(01-4)
「与、どうした?」
「手が……」
「どうなってる?」
「……少し大きくなってる気がします」
ネイリストに頼んだと見えるネイルのサイズが全ての指で合っていない。
「とりあえずアクセサリ外そうか」
薬指の婚約指輪を外すのは気が引けた。
しかしこれを贈ったのはあの男……
「……失礼します」
与晴の違和感と茂山の判断は合っていた。
指輪が軽い力ではもう抜けず、少し力を込めて引き抜きた。
男の姿の時でも身につけているのを見たことがあるアメジストのネックレス。
これは外さなくても大丈夫だろうと見送ったが、
これを贈ったのもあの男かと思うと酷い嫌悪感を覚え外した。
「やっぱり薬打たれてるかな?」
「はい。前より強力なやつかもしれません。
前は一晩かかりましたから……」
あの時は、痛みのあまり気絶していた。
しかし今はそこまでの痛みは無いらしい。
たまに顔を顰めるが、眠ったまま起きる様子は無い。
「……中途半端にだけはならないといいけどな」
「……そうですね」
関口のようにはなって欲しくない。
いずれにしても憎いのは秋山だった。
「秋山の取調は三宅班にさせて貰えますかね?」
「してもらわないと困る。つばさのキャリアが危うくなる」
つばさはまた寝言を言った。
「……和義さん」
今度はいい夢なのか、微笑んでいる。
しかし、与晴は気付いた。
「……声が」
変わり始めていた。
茂山は深いため息をついた。
もう一度つばさの声で『与晴』と呼んでもらいたかった。
そう密かに願う彼の前で彼女が呼んだのは婚約者の名前だった。
「和義さん……」
しかしそれはもう元のつばさの声ではなく、変声期の男の子のような声だった。




