(05-6)
「……くっ」
鈍痛がつばさを苦しめる。
しかしそれは十分耐えられる痛みだった。
自分の男の姿は嫌い。
でも与晴は慕ってくれる。かっこいいと言ってくれる。
『性別とか立場とか関係なく、あなたが好きです』
嬉しかった。救われた気もした。
けれどやっぱり男の身体は嫌だ。自分は女だ。
なだらかだった腰のくびれが直線的に変わった。次いで腹の皮膚が突っ張りはじめた。
その下で筋肉が動き、鈍いかすかな痛みが走る。そして腹筋が六つに割れた。
太ももが次第に太く、重くなっていく。
ふくらはぎも細いラインが崩れ、太く締まった形に変わっていった。
そこで一旦変化が止まった。
「……早く」
与晴が帰って来る前に『小野雄翼』に完全に変わらないといけない。
男の身体は嫌だが、中途半端な状態はもっと嫌だ。
下腹部がジワリと熱を帯びると同時に、身体の内側から何かが押し出される感じがした。
そして、“それ”が再びそこに形を取っていく感覚が伝わってきた。
熱が収まるのを待ち、下着を脱ぎ確認すると、そこには男の証が再び形を取っていた。
「最悪……」
無用の長物。
せめてコレが以前のように見た目だけで、男としての機能は消失していて欲しい。
そう強く願い目を逸らした。
まだ与晴は戻ってくる気配はない。
部屋から出て風呂場で鏡に自分を映して自嘲した。
「気持ち悪……」
広い肩。割れた腹筋。太い脚……
そんな男の肉体に女の顔が付いている状態。
違和感しかなかった。
時計を見れば、もう6時。
急いで部屋に戻り、服を着込んだ。
もうすぐ与晴が帰ってきてしまう。なのに顔はまだつばさのままだ。
「……早くしてよ!」
その言葉を聞いていたかのように、くすぐったいような、熱っぽいような、不思議な感覚がやって来た。
自分が完全に消えていく光景を見たくない。目をそっと瞑った。
少しして目を開けると、鏡の中には『小野雄翼』がいた。
女の面影も片鱗も何も残っていない。
完全に男に変わりきったのはいいが、やはりショックだった。
たった数時間で男に全て逆戻り。項垂れた。
ふと『目は変わっていない』と言った相棒と親友の言葉を思い出した。
鏡に映る自分の目をじっくり見たが、よく分からなかった。自分の目なのに。
「……あいつと同レベか」
自分を裏切った元婚約者。彼は最後まで小野雄翼の正体を自力では見破れなかった。
それに比べて相棒は……
「……与晴」
女の声で彼の名を呼びたかった。
女の手で彼に触れたかった。
女の姿を見てもらいたかった。
自分は彼がLikeだ。
Loveでもあるんだろう。
顔が見たい。
声が聞きたい。
早く帰って来て欲しい。
今日の激務を頑張った彼のため、せめて『かっこいい小野雄翼』で出迎えようと身なりを整えた。
『ただいま戻りましたー』
6時半、与晴が帰ってきた。




