序
知らない男、知らない女、いろんな人間の声がする。
日本語だけれど、何を言っているのかわからない。
ただ右から左へ流れていく。
心電図のような電子音がする。
犬が吠える声、男の怒鳴る声、色々聞こえる。
「先輩!!!」
相棒の声だ。
目を開けると、与晴と目が合った。
「先輩!分かりますか!?」
「……与晴」
目力がいつにも増して強い……
抱き起こされ、力強く抱きしめられた。
「……よかった」
声が震えている。
「ごめんね…… ありがとう……」
彼を安心させる為、彼の背に手を回そうとした瞬間、身体を引き剥がされた。
「すみません…… 取り乱しました」
今度は愛犬が二匹ベッドに飛び乗って来た。
「歳、総司……」
ベッドに乗ってはいけないと教えたはずの二匹。
しかし今彼らを叱る気は無かった。
久しぶりに会えた愛犬が、自分をちゃんと覚えててくれたのが嬉しかった。
「グッドボーイ……」
息も出来ないくらいに思いっきり顔をなめられた。
満足した二匹はベッドから降りた。
「帰りましょう」
相棒に手を差し伸べられ、つばさはその手を取った。
しかし、ベッドから降りた途端、腰砕けになった。
慌てて与晴に抱き起こされた。
目眩がしたわけでも無い、なぜか力が入らなかった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫……」
しかし、立ち上がれない。
「……おんぶとお姫様抱っこ、どっちがいいですか?」
真面目な顔で言われ、つばさは笑った。
「じゃあ、お姫様抱っこしてもらおうかな」
「わかりました」
人生二度目のお姫様抱っこも、相棒だった。




