表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

224/379

224 聖騎士の執事メイスンと騎士団長ゴドヴァン1

 クリフォードのルベントにある離宮。裏側にある練兵場にて。

「くうっ」

 セニアは視界が揺らぐに任せて、膝から崩れ落ちた。

 もう、今日一日だけで何百発の光集束を放っただろうか。まだ昼過ぎくらいの時間だ。日は高い。まだ頑張る時間は十分にある。

「セニア様っ」

 メイスンが駆け寄って助け起こしてくれる。どこまでも優しくしてくれるので、安心して無理をすることが出来るのだ。

(ちょっと甘いけど)

 さすがに思いつつも、内心でセニアは感謝する。クリフォードに抱くのとは違う、温かな感情が自分の胸のうちにあることを、セニアは、はっきりと自覚していた。

「大丈夫です。それよりも、おじ様」

 セニアは光集束を向けた大木に目を向けて言う。

 幹のど真ん中に、人の頭ほどもある大穴が空いていた。後ろにある木にまで貫通して向こう側が見える。

「ええ、見事な光集束でした」

 手放しでメイスンが褒めてくれる。

 自分に対しては甘々なので、メイスンの褒め言葉は真剣になると当てにならないのだ、と最近になって分かった。が、目の前には大穴の空いた巨木があるのだ。成長した、という物的証拠であり、手応えを実感できる。

「まったく、一応、その木も私の所有物なんだけどね」

 クリフォードが姿を見せて告げる。金縁の施された赤いローブを身に纏っていた。領地の視察に回っていたらしい。

 苦笑いをしている背後にはゴドヴァンとルフィナの姿もある。仲睦まじげにゴドヴァンがルフィナの腰に手を回し、ルフィナもまたいとおしげに見上げていた。

(お二人とも何かあったのかしら?いつにも増して、熱々だわ。肩とか、ピッタリくっついてるもの)

 セニアはつい無遠慮にも2人をまじまじと眺めてしまう。

 放っておけば、そのまま口づけをしてしまいそうな雰囲気だ。

「セニア様、あまり視線を露骨に向けるのは失礼ですよ」

 メイスンが顔を寄せて耳打ちしてくる。

 慌ててセニアはクリフォードへと視線を移した。温かく向けられる視線が今度はくすぐったくなって、視線を落としてしまう。

「す、すいません、つい」

 木の穴とクリフォードのローブから覗くズボンとを見比べて、セニアは謝罪した。ひと呼吸おいてから顔を上げる。

「いや、いいんだ。君のためになるなら。見事な光集束だったよ」

 温和な笑顔を見せて、クリフォードが労ってくれる。

 撃ったときに、上へと射線を逸したからクリフォードたちにも先程の光集束が見えたようだ。

 端正な顔に正面から見つめられて、セニアはドギマギしてしまう。

(あら、おかしいわ、私。今までだって、クリフォード殿下には近寄られたり、いろいろ言われたり、してたのに)

 自身のおかしな状態にセニアは戸惑ってもいた。

 隣に立つメイスンが何やら満足げに頷いている。なんだというのか。

「セニアちゃんも順調に腕を上げてるし、ガラク地方の鎮圧も順調だからよ」

 ルフィナの腰に手を回したままゴドヴァンが口を開いた。ルフィナも微笑んだまま頷く。

「いよいよ次の魔塔を?」

 セニアはクリフォードからの視線を振り払うように前へ一歩出た。

「あぁ、その話をしようってんで、クリフォード殿下に直接呼び出されたんだ」

 屈託なく笑ってゴドヴァンが言う。

 自分が腑抜けたせいで、バラバラになりかけた前回と違い、今回は本当に順調だ。先んじてシェルダンと話をつけ、喝を入れてもらった甲斐もあるというもの。

(これもシェルダン殿を呼び出してくれたから、おじ様、ありがとう)

 セニアはメイスンに感謝した。

「今回はゴドヴァンさんと、私、セニアさんに殿下の4人しかいないから、厳しい戦いになるわよ」

 顔は微笑んだままなのに、ルフィナから受ける印象が変わった。どこか感情の奥底の方で金属を思わせるような、硬さと冷たさをセニアは感じる。

 ただ、たしかに4人での魔塔上層の攻略は初めてだ。

(でも、私はもう、イリスとかペイドラン君、シェルダン殿には甘えないって決めたの)

 セニアは決意新たに仲間たちを見渡した。

「シェルダンはともかく、ペイドランにはもう、シオン殿下の側についてて貰わないとだからな」

 言い訳するようにゴドヴァンが言う。

 セニアも賛成のつもりで頷いた。

「いま、広大化したドレシア帝国の、新たな領土を統治出来るのは兄上しかいない。父上はもう年齢がいっているからね。つまり、兄上を暗殺されでもしたら、それだけでこの国は傾くこととなる」

 さらにあとを引き取ってクリフォードが言う。

 まるで他人事のような口調だ。いざというときには、自ら国の舵取りをしよう、という気持ちは皆無らしい。

(殿下らしいといえばそれまでだけど)

 指摘したところで『私は燃やすこと以外駄目なんだ』と返されるだけだろう。

「勘の鋭いペイドランなら、暗殺を未然に察知して防ぐことにも向いていると思う」

 セニアの気を知ってか知らないでか、クリフォードが微笑んで言う。

 クリフォードに言われた事情がなくとも、セニアも今となってはペイドランとイリスを、魔塔に連れて行くつもりなどない。

 2人には先の魔塔で無理をさせた。自分が、傷つくあの2人の姿を見ることに、おそらくもう耐えられない。

(それにシオン殿下が亡くなったら確かに大変だわ)

 ドレシア帝国が魔塔どころではなくなる上、今、周りにいる人々の暮らしもどうなるのか。

(皆が不安になったら、きっとまた、新しい魔塔も)

 思い至って、セニアはゾッとする。

「さて、その2人に、シェルダン殿がいないとしても、私がおります。5人ではありませんか?」

 何食わぬ顔でメイスンが話に割って入る。

 一瞬、ゴドヴァンが信じられないほどに険しい視線をメイスンに向けた。ルフィナの視線も冷ややかだ。

「そうだわ、おじ様、今回からはおじ様もいてくれます。5人です」

 嬉しくなって、セニアも言い、皆の顔を見回した。ペイドラン達はともかく、自分より強いぐらいのメイスンの存在は心強い。

 だが、全員、微妙な顔で見返してくるばかりだ。

「あの、何か?」

 さすがのセニアも微妙な雰囲気を感じ取って、首を傾げた。

 ゴドヴァンがため息をつく。

「そいつは要らねぇ」

 端的にゴドヴァンが言う。

 あまりの言い方に、セニアはかえって動揺のあまり、咄嗟には何も言い返せなかった。固まってしまう。

 ルフィナも頷いた。

「私も反対よ」

 2人とも思ってもみなかったことを、予想外に強く言うので、すっかりセニアは混乱してしまう。

「え、そんな、2人とも、どうしてですか?」

 セニアはゴドヴァン、ルフィナへ交互に視線を送る。

 2人とも別人であるかのように、メイスンを冷ややかに睨んでいた。すぐには答えてくれない。視線で圧力をかけて、メイスン自身が思いとどまるように仕向けている。

「殿下も、おじ様の参戦には反対なんですか?」

 縋るような気持ちでセニアはクリフォードにも話の水を向けた。

 クリフォードが首を横に振る。だが、反対とも違うようだ。

「メイスンが参戦したいということも、お二人が反対であることも初耳だよ」 

 つまり、まったく当てにならないということだ。

「まったく、本当に生意気な野郎だ」

 メイスンと睨み合ったまま、ゴドヴァンが口を開く。

「そちらが睨むからでしょう?」

 涼しい口調でメイスンも返す。

 頼みのルフィナもメイスンに対しては冷たくて取り付く島もない。

 セニアはすっかり困り果ててしまうのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ゴドヴァンとメイスン。 合わないようで、これはセニアも困りますね、でもセニアの仕上がりも良さそうでこれはこれで期待ですが果たして!? 続きも楽しみです(*´ω`*)
[良い点] セニアさん、クリフォード殿下についに恋愛感情を抱き始めた感じですね‼ ここまで一途に思い続けた、ちょっと残念な感じの殿下を私は応援していますよ~(*^^*)ファイトォ [一言] ゴドヴァン…
[良い点] 皆納得して、修練もして、結束が高まってきた!とおもったら、やっぱり最後でそうなるんですね(;´∀`) 私的にはメイスンおじさま心強いし、他に居ないなら贅沢をいう場面でもない気がしますが、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ