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とある領主の備忘録  作者: G1fter
9/12

年385 5/9 Ⅰ

今日は一段とザッドの街が賑わいを見せている。皆が待ちに待ったトーナメントが開催される日だ。


すでに闘技場は多くの観衆でごった返している。彼ら巨人族は毎日の様に闘技場に集まり、力比べをしているが、今日の観衆の数はその比ではない。正に街を挙げての一大行事である。


この街に限らず、どの街でもお祭り騒ぎになるらしい。この大陸に住まう人々にとってはトーナメントは数少ない娯楽であり、己の名誉をかけ、技と技、力と力がぶつかり合う様に彼らは熱狂するのだ。


何とか人込みをかき分け、受付を済ませた後、他の出場者と共に待機所へ案内された。


トーナメントは総勢64名、全8試合を行い勝者を決める。出場者は試合毎に決められた訓練用の武器を使用し、個人もしくは集団戦形式で試合を行う。個人の力量はもちろんだが、集団での戦闘戦術にも長ける者でなければ試合を勝ち抜くのは難しい。


もし途中で敗退しても開催者の推薦によって敗退免除される事もあるが、優れた武芸と戦略を持っていることを示さなければ当然それも叶わない。


この限られた装備と状況の中で、実力をいかんなく発揮し勝者となった者には、名誉と名声に加え、賞金10万ゾルダスが与えられる。


今回のトーナメントは優勝経験のある常連の者達に加え、ガルダス大王と4人の諸侯達も参加する。受付付近では誰が勝つか賭けが行われ、観衆達が次々と出場者へと賭けている。どうやらガルダス大王とシーデルト族長が人気のようだ。出場者自身も賭ける事が出来るため、私も自分自身に500ゾルダス賭けておいた。もし優勝できれば賭け金を総取り出来る。


待機所では出番まで皆思い思いに過ごしている。顔馴染みと談笑する者、瞑想に耽る者、落ち着きなく周りを見渡す者など様々だ。


観客席の熱気も最高潮に達したところで、ついにトーナメントが始まった。第1試合は16人ずつからなる2組での集団戦形式で行われる。それぞれ赤・青のヘルムを装備し、開始の合図とともに突撃する。


集団戦、と言っても明確に戦略を練る時間はもちろんない。それぞれが周りの状況を瞬時に理解し、勝つ為の最善手を打つのだ。


こちらはシーデルト族長を筆頭に、見事な立ち回りで相手を圧倒していった。私も巨人族の闘士と立ち合ったが、何とか相手を下すことができた。攻撃をかわしつつ、確実に一撃を入れていく。軽そうな一撃でも剣で受けると吹き飛ばされそうになった。もしまともに喰らえば、たとえ訓練用の武器であっても1週間はベットの上で過ごすことになるだろう。


闘士を相手するのに精一杯になってしまったが、無事に勝ち抜くことができた。


次いで同じ形式で第2試合が行われ、これで64人中32人が勝ち残りとなった。ガルダス大王やシーデルト族長ら猛者たちが順当に勝ち残っている。


第3試合は4人ずつからなる2組が出場する。こちらは私含め人間が3人、対するあちらはシーデルト族長含む全員が巨人族だ。


少々不利だが文句は言っていられない。唯一運がいいとすればシーデルト族長以外は闘士になってまだ日が浅いことぐらいだろうか。


開始して間もなく、こちらの一人が倒された。その後相手の一人を倒すことができたが、依然こちらが劣勢だ。私はシーデルト族長と対峙していたが、彼の攻撃を捌くので精一杯だった。熟練の技と高齢とはいえ巨人族特有の怪力の組み合わせによって徐々に押され始めていた。


続けざまに繰り出される強力な一撃を受け続けたせいで、段々と腕に力が入らなくなってきた。咄嗟に距離を取ろうとしたが、彼がそれを許すはずもなく、すぐに距離を詰め剣を振り下ろしてきた。


何とか剣で受け止めたが、衝撃で吹き飛ばされてしまった。ここまでかと思われたが、他の闘士達を倒し終えた仲間が助けに入ってくれた。


全くそちらの戦闘の状況は見えていなかったが、後から聞いた話だとその男はたった一人で巨人族の闘士2人を切り伏せたらしい。名をジェンというその男は“剣聖”と称えられるほどの剣の腕を持っており、各国の王達からも一目置かれる人物らしい。普段は各地を転々とし、剣の修行に明け暮れトーナメントにも度々参加している。


互角に切りあう2人を横目に、剣を拾いあげ体勢を立て直す。一息入れ、加勢に向かった。


歴戦のシーデルト族長でも2人相手では流石に分が悪い。申し訳なさも残るが真剣勝負である以上仕方ない。勝負は決し、我々が勝ち上がりを決めた。


試合が終わった後、ジェンに加勢への感謝を伝えると笑いながら気にするなと言ってくれた。待機している間、彼と話しながら過ごしたが非常に人当たりが柔らかい男だった。残念ながら長く話している暇はなかったが、機会があれば是非また話をしてみたいものだ。剣の稽古を頼んでみるのもいいかもしれない。

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