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由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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360/379

360 最古の魔塔第3階層2

「ペイドランの言うとおりだ。気を引き締めて進むぞ」

 ゴドヴァンも真剣な表情で告げる。足元にはヨロイトカゲの死体が転がっていた。既に何体分かも分からないほどだ。

(でも、ゴドヴァン様でも、ヨロイトカゲの鱗には手を焼くはずだったんじゃ)

 セニアは昔語りを思い出して首を傾げるも、すぐに思い直す。今、大事なことはそんなことではない。

「はい」

 セニアは返事をして先頭を進もうとした。対階層主との戦いでは役に立てないかもしれない。せめて移動中に奮闘しようと思ったのだ。

「いや、先頭は勘の鋭いペイドラン、次は俺。セニアちゃんは殿下とルフィナを守ってくれ」

 真剣な顔のゴドヴァンに止められてしまった。

「そうだね、順当な配置だと思うよ」

 クリフォードも頷いている。

 真面目な時の2人に揃って言われては、素直に引き退がるしかなかった。クリフォードとルフィナを守るのもまた重要な仕事なのだから。

 セニアは頷き返して2人のそばに寄るのだった。

 また、戦闘しながら進む。

 確かに魔物が多い。絶えずヨロイトカゲと怪鳥レッドネックに襲撃された。襲撃されそうになると、ペイドランが察知して、首を傾げて立ち止まる。おかげで不意討ちはされなかったのだが。

「ちっ、さすがに数が多いと厄介だな」

 ゴドヴァンが舌打ちして告げる。すぐに大剣の切れ味が今までとはまるで違うのだと分かった。単体であれば背中からでも鱗ごと、たやすく斬り裂いていたのだ。やはり、得物をより良い大剣に変えたらしい。

(でも、やっぱり過酷なんだわ)

 消耗戦だ。ゴドヴァンの負傷が特に頻繁である。セニアもまた、ルフィナの回復光に助けられることがしばしばだった。

「あれは」

 ルフィナが険しい顔で声を上げる。杖で静かに指し示された方向には。

 黄色い鱗が岩の向こうに見え隠れしていた。

 黄竜だ。怪鳥レッドネックを両前足で鷲掴みにして、ガツガツと食らっているところだった。

 今の自分にとって、もはや勝てない相手ではない。

「壊光球」

 セニアは10個の光球を宙に浮かべる。今回は威力や大きさよりも持続力重視だ。聖剣の力を用いているため、10個だけなら長く継続して出したまま、数時間に渡って使い続けられる自信があった。

 今までの自分とは違う。

「開刃」

 壊光球一つ一つから鎌のような刃が生じて回転する。

 まだ岩の向こうで黄竜が食事をしているうちに、壊光球が襲いかかった。ひとたまりもなく、黄色い竜が肉塊へと変わる。

「セニア殿」

 クリフォードに名前を呼ばれた。出過ぎた真似だったのだろうか。さすがに叱られるのか。 

 少々身構えてしまうセニア。受け身でいても良くない気がしてきた。口を自ら開く。

「私、前情報どおり、階層主がミラードラゴンかそれに近い魔物なら。階層主戦まで殿下やゴドヴァン殿、ペイドラン君の露払いを、私がするべきだって」

 セニアは固く決意して告げる。

「そうか。気持ちも意図も分かるけど、飛ばしすぎないようにね」

 クリフォードが微笑んで言う。怒ってはいないようで、セニアはほっとする。

「でも、決めつけは良くないよ。もし、裏をかかれて、逆に神聖術しか効かない階層主を置かれていたら、君が動けないほうがマズい」

 思わぬ鋭いことを言われて、セニアはハッとする。確かにいざ実際に遭遇するまでどんな階層主かは分からないのだ。

「そうですね、すいません、考えが浅くて」

 何事も決めつけて、やりすぎるのは良くないのだ。

 気にし過ぎないで、と言わんばかりにクリフォードが手をヒラヒラとさせる。

 それでも、せっかく生み出した長期持続の壊光球を活用しないのは、あまりに勿体ない。

 セニアは開刃を駆使して、出会すヨロイトカゲを片端から切り刻んで進む

「すごいな、持続力まで向上している」

 かなり進んだ地点でクリフォードが褒めてくれた。

 だが、セニア本人はすっかり汗だくだ。少しフラフラする。視界もどこか覚束ない。

「まったく、俺とペイドランの見せ場がねぇや」

 ゴドヴァンが苦笑いである。肩に新しい大剣を担いでいた。

「俺、見せ場より、楽して無事な方が嬉しいです」

 ペイドランが真面目くさった顔で言い返している。

 とても可愛いのでペイドランのためなら、もっと頑張れる気もしてしまう。イリスに怒られるだろうか。

(あ、嘘。やっぱり、しんどいわ)

 阿呆なことを思っていたら、また視界が揺れたのだ。

 セニアは首を横に振った。

「ほぼ独擅場だね」

 ねぎらってくれたクリフォードに対して、とうとう倒れ込んでしまう。

「ハハッ、頼られているようで嬉しいよ」

 自分の身体を受け止めながら、呑気なことを言うクリフォード。自分はいま、とてもしんどいのである。

「少し休もう。ペイドラン、天幕を頼む」

 さらにペイドランにはクリフォードが指示を飛ばす。鎧の重みで少しよろけているのはご愛嬌だ。

(あ、だめよ。私のバカ。何を甘えているの?)

 自分の疲労のせいで予定が押してしまうかもしれない。シェルダンからは第6階層入りする期日まで定められているのだ。

「いえ、まだ、進めます」

 セニアはなんとかクリフォードから身を離そうとする。 

 さすがに上手く力が入らなかった。

「いや、今日はここまでだ。セニア殿の疲労のためばかりじゃなくて。ちゃんと予定の場所には着いているんだ」

 たとえ嘘だとしても、そう言ってもらえば反論のしようもなく、心置きなく身を休められる。

「ここでいいんですか?」

 ペイドランが天幕を設営しつつ尋ねている。入り口から階層主までの中継地を設定するのはクリフォードでないと難しいようだ。

 さりげなく、ゴドヴァンが見張りに立ってくれていた。ルフィナも自分に回復光をかけてくれる。少し身体が楽になった。

「あぁ、シェルダンの記録ではここらが丁度良い」

 クリフォードがノートを片手に断言する。

 本当に変わったのだ。今までの燃やしたがりとは随分と違う。

 セニアはペイドランのあつらえてくれた天幕の中、崩れるように横たわってしまう。

 結局、動けなくなるまで戦ってしまったのが心苦しかった。

「ごめんなさい。殿下は、制止してくださったのに」

 セニアは横たわったまま、優しく見下ろすクリフォードに謝罪した。

「いや、ここで一旦止まって、ペイドランに偵察してもらう。その待機時間があるのだからね。そんなに謝ることじゃないさ」

 クリフォードが慰めてくれた。

「じゃあ、俺、行ってきます」

 外でペイドランがゴドヴァンあたりに告げている。

 そのまま、階層主を確認しに向かうのだ。

 セニアはそのまま眠りにつくのであった。

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― 新着の感想 ―
無事シェルダンの指示通り進むセニア達。 そんな中頑張ってしまうセニアでしたが無理している様子。 シェルダンの方もまさかの事態になっていますが一体どうなるのか!? 続きも楽しみです(╭ರᴥ•́)
[良い点] セニアさんは活躍したい気持ちが強いですね。いろいろと戦略的にこの方がいいとかあるのはわかるのですが、結局張り切りすぎて疲れちゃうセニアさんが可愛いです笑 聖剣もですが、ゴドヴァンさんも剣が…
[良い点] 黄竜が階層主かと思ってヒヤリとしましたが違っていてホッとしました! セニアさん、魔法を器用に使えるようになりましたが疲労の事を考えると休んで正解でしたね。 殿下がとても優しくて安心しました…
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