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オレの一念、岩をも通す!?  作者: 喜世
第十章

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(05-6)

「……くっ」


 鈍痛がつばさを苦しめる。

しかしそれは十分耐えられる痛みだった。


 自分の男の姿は嫌い。

 でも与晴は慕ってくれる。かっこいいと言ってくれる。


『性別とか立場とか関係なく、あなたが好きです』


 嬉しかった。救われた気もした。

 けれどやっぱり男の身体は嫌だ。自分は女だ。


 なだらかだった腰のくびれが直線的に変わった。次いで腹の皮膚が突っ張りはじめた。

その下で筋肉が動き、鈍いかすかな痛みが走る。そして腹筋が六つに割れた。


 太ももが次第に太く、重くなっていく。

ふくらはぎも細いラインが崩れ、太く締まった形に変わっていった。


 そこで一旦変化が止まった。


「……早く」


 与晴が帰って来る前に『小野雄翼』に完全に変わらないといけない。

男の身体は嫌だが、中途半端な状態はもっと嫌だ。


 下腹部がジワリと熱を帯びると同時に、身体の内側から何かが押し出される感じがした。

 そして、“それ”が再びそこに形を取っていく感覚が伝わってきた。


 熱が収まるのを待ち、下着を脱ぎ確認すると、そこには男の証が再び形を取っていた。


「最悪……」


 無用の長物。

 せめてコレが以前のように見た目だけで、男としての機能は消失していて欲しい。

 そう強く願い目を逸らした。


 まだ与晴は戻ってくる気配はない。

 部屋から出て風呂場で鏡に自分を映して自嘲した。


「気持ち悪……」


広い肩。割れた腹筋。太い脚……

そんな男の肉体に女の顔が付いている状態。

違和感しかなかった。


 時計を見れば、もう6時。

急いで部屋に戻り、服を着込んだ。


 もうすぐ与晴が帰ってきてしまう。なのに顔はまだつばさのままだ。


「……早くしてよ!」


 その言葉を聞いていたかのように、くすぐったいような、熱っぽいような、不思議な感覚がやって来た。


 自分が完全に消えていく光景を見たくない。目をそっと瞑った。


 少しして目を開けると、鏡の中には『小野雄翼』がいた。


 女の面影も片鱗も何も残っていない。

完全に男に変わりきったのはいいが、やはりショックだった。

 たった数時間で男に全て逆戻り。項垂れた。


 ふと『目は変わっていない』と言った相棒と親友の言葉を思い出した。


 鏡に映る自分の目をじっくり見たが、よく分からなかった。自分の目なのに。


「……あいつと同レベか」


 自分を裏切った元婚約者。彼は最後まで小野雄翼の正体を自力では見破れなかった。

 それに比べて相棒は……


「……与晴」


 女の声で彼の名を呼びたかった。

 女の手で彼に触れたかった。

 女の姿を見てもらいたかった。


 自分は彼がLike(すき)だ。

Love(すき)でもあるんだろう。


 顔が見たい。

 声が聞きたい。

 早く帰って来て欲しい。


 今日の激務を頑張った彼のため、せめて『かっこいい小野雄翼』で出迎えようと身なりを整えた。




『ただいま戻りましたー』


 6時半、与晴が帰ってきた。

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