234 ガラク地方の魔塔第1階層3
「おいっ!執事、てめぇっ!言うに事欠いて、こんな貧弱なのをシェルダンの代わりに連れてくっていうのか!?」
見上げるばかりの偉丈夫が唸る。青い騎士服姿の騎士団長ゴドヴァンだ。背中からガードナー自身より長い大剣が見えた。重さも自分より上かもしれない。
(ひ、ひええええっ)
ガードナーはあまりに恐ろしくて、悲鳴が声ですら出て来なかった。
「そうよ。まず、自分の参加を認められただけ、良しとしなさいな。さすがにちょっと図々し過ぎるわね」
紫髪の美女、治癒術士であるルフィナもゴドヴァンに味方する。手には綺麗な魔石のついた杖を持っていた。
(ま、魔塔の勇者が4人で揃い踏みだ)
しかも話題は自分自身なのだ。
ガードナーは膝が震え出そうとするのを感じ、必死で抑える。これが悪化すると立っていられなくなるのだ。当然、最終的には腰を抜かすこととなる。あまり情けないと連れて行ってもらえなくなるかもしれない。
「シェルダン殿はシオン殿下との約定もあり、参加は諦めるしかないでしょう。しかし、その部下までは約定に含まれていません」
メイスンが言い、仲間の4人を見渡している。
みなそれぞれに反応は違うのだが。
シェルダンについては、ガードナーの位置からでは背中しか見えない。気配で、物凄く怒っているのだ、とは伝わってくる。
「無論、本人が嫌がるなら別ですが」
さらにメイスンが自分を見て続けた。
散々、ヘタレと罵られ、目の前で腰を抜かしてきた自分が、危険な魔塔上層への攻略に志願すると、信じてくれているのだ。
「ガードナー、魔塔上層は危険だ。今までの第1階層とはワケが違う。やめておけ」
シェルダンが振り返って言う。今までは見せたことのない、心の底からの心配がありありと現れていた。
(俺、こっちに来てからは幸せ者だったんだな)
友人もできて仲間もいた。心配してくれる上司もいる。いや、シェルダンとカティアは親代わりのようなものだとすら、ここに至って思えてきた。
(でも、信じて危険な話を打診してくれる人もいるんだ)
ガードナーは気持ちを決めた。
「死なせるために魔術を習わせたんじゃない。せめてもっと腕を上げて、魔術以外の戦い方も、ある程度出来るようにしろ」
さらにシェルダンが言葉をかけてくれる。
ただ、ガードナーは忘れられないのであった。
世の中には第7分隊に来てからの親切な人々だけではないことを。実家の憎たらしい面々の顔を思い浮かべる。魔塔上層で活躍したとなれば、見返すこととなるのだ。
「や、やります」
ガードナーは言い切っていた。
シェルダンが天を仰ぐ。
「お、俺にも、で、出来ることあるなら、やります」
重ねてガードナーは告げた。
早速、磨いた魔術を活かす機会が来たということに高揚感すら覚えてしまう。
「おい、小僧。勝手にやる気を出すんじゃねぇ」
どすの利いた声でゴドヴァンが詰め寄ってくる。
結果的には反対していたシェルダンが盾になる格好だ。
「ひええええっ」
ガードナーは直立して悲鳴を上げた。大きくて強い人だ、と見れば分かる。
「ゴドヴァン殿、ガードナーは最早仲間です。手出しも口出しも、シオン殿下に不敬ですぞ」
すかさずメイスンが庇ってくれる。
クリフォードが苦笑い、聖騎士セニアに至ってはおろおろしていた。みな当たり前だが酷く人間らしい動きをしている。
「ちっ、シェルダンッ、頼むっ!お前も上れっ!こんな奴らとじゃ、話にならんっ」
ゴドヴァンが懇願するように言う。2人の関係性が分からないガードナーとしては驚くばかりだ。一国の騎士団長が一介の軽装歩兵に懇願しているのだから。
はっきりとシェルダンが歯軋りした。
「メイスン、ガードナーに何かあったら、お前を殺す。覚悟しておけよ」
ありえないほどの激情を抑え込んでシェルダンが告げる。
ゾッとするほど怖かった。
「ガードナー」
さらにシェルダンが自分のほうへと向き直る。
「死ぬなよ。いざとなったら、この連中全員を盾にしてでも逃げ帰って来い。いつでも迎え入れる」
自分ははっきりとシェルダンの忠告を無視したのだ。それでも気にかけて、貴人たちの眼前で不敬に当たることを口走っている。
シェルダンが背中を向けてデレクたちの方へと向かう。
「話は決まりましたな」
涼しい顔でメイスンが告げて、ガードナーはともに魔塔上層へと挑むこととなった。
海岸線を6人で歩く。先頭にメイスン、最後尾に聖騎士セニアという並びだ。
「ひ、ひええぇっ」
ガードナーは悲鳴を上げて頭を抱える。自らライトニングアローを放ち、まだ遠く海面にいるシーサーペントを倒したところだ。
「まったく、貴様は。活躍したときぐらい胸を張れぇっ!」
久し振りの叱責を最前列のメイスンから受けた。
「大丈夫よ、近くの敵は私達が倒すからね」
聖騎士セニアが優しく声をかけてくれる。
(すごいきれいな人だ。おまけに人間じゃないみたいに優しい。なんか強くて少し怖いけど)
さらに戦地だと言うのに良い匂いもする。ガードナーは赤面しながら立ち上がる。
クリフォードと目が合うと苦笑いをされた。
「いや、雷魔術は申し分ない力量だ。さすが、名家の出身だね」
ブロング家について、クリフォードが言及した。
同じく魔術師の、第2皇子である。自分の実家についても何か聞いているのかもしれない。
まだ雷魔術を習い始めたばかりなのだ。魔導の家柄についての歴史などはまるで知らない。
「う、うちを、で、でで、殿下は、知って、いるんですか?」
ガードナーは勇気を出して尋ねた。
クリフォードも強くて怖い。一度炎魔術を使っていたところ、怖気を振るうほどの魔力を発していた。
「あぁ、デジュワン・ブロングの非嫡出子だ、と君のことは聞いていたよ。彼は私より年上だが、まぁ、いけ好かない男だったね」
容赦なくクリフォードが言い放つ。事実なのでガードナーも否定する気もしなかった。
「実力は、不遇の隠し子だった、今の君にも遠く及ばないのにね。家柄を鼻にかけて。私のことも陰ではいろいろ言っていたようだ」
冷たい笑みを浮かべてクリフォードが更に言う。
「皇室は魔導の名門ではなかったからね。私が彼らより強いのが気に入らなかったのだろう」
自分も父親のことは嫌いだ。ガードナーはクリフォードの言葉に頷いてみせた。
「お、俺は家の物置に。奥様の子ばかりが、勉強させて貰えて」
ガードナーはクリフォードに告げる。なぜだかセニアのほうが痛ましい顔をしてくれた。
「隠し子の君だけが素質十分なのが面白くなかったのだろう。彼は器の小さい人間だったからね」
温かい言葉をクリフォードがかけてくれる。
同じ魔術を操る人間だからかもしれない。ゴドヴァンとルフィナに至っては声もかけてくれなかった。加入するときの様子からして、自分ではなくシェルダンを求めていたのだとガードナーにも分かる。
別に話がしたいわけではない。それに無視にも不当な扱いにも慣れている。
ガードナーはひとしきり怯えてから立ち上がった。元のように歩きだす。
「まったく貴様は、変わらんな」
メイスンが、苦笑いである。
「臆病な癖に図太い」
どっちなのだろうか。言われてガードナーは首を傾げるのであった。




