297 第7分隊の解散〜それぞれの役割へ
シェルダンはシドマル伯爵の下を辞去すると、分隊員5名と合流した。何を言われてきたのか、と皆、緊張した面持ちだ。
「また特命で、俺は皆と別行動をとることとなった」
端的にシェルダンは告げた。どういう反応が返ってくるのか、何度も想定しては不安になったものだが、結局、言ってみないと分からないのだった。
(さて、みんな、どう取るかな)
バーンズがまず驚いてハンターの様子を伺う。
「また、ですか」
ハンターが苦笑いを浮かべて告げる。
ロウエンもまたかと苦笑いだ。どちらかというと、不満よりも諦め、受け入れるような心持ちでいてくれているらしい。
あらかじめ下話をしておいたデレクとラッドの方は腕組みして、かえって難しい顔をしていた。下話の段階で頼み事をする、と言ってあったので、何を頼まれるのか考えているのだろう。
「で、俺たちはどうなるんだ?」
デレクより先に笑い顔をつくり、腕組みを解いてラッドが尋ねてくる。『俺たち』というのがまた、どちらとも取れる聞き方であるのが、いかにもラッドらしい。
「ラッドとデレクにも俺からの頼み事がある。ハンター以下3名は第4分隊ボーガンスの指揮下に一時的に入ってもらう」
シェルダンは胸の詰まるような苦しみに襲われた。いざ口に出してみると、なかなかに辛い。
間違ったことをしていない、と頭では分かっていても、当然、自分の分隊と離れることには抵抗がある。離れがたいのだ。
「つまり、隊の解体ですか」
ポツリとハンターがこぼす。お互いに激しくも楽しく働いてきた、という認識がある。
自分も同じ思いだからよくわかる、とシェルダンは思った。
「あくまで一時的な、この魔塔攻略戦のみの措置だ」
シェルダンは言い、全員の顔を見回す。
一様に皆、沈んだ顔をしている。いざ、解体、と言われるとそれぞれ辛いものがあるのだった。
「俺は隊長のやることに反対はしない」
デレクが口を開いた。
「間違ったことをしない人だって、分かってるからな。特命でもなんでも協力する」
力強くデレクが言い切ってくれた。
酒が入っていたらシェルダンは大泣きである。
「やたら、虫と今回は戦わせていたのは、自分がいなくても良いように、俺たちを慣れさせるためですか?最初から別行動するつもりで?」
ロウエンが静かに問いかけてくる。
「こういうことも起こり得る、と思っていた。皆にとって出来るだけ良い形で特命を受けたかったからな」
シェルダンは頷いた。
かなり早い段階で、セニアらとの同道を決意していたことは言う必要のないことだ。が、ロウエンもある程度、何か察しているのかただ頷いてくれた。
キラーマンティスに特攻するなどの無茶でもしない限り、ハンターらも問題のない練度には仕上がっている。むしろ、第4分隊では喜ばれるぐらいだろう。
当のハンターが呆れ顔を浮かべた。
「まったく、そんな優秀だから、良いように使われるんですぜ?」
ハンターが皮肉たっぷりに言う。
「反省はしてる」
父親にも言われたことなので、若干シェルダンは悄気げてしまった。
「特命を受ける本人がいちばん大変なんだ。苛めるのはそれぐらいにしてやりましょう、副長」
ラッドが間に入ってくれた。
「まぁな、本当に珍しい体験をよくさせてくれる人だ。ま、あとの心配をしなくてもいいよう、俺たちも送り出すだけですよ」
ハンターも頷いてくれた。
他所の隊の指揮下でうまくやる、というのも大変だろうが、ハンターなら問題なくロウエンやバーンズの面倒も見てくれる、という信頼もあった。
「すまん、みんな、苦労をかける」
シェルダンは言い、もう一度頭を下げた。
最後はここにいる皆にとっても悪くない結果をもたらせるはずだ。
「気にせず、心置きなく活躍してきてください。よし、ロウエン、バーンズ!俺等は第4分隊と合流の準備だ!」
ハンターが若い二人をせっついた。
「ボーガンスには俺から話をして、お客様気分で怠けさせるよう言っておく」
シェルダンは至って真面目に告げた。
「はは、期待しないで行ってきますよ」
笑ってハンターがロウエンとバーンズを連れて離れる。荷造りや装備の点検を始めた。
デレク、ラッドとともに3人で残される。
「で、俺とデレクには何をさせる気なんだ?」
ラッドが皮肉な笑いを浮かべて尋ねる。
「さすがに、俺らはお客様気分ってわけにはいかないんだろ?」
当たり前である。
シェルダンはニヤリと笑う。
「手紙をルベントヘ届けてほしい」
シェルダンは言い、懐から封書を取り出そうとする。
「あぁ、カティアさんへの恋文ですか?だが、そんなもん、ラッド一人で良いじゃねぇですか」
デレクが他意無く失敬なことを言う。
「そんなわけあるか。それにカティア殿への恋文だとして、そんなもんとは何だ、そんなもんとは」
少し大人しくしただけでこのザマである。
いっそ鎧の上から鎖分銅を叩きつけてやろうか、とシェルダンは想う。
「いや、下手くそだけど冗談でさぁ」
デレクが困った顔で言う。
下手だと分かっているなら軽々しく口に出すべきではない。
シェルダンはさらにデレクを睨む。
「ま、デレクの冗談は下手くそだけどよ、日頃から惚気けてばかりだからな、自業自得さ。勘弁してやれよ」
ラッドにまで指摘されてしまう。
「隊長のことだから、いろいろ考えがあることぐらい分かりますよ、どうせ俺なんかにゃ分からねぇ複雑事でしょう?」
デレクが真面目な顔で頷く。
「隊長殿は早くもセニア様らと合流するつもりだな?」
ラッドも真面目な顔で尋ねてくる。
合流するということは、魔塔攻略に向けて本格的に動き出すということでもあるからだ。分からない、ラッドではない。
「今回ばかりはかなり手を焼く。2人の協力は必須だし、第1階層から臨時的に合流では遅い」
シェルダンは正直に告げた。
(まぁ、まだセニア様たちには言ってないがな)
言っても意味がないからだ。手を焼く魔塔であろうと、攻略への決意は硬いだろう。
(そこがまた、数少ないセニア様の良いところでもある)
セニアからそこへの揺らぎを見たことも聞いたことも一切ない。諦めない姿が人を引き付けるという部分は間違いなくあるのだった。
「虫型の魔塔。それなりに長い期間、存在している、となれば中はかなり手強いのばかりだろうからな」
シェルダンは二人を交互に見て言う。
「手紙をルベントヘ届けたら、二人にもどうしてほしいか、他にも諸々書いてあるから、そのとおりに行動してほしい」
分厚い書面の束をデレクに渡してシェルダンは告げる。
「絶対、その諸々ってやつのが面倒くさいやつじゃねえか」
ラッドが嫌そうな顔で言う。
「俺、腕っぷしはともかく、頭を使うのは苦手ですぜ」
別な不安に襲われたデレクも不安を述べる。
ついシェルダンは笑みを零してしまう。
「だから、ラッドもつけるんだろう?」
まずデレクを安心させるべくシェルダンは言う。
ラッドが苦笑いだ。
「俺がコレットさんを口説いて駆け落ちするとは思わないのか?」
思わぬふざけたことを言う親戚である。軍の協力者を何だと思っているのか。
「そんなことしたら、ビーズリー家の総力あげてお前を魔塔に引き摺り込んでやる」
シェルダンは顔をしかめて言い切ってやった。
「冗談だよ、んなことするわけないだろ」
ラッドが震え上がった、ふりをして言う。
「分かってるさ」
そして、シェルダンは二人と拳を突き合わせて笑う。
いよいよ、自分にとって、最後になるであろう魔塔攻略へ向かうのだ。




