(03-9)
次の日の夜、つばさは隣りの部下の部屋に押し掛けた。
相も変わらず部屋に入れることに躊躇する彼を仕事の話だとなだめ、鍋いっぱいに作ったカレーで釣った。
彼はその誘惑に負けつばさを部屋に入れた。
「それで、お話は何でしょう?」
カレーを三杯お代わりして鍋を空にしながらも、ご丁寧に食後の甘めのカフェオレをつばさに出してくれた。
しかもデザートに可愛らしい個包装のフィナンシェ付き。
「貰い物ですがどうぞ」
「ありがとう」
こんな可愛らしいものをくれるのは、新たな彼女だろうか、とふと思考が横へ逸れた。
こんなめんどくさい上司の世話ばかりさせて、彼の大切な時間を邪魔しているという罪悪感が少し軽くなった。
尚更早く元の姿に戻らねばならない。
「この会社について聞きたい」
つばさはスマホに『LOTUS製薬』のWebサイトを出して見せた。
「この会社が何か?」
彼の表情に変化はなかった。
「葵先生から紹介された。ここに元旦那さんが勤めてて、
サプリに含まれてた薬品の分析と、解毒を会社ぐるみで手伝ってくれるかもって」
「そうなんですね」
彼の表情から、この会社がヤバいという感じは無さそうだ。
「与、ここ行ったことあるよね。どんな会社だった?」
「こじんまりとした会社さんで、社員同士が仲が良かったです。堅実に薬を売りつつ、新規事業も挑戦しようとしてました」
柔軟性はありそうだ。もしかしたら、サプリメントの件を受け入れてくれるかもしれない。
「社長と会った?」
「はい。聞き取りもしました」
「どんな人?」
彼はコーヒーを飲んだ後、少し考えて言った。
「怖い人でしたね」
「……それは、ヤクザ的な怖さ?」
もうつばさの脳内にはドラマに出てくるクセがあるベテラン俳優しか浮かばない。
与晴は笑った。
「そういうのじゃないです。
例の事件の犯人を二度と外に出てこないようにって、追い詰めようとしてるんです。
元は自分の会社の社員なのに怖くないですか?」
「……執念深いってことか」
「二三回しか接触してない俺の意見なんであんまりアテにしないでくださいね」
「……了解です」
どうしたもんか。ここで考えても部下の迷惑になる。
出してもらったものをいただいたら退散して部屋で考えよう。
そう思っていると、与晴が声を上げた。
「先輩。我ながら良いことを思いつきました」
「なに?」
「俺に一任して貰えます?」
「……うん、迷惑じゃなかったら」
「ありがとうございます。では整い次第報告します」
一体彼は何を思いついたのか。
疑問しかなかったが、彼に任せることにした。




