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由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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250/379

250 ガラク地方の魔塔第5階層1

 体の負傷をルフィナに治してもらった上で、瘴気の晴れた第4階層で気力、体力を回復させる。6人みな思い思いの方法で休んでいた。

(ナナイロジャコとの戦い、厳しかった)

 セニアはようやく元気を取り戻した面々を見て思う。

 ガードナーの機転がなければ負けていたかもしれない。大きさはこれまでの強敵たちと比べると小さいぐらいだったが、速さと攻撃力、見切りに苦戦させられた。強さに大きさは関係ないと思い知らされたのである。

「でも、いよいよこれで、次で最後だわ」 

 口に出してセニアは自らを鼓舞する。

 第5階層では魔塔の主である魔物がいるだけであり、探索の必要もない。

 この魔塔を攻略すれば、いよいよ最古の魔塔まであと1つ、という状況でもあることに、改めてセニアは気付く。

 セニアは自然、肩に力が入り、唇をきゅっと引き結ぶのだった。

「無駄な力みは死を招く。シェルダンなら、今のセニア殿を見て、素っ気なくそう言うんじゃないかな?」

 冗談めかしてクリフォードが声をかけてくれた。

 コツン、と鎧越しに肩を叩いても来る。

 自然、セニアも微笑みを返してしまう。素っ気なく、というのが、いかにもシェルダンらしい。クリフォードからは声をかけてもらえて、素直に嬉しかった。

(また、魔塔に来て、見直しちゃったわね)

 必ずしも、今回はクリフォードの独壇場というわけではない。それでもここぞという場面、ガードナーへの態度、メイスンへの揉めたときの指示出しなどを見ていると、また、成長したのではないかと思う。

「そうですね、シェルダン殿がいれば」

 セニアも相槌を打つ。

 ゴドヴァンやルフィナも言うとおり、シェルダンの不参加だけは惜しいと感じる。

(この面子に加えて、シェルダン殿がいれば、ここまで、とっても簡単だったのではないかしら)

 メイスンを見て、セニアは思ってしまう。

 同じ軽装歩兵でも斥候にはまるで向いていなかった。

 懸命であることも、大変であったこともセニアには分かっている。準備段階から負担は大きかった。それでも気を回してガードナーをシェルダンのもとから引っ張ってきた功績もある。

(人の出来ることには限りがあるっていうのに、おじ様は背負い込みすぎたんだわ。私もゲルングルン地方で、それをしようとして、大失敗をしかけた)

 自らへの反省とともにセニアは思う。メイスンへの親愛の情も信頼も揺るがない。斥候としてどうかというだけの話だ。

 ただ一方でシェルダンの参加を切望する、ゴドヴァンとルフィナの気持ちも、セニアには改めて理解でき始めてもいた。

(何より前回はペイドラン君が天才すぎたんだわ。ちょっと一緒に行動しただけで、自分なりにほぼ同じ活躍しちゃうんだもの)

 セニアは盾をぼんやり眺めて考えていた。シェルダンの働きを霞ませ、軽装歩兵出身で能力が高ければ、シェルダンと同じことが誰でも出来る、とペイドランに錯覚させられたのだ。

(そして、私のおじ様への好きは、クリフォード殿下への好きとは違う)

 この魔塔での一貫したクリフォードの活躍を見るにつけて、セニアは気付くのであった。

「私が殿下を守ります。いつも倒してもらってばかりですけど」

 小さくセニアは呟いた。照れくさいので小声なのだ。

「え?なんだい?」

 恥じらいを無視して、普通に大声で聞き返してしまうあたりがクリフォードらしさだ。

 失念していた。見た目とは裏腹に配慮は皆無なのである。

「もうっ!知りませんっ」

 セニアは横を向いた。おろおろしているクリフォードを無視して気合を入れ直す。

 これから、この魔塔一番の強敵に挑むのだ。

「では、そろそろ、ガードナーの恐怖と緊張が爆発しそうですから。参りましょう」

 メイスンが微笑んで言う。自分とクリフォードのやり取りをずっと温かく見守ってくれていたのだ。

「執事、てめえが仕切るんじゃねぇ」

 ゴドヴァンが即座に噛み付いている。

 ルフィナも冷ややかな眼差しをまた向けていた。進歩のない3人である。

「仕切れもしない騎士団長殿が私を叱るとはね」

 メイスンがわざとらしく驚いたふりで目を瞠る。

(そういうことするから、ゴドヴァン殿を怒らせちゃうのよ?)

 セニアは心の内でため息をついた。シェルダンやペイドランなどと違い、気が強くてはっきり言い返すメイスンである。

「年も近いからね。そうなると、張り合ってしまう部分もあるらしい。本当にいざとなれば、助け合うと思うよ。ナナイロジャコのときも、なんか最後、助けてたじゃないか」

 クリフォードも苦笑いして言う。

 まだ、3人で何事かを言い合っている。シェルダンが、などとまた聞こえてくるから、似たような内容をまた口論しているのだろう。

「いつまでやってるんですか。喧嘩する元気があるなら、さぁ、いきましょう」

 クリフォードが3人に声をかけてくれた。

 3人が同時にこちらを向く。確かに息だけは合っているのかもしれない。

「すまねぇな、殿下。よし、執事行くぞ」

 ゴドヴァンが頷いた。

 6人で赤い転移魔法陣に乗る。視界が変わった。

「これはちょっと、今までとは趣向が違うわね」

 険しい顔で辺りを見回しながらルフィナが言う。

 今までとは違い、石造りの屋内ではなく、壁面まで地肌の見える、まるで洞窟のような環境だ。丸みを帯びた天井、奥には段差があった。

「祭壇なのは間違いないようだがな」

 ゴドヴァンが応じる。ずっと洞窟の奥に目を向けたままだ。

 巨大な影が蠢いている。

「第5階層は魔塔の主しかいない。ガードナー、我々、後衛は退がって距離を取ろう」

 クリフォードがガードナーに伝えているのが聞こえた。ルフィナも微笑んで倣う。

 ガードナーのことはクリフォードに任せておけば問題ない、とセニアは思った。

 影が伸びたようにセニアは感じる。

 魔塔の主が灯りの中へと姿を晒す。円筒形の胴体に三角形の頭部、巨大な白眼と10本もの脚がうねうねと動いている。まるでイカを思わせる巨体だ。

「よし、良い的だ。我が名はクリフォード・ドレシア!貴様を灼き尽くす者の名前だ!」

 最早恒例となっている名乗りをクリフォードがあげる。

 熱気が肌を打つ。赤い魔法陣が中空へと浮かび上がった。

「喰らえっ、獄炎の剣」

 クリフォードが上げていた右手を振り下ろす。

 巨大な炎の剣が魔塔主の巨体に突き刺さろうとし、ジュウッという音ともに、消失してしまった。初めてのことだ。

「なにっ!」

 今までにいくつもの階層主を葬ってきた技が効かない、クリフォードが目を見張る。

「だめだっ!水の膜がやつを覆ってる。炎は効かねぇ」

 ゴドヴァンが叫んだ。目の良いゴドヴァンだから、何が起こったのか見て取れたのだろう。

「なんてことだ、クラーケン。これが魔塔の主か」

 呆然としてメイスンが呟く。

 その身体が吹っ飛ばされてしまう。クラーケンの触手に弾き飛ばされてしまったのだ。

「ぐうっ」

 壁に打ち付けられて、メイスンが苦悶の声をあげる。

「おじ様」

 セニアは思わず声を上げる。

 助けにはいけない。

 更にクラーケンが触手を振り回している。太さだけでも、ゴドヴァンの胴体よりもある大きさだ。

 盾を滅多打ちにされている。盾の扱いもセニアは成熟していた。ただ受けるのではなく、いなすように受ける。盾越しでもまともに喰らえば無事では済まない。

 まして、身体的には貧弱な後衛の3人を直撃してはひとたまりもないだろう。

(すごい力、炎も効かない。私たち、勝てるのかしら)

 早速不安を感じつつもセニアは戦いを続けるのであった。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 皆の指揮をとるのが今はバラバラになってはいますがこれはこれでなんとかなっていそうな。 そんな時最後の階層主クラーケンが現れた。 クリフォードの炎が遮られその強力な足の攻撃。 どうかかってほし…
[良い点] セニアさん、今回の魔塔でとても大人に成長したように感じました。 そして殿下に対する気持ちにも気づく事が出来てとても良かったと思います。 [一言] また、とても手強そうな魔塔の主ですね~(汗…
[良い点] シェルダンさんが参加していたら、確かにだいぶんすんなりいけた気がしますね!メイスンさんも矛を収めたでしょうし(;´∀`) みんなが一階層登るたびに「シェルダンさーん」ってなる気持ちがわかり…
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