短くなった髪
ケースケとショウに抱き抱えられ、リビングのソファーに横になったキヨミは、三十分ほどすると自力で起き上がれるようになった。
「おい、だいじょうぶかよ」
ケースケが心配そうに覗き込む。ショウは気を利かせてココアを入れてくれた。
「二人ともありがとう」
こわばった表情筋で笑みを作る。
二人は何か言いたそうな顔をしていたが、深く追及してくることはなかった。
キヨミは自分の頭に手をやり、髪を撫でる。
スッとすぐに無くなってしまった髪にため息をこぼした。
「たいしたことじゃないんだけど…
自分の姿にびっくりしちゃって」
バカみたいでしょ?と笑ったキヨミにケースケは顔じゅうにはてなマークを浮かべ、首を捻る。
「は?
普通に可愛いぞ?」
そう口にするケースケに、そういうことじゃないだろう、とショウは睨みを効かせた。
二人は同い年のはずだが、精神年齢はショウの方が上らしい。
「俺もそうは思うけど、そういうことじゃないんだろう?」
ショウは心配してキヨミを覗き込むが、それ以上に『可愛い』と言われた事実にドキマギしてしまう。誤魔化すように慌てて口に含んだココアは、少し熱かった。
「昔から髪伸ばしてて…でも、切ったみたいだから、驚いちゃって…」
改めて口するとあまりにも些細なことのように思えて、二人に呆れられるのでは、と声が尻つぼみになった。
「髪は女の命っていうもんね」
「失恋でもしたんじゃねぇの?」
慰めてくれるショウに対してケースケはあっけらかんと告げた。それをショウがまた睨みつける。
「うーん、それは…ない、と思う」
口には出さなかったが、中学二年の時一つ上の先輩にフラれていた。
もう卒業だから、と勇気を出したのだが玉砕だった。
その時ですら、髪を切る気は毛頭なかった。
だからフラれたからという理由で切ったとは思えない。
「もしかしたら事故だったのかもよ?」
「事故…」
ショウは、大きな事故にあって入院先の病院でカットされたんじゃないか、と仮定を立てた。
それなら死んでしまったという状況にも繋がる。
あの時感じた痛みと苦しみが記憶の一部だとしたら。
キヨミは記憶を取り戻すことが、怖くなった。
「例えばの話だよ
そんなに怖がらないで
今日はもう寝ちゃいなよ」
「そーそー
嫌なことは寝て忘れちまえよ
何なら添い寝してやろうか?」
ニシシ、と犬歯を見せて笑ったケースケが、ショウにポカリと叩かれた。
懲りないな、と思う一方で元気付けようとしてくれているのが伝わってきて心が温かくなる。
一人じゃなくてよかった、と心の底から思った。
ミカの部屋はベッドの横に出窓があって、そこには小さなぬいぐるみがズラリと並んでいた。その一つに見覚えがあった。
手のひらサイズのそれはペンギンで尻尾を押すと歌い出す。何の歌かは今聞いてもわからなかった。
白かった空は灰色がかった闇色に変わっていた。星一つ見えない空は薄寒く感じる。
その日はそのペンギンを抱えて眠りについた。