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由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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244/379

244 ガラク地方の魔塔第3階層2

「メイスン」

 クリフォードがメイスンに声をかけた。

 なぜか、ちらりと気遣わしげにセニアを一瞥する。

「はっ」

 皇族だからかメイスンもクリフォードには従順だ。恭しく素直に頭を下げた。

「セニア殿を見ろ」

 さらにクリフォードが言う。

 意外にも話が自分へと飛んできた。

 言われてメイスンが自分の方を見やる。ハッとしてから、メイスンが自分の顔を見て申し訳なさそうな顔をした。

「これ以上は言わない。どっちが正しい正しくない、というのとは別だ。ただ、君が自分の主を、その態度で苦しめたことだけ理解しろ」

 毅然とした態度でクリフォードが言う。

 静かにメイスンが頭を下げる。分かってくれたのだろうか。そしてどうやら自分はよほど酷い顔をしていたらしい。

 チョウチンナマズにカッタマントを警戒しながら進む。襲われたなら迎撃する。

 小島に着くも、灌木がいくらか転がっているだけで異常はない。

「わざわざ島があるんだから、何かしらかありそうなもんだが」

 ゴドヴァンが大剣で地面をつつきながら言う。

 次の島へと進むこととした。今度は三方へと道が伸びている。ゴドヴァンが先導するに任せた。

「アカテとかいうカニの魔物がいるな」

 ゴドヴァンが次の島を見やって言う。

 さらに近づくとセニアたちにも見えた。

「お、おれの魔法、と、届きます」

 ガードナーが言い、詠唱を開始する。

 黄色い魔法陣が中空に浮かぶ。バチバチと雷の弾ける音がし始めた。詠唱を始めてから魔術を放つまでが驚くほど早い。

「サンダーストーム」

 ガードナーが打って変わって冷静な口調で告げると、黒雲が生じて小島の上へと至る。

 黒雲より雷が落ち、アカテの群れを一掃した。

 射程、威力、持続力、どれも申し分ない。素直にセニアは感心する。

「ひ、ひええぇっ」

 また腰を抜かすガードナー。いちいち悲鳴を上げるのだけは感心しないが。

「すげえな、射程だけなら殿下以上じゃねぇか」

 ゴドヴァンが手放しでガードナーを褒める。ルフィナも微笑んでいた。2人ともガードナーには優しいのだ。

 思わずセニアはクリフォードの顔色を窺う。

 いかにも自尊心の高そうな、そして炎魔術に誇りを持っていそうなクリフォードである。自分以上などと言われて、機嫌を損ねるかもしれない、とセニアは危惧したのだ。

(ここに来て、殿下とガードナー君まで揉めたら、完全崩壊だわ)

 当のクリフォードは何やら思案顔だ。顎に手を当てて考え込んでいる。

「ガードナー」

 クリフォードが思案顔のまま、口を開いた。

「ひえええぇ」

 腰を抜かしたまま、なぜか悲鳴をあげるガードナー。

 ゴドヴァンとルフィナの感心する顔が呆れ顔に変わった。

 どうやら自分より圧倒的に強い相手には一律、悲鳴をあげる性質らしい。

(あれ、私、ガードナー君に悲鳴あげられたことないわ。まさか、そういうことなのかしら?)

 セニアは気付いてしまった。なぜだか腹が立ってくる。

(もう、面倒見るの止めようかしら)

 つい意地の悪いことを考えてしまう。だから、セニアはまだガードナーを助け起こさないこととした。

「君、詠唱を適当にやっていないか?」

 クリフォードがガードナーの体たらくを気にせず尋ねる。良いこととは思えないが、咎めるような口調ではない。

 ゴドヴァンとルフィナも訝しげな顔で首を傾げていた。

 メイスンに至っては、さほど興味が無いのかせっかちなだけなのか、少し先を歩き始めている。

「す、すいません」

 ガードナーも怒られているのだと解釈して謝罪した。

「そうじゃない。君、詠唱が適当でも雷魔術を放てるのだね」

 クリフォードが驚き顔で言う。

 確かに現に撃てているのだから問題はないのだ、とセニアも思った。

「極論を言えば詠唱なしでも、無詠唱でも撃てるのではないかな?」

 更に興奮した様子でクリフォードが尋ねる。

「お、おれ、魔力が、か、勝手に雷になっちゃうんだって、レ、レンドック先生が」

 ガードナーの言葉に頷くクリフォード。

 セニアはもちろんのこと、ゴドヴァンやルフィナも置き去りだ。

「それなら、やはり無詠唱でもいけるじゃないか。羨ましいね」

 クリフォードが言葉通り羨ましげに告げる。隠そうともしていない。そして他の面々は置いてけぼりのままだ。

「で、で、でも、じゅ、術式の展開はしなくちゃだし、ど、どうしても、お、お時間を、く、ください」

 ガードナーがなぜだか緊張した面持ちで告げる。褒められていると分からないのだろうか。

「そうだな。詠唱している時間で術式を頭の中で構築するわけだから。適当でも詠唱していたほうが集中しやすい、という面もあるか」

 納得した様子で、クリフォードが頷いた。

 2人でお互いの使える魔術について、再確認を始める。聞いていると、まだ魔術を習い始めて長くもないというのに、ガードナーも様々な魔術が使えるらしい。雷の網なども作れるようだ。

 セニアは2人の様子を見ていて、なぜだかホッとした。

(面倒見も良くて、こうしてると格好いいのに。って、私、また馬鹿になってるわ)

 どうしてしまったのだろう。

 思いつつもセニアは2人を促してゴドヴァンらについて歩き始めた。

 幾つかの島を回る。小道でも小島でも、魔物に必ずといっていいほど遭遇したが、いずれも対処できない相手ではなかった。

(階層主はどこかしら?)

 そろそろ遭遇してもおかしくはない。セニアは抜身の聖剣を持ったまま、気を張り詰めていた。

「おい、執事。いま、どの辺だ?かなり探したぜ?」

 ゴドヴァンが珍しくメイスンの方を向いて尋ねる。

 セニアと同じく気になったようだ。シェルダンやペイドランならば地図を書いている。メイスンも同様だろうと思っていたが。

(でも、そういえばおじ様、ノート開いてるの見たことないわ)

 セニアは嫌な予感がした。

「分かりません」

 しれっとメイスンが言う。

「ええっ」

 思わずセニアはルフィナと同時に声を上げてしまう。

「これだけ戦っていて、図面など書いていられるわけもないでしょう」

 涼しい顔でメイスンが言う。

 まったく無いわけではなかったし、頼んでくれれば時間ぐらい稼いだのに、とセニアですら思った。

「呆れた。本当に剣を振り回すしか能がないの?」

 ルフィナも心底うんざりした顔で言う。

 第2階層でも迷い歩いていて、階層主と遭遇しただけであり、運任せだったのかもしれない。

「あなた方が、シェルダン殿やペイドラン君に甘え過ぎていただけでしょう。必要と思うならご自分でなさっては?あなた達こそ、魔塔に何度も上って何を学んだのですか?」

 メイスンもメイスンで辛辣な言葉を返す。ゴドヴァンやルフィナの怒りを煽るような物言いだ。

(また、始まった)

 セニアはうんざりするとともに、ガッカリもしてしまう。先程の言い合いで、どちらも反省はしないのだから。

 3人ともセニアにとっては大事な仲間であり、ここは危険な魔塔だというのに、なぜ仲良くしてくれないのだろうか。

 そして、何も上手い手を思いつけない自分自身がまた、セニアにとって歯がゆくもどかしいのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔塔での戦いにやはり纏まらずセニアも困惑してしまっていますね。 これはやはり誰か指揮官がいないと大変そうです。 今回も楽しかったですദ്ദി ˃ ᵕ ˂ )
[良い点] レンドック先生に続きクリフォード殿下が魔術の先生になってくれれば、こんなに心強い事はないですね! ガードナー君頑張れ~~! [一言] メイスンさんの言う事も尤もですね。 悪気のない攻略組も…
[良い点] おぉ。クリフォードさんが仲裁に!これはポイント高いですね(*'▽'*) ガードナー君にも羨ましがっているけど嫉妬というよりは興味という感じですね。 しかしメイスンさん、反省したかと思いき…
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