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由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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235/379

235 ガラク地方の魔塔第1階層4

 メイスンが片刃剣でもって、硬いアカテを甲羅ごと一刀両断していく。手にしているのは支給品の片刃剣だ。

(メイスンさんの腕前も変わらない。つ、強いなぁ)

 斬れる大きさと硬さのものは何でも斬る、という印象だ。

 だが、あてどなく海岸を彷徨っているようにガードナーには思えた。

(魔塔上層って、ど、どうやって行くんだろう)

 先頭を歩くメイスンには道が分かっているのだろうか。

「お、セニアちゃん、殿下。あっちに転移魔法陣があるぜ」

 大柄なゴドヴァンが一点を見つめて言う。

 何に気付いたのだろうか。ガードナーも目を凝らすが何も見えない。

「魔塔では転移魔法陣というのに乗って、それで次の階層へと行くのよ」

 聖騎士セニアが聖剣を片手に近付いてきて教えてくれた。聖騎士セニアも強い。並の力量ではなく、アカテやシーサーペントを何度か単独で斬り倒していた。

(でも、メイスンさんの方が強く見えた。おかしいなぁ)

 ガードナーは感謝しつつも疑問に思っていた。一番強いのはセニアなのだと勝手に決めつけていたのだが。感じる圧力や恐怖の強さは別なのである。

「赤い光を発していてね。ゴドヴァン様はとっても目が良いから、誰よりも早く、いつも見つけてくれるのよ」

 恐ろしく綺麗な女性から優しく説明してもらえている。

 眉目秀麗なクリフォードと並んでいるとそれだけでガードナーなどは圧倒されてしまうほど。

「執事、先頭を代われ」

 荒っぽい口調でゴドヴァンが言う。

 他の5人が圧倒的に強すぎる。ガードナーも何とか自分にできることを探そうとはしているのだが。

(み、皆より少し射程が長いのだけだ、お、俺が強いのは)

 ガードナーは遠くの海面にいたシーサーペントにライトニングアローを撃ち込みつつ思う。

 直接戦わないルフィナですら、ゴドヴァンやセニアの傷をたちどころに治して、能力の高さを見せつけていた。

(メ、メイスンさん、こ、ここでも、き、嫌われちゃったんだ)

 ガードナーにも分かるほど、一見してメイスンとゴドヴァン、ルフィナの二人組との間が険悪なのだ。そのメイスンの口利きで加わった自分のことも、ゴドヴァン、ルフィナには面白くないのだろう。

 クリフォードとセニアが間に立って、自分やメイスンとも意思疎通をしてくれるのだが。

 メイスンが軽く手傷を負い、すかさず光を出して自力で治療している。ゲルングルン地方では見せていなかった技術だ。

 ルフィナが知らんぷりでゴドヴァンに何事かを告げていた。

「私にも、聖騎士の神聖術が使えるのだ。回復光という術だが、貴様も手負ったら治してやろう」

 ルフィナの方を見て、メイスンが苦笑した。

「どうやら、私もお前もすっかり嫌われているようだ」

 自分まで巻き添えにしてしまった、と気にかけてくれているようだ。良い人なのに、とガードナーは思う。

「お、俺、はシェルダン隊長に、ささ、さ逆らっちゃいました。も、もう第7分隊には、も、戻れないかも」

 ガードナーは自身の懸念を伝えた。シェルダンの殺気が尋常ではなくて今もまだ怖いくらいなのだ。

「戻れるさ、生きていれば、お前は、な」

 メイスンが笑って言い切ってくれた。

「私を悪者にしておけ。ひどく怒られるだろうとは思うが、少し罪状を軽くしてもらえるかもしれん」

 冗談めかしてメイスンが言う。

 ガードナー自身も制止に逆らってなお、褒めてもらえるとは思っていない。罪状、という言い方がシェルダンらしさを示しているような気もする。

(隊長、俺に怪我させたら、メイスンさんに殺すって。本当に心配してくれてた)

 自分には早かったのかもしれない。だが、いつなら早くないのかも分からない。

 怖いのもいつものことだ。どうせ第1階層にいても怖いのだから、上に行っても同じこと。

「おい、執事、ちったぁ仕事しろっ」

 ゴドヴァンがメイスンに辛く当たる。ルフィナも冷ややかだ。

 この2人は恐ろしい。シェルダンと同等近い怖さを感じる。睨まれるたび悲鳴を上げたくなるのだ。

「まったく」

 そんな2人にも動じないメイスンがぼやき、先頭に躍り出てシーサーペントを斬り倒していた。

「おい、小僧」

 ゴドヴァンが声をかけてきた。

 恐ろしさにガードナーも固まる。いよいよ特に理由もなく殴られるのだろうか。ゴドヴァン越しに赤い光も見えてきて、いよいよ第1階層も抜けられるというところだ。

「すまん、怒りすぎて名前すら聞いてなかった」

 気まずそうにゴドヴァンが頭を掻いて名前を尋ねてくる。

「ひ、ひぃぃぃっ、ガードナー、ガードナー・ブロングです。き、騎士団長様!」

 ガードナーは悲鳴とともに自己紹介した。

「メイスンのついでにお前にまで当たったのは悪かった。だがこの先は危険だ。それにシェルダンの秘蔵っ子みたいな部下に怪我させたら、ヤツに合わせる顔がない。俺とルフィナはヤツと親しかったからな。正直ガッカリしちまって、大人気ない態度を。悪かったな」

 なぜだか謝るゴドヴァンの大きな背中を偉い偉い、とルフィナが撫でてやっている。

「でも、見れば見るほどにまだ若くて。ほとんど子供じゃないのって。反省しちゃったわ。この人はね、見た目によらずほんとはとっても優しいのよ?」

 ルフィナもたおやかに微笑んで言う。照れたようにまたゴドヴァンが頭を掻いた。

 2人とも悪い人間には見えない。メイスンも悪い人間ではないはずだから、何か行き違いがあったのだろうか。

「お、俺、皆さん、みたいな、え、英雄と、い、一緒に戦うの、ゆ、夢だったんです。こ、怖いけど、い、行きます」

 改めてガードナーは宣言した。

 ゴドヴァンとルフィナが顔を見合わせてため息をつく。

「シオン殿下の軍令もあるから俺らも拒めはしない。ただ、どんな環境で、どんな敵がいるかも分からねぇから、無理はするなよ」

 やはりゴドヴァンも悪い人ではない。本当に優しいくらいだ。

 憧れていた英雄たちとともに、とうとうガードナーは赤い転移魔法陣を初めて目の当たりにした。

 なぜかメイスン一人が赤い光の近くに立つ。全員で行くのではないのだろうか。

「では、私が先見を致しますよ。皆様は5分後に」

 メイスンが言い、その全身を眩い光が覆う。

「魔塔上層は瘴気が酷いから、この光を纏う神聖術、オーラを使わないと戦うことすら出来ないの」

 聖騎士セニアが説明してくれた。

(いよいよ、魔塔上層だ。お、恐ろしい場所なんだな)

 思いつつガードナーは、一人赤い転移魔法陣に姿を消したメイスンを見送るのであった。

 

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― 新着の感想 ―
ガードナーさんの決意。 そして、魔塔に行くことになったガードナーさん。 シェルダンさんは複雑な心境になりつつも、ガードナーさんの気持ちを尊重していますね。 魔塔上層を目指して。 ガードナーさんは悲鳴と…
[一言] ガードナーは超強力な仲間たちと魔塔最上階を目指していることに気がつく。 そんな中徐々にガードナーを認めていく仲間たち。 シェルダンの秘蔵っ子というのもあるが頑張ってる彼を皆応援しますよね。 …
[良い点] ゴドヴァンさん、ルフィナさんとお話できて良かったです! あとはメイスンさんと仲良くはならなくても上手く連携出来れば安心ですね。 悲鳴とともに自己紹介するガードナー君、いつも読んでいて笑って…
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