・」
かさましにも限界があります。鍋にしようにも調味料に不安が残ります。
「ごめんなさい。わたしたちのせいで・・・」
エルフの方から食材を購入・・・いえ私たちに売るはずがありません。
「ティア・・・」
近くの村に今から・・・いえ、今からいっても調理する時間がありません。近隣の村は避難していて誰もいないかもしれません。
「あれは・・・」
私では、案が思いかびません。
「ティア、カズマサが・・・」
カズさん、私、あなたがいないと・・・
「ティア」
エリスさんに体を揺さぶられていました。
「なんでしょうか?」
「カズマサが帰ってきたのよ。馬車を連れて」
エリスさんが指差す方に土煙が見えました。




