(02-4)
「……大丈夫?」
心配そうに尋ねる葵に、つばさは気丈に応えた。
「……はい。大丈夫です」
葵は淡々と説明を始めた。
「《《それ》》に関して諸々検査の打診が来てますが、急を要さないので、全部断ってます」
『モルモット』という言葉が、不意につばさの頭に浮かんだ。
一晩で女から男に変わった人間を調べたいと思うのは、医者の性だろう。
主治医が拒否する検査とは…… 気になった。
「……何の検査です?」
「ダイレクトに言うけど、いい?」
「はい」
「……身体の変化に伴って性的嗜好が変わったか。
《《それ》》に生殖機能が備わってるか、の検査です」
「……せ、せいてきしこう? ……せいしょく?」
ご丁寧に説明された。
「つばさちゃんの恋愛対象が変わったか。その身体に子どもを作る機能が備わってるかどうか」
意味はわかっていた。
ショックで理解が追いついていなかっただけだった。
「わたし、女としてまだ一度も誰ともしたことが無いんです!」
親友の沙代にしか話してないことを、初対面の女医に言ってしまった。
「絶対に嫌です!!! 女の子とそういうことするなんて!!!」
声を荒らげる彼女に、葵はすぐに頭を下げた。
「本当にごめんなさい。今お話する内容じゃなかった。さっきも悪ふざけしてごめんなさい。
申し訳ありませんでした」
つばさは慌てて葵の頭をあげさせた。
「……ごめんなさい。取り乱しました。
すみません。この声で怒鳴るとかなり威圧感ありますよね。ごめんなさい」
精一杯明るく振る舞う。
「現状把握、原因究明、解決。ですよね?」
「……そのとおりです」
「まずは、わたしの身体が今どうなってるのか把握が必要……」
「……そうです。さっき言った検査はしません。必要最低限のものだけ」
葵がつばさの手を取った。その手は、男の手。
つい昨日までは、女の手だったのに。
「こうやってみると、やっぱりゴツいですね……」
苦笑いするつばさ。対して葵は真剣な眼差しだった。
「絶対に原因を突き止めて、絶対に女の子に戻します。だから、一緒に頑張りましょう」
まだ正体がよくわからない医者。
しかし、彼女の目はまっすぐ自分を見ている。
つばさは彼女と一緒に歩くことを決めた。
「よろしくお願いします。葵先生」




