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永遠のはじまり  作者:
8/26

記憶の鱗片

キヨミの父親はキヨミが小さな頃、いなくなってしまった。

死んだのか、離婚したのか、逃げたのか。それは知らない。

母親は一切父親の話をしなかったし、父親のことを口すると酷く怒った。それが原因で殴られたことも一度や二度ではない。


それでも、僅かに残っている記憶の中の父親は優しくキヨミを撫でてくれた。


『キヨミの髪はまっすぐで黒くて綺麗だな』


そういって何度も髪をすくように撫でてくれた。


だからキヨミはずっと髪を伸ばしていた。小さいうちはシャンプーもドライヤーも大変だったが、頑なに短く切ることはしなかった。小学校二年生になる頃には手入れも手慣れ、母の椿オイルを勝手に使ったりもした。

唯一父に褒めてもらった髪は自慢だった。



「どう、して…?」


鏡に映るキヨミの髪は短く切られている。

なくしてしまった記憶の中で何があったのか、途端に怖くなった。


ピシッ


頭にひび割れたような痛みが走る。

髪を思い切り引っ張られているような痛みと、溺れているような苦しみがキヨミを襲う。胸が引き裂かれたように悲鳴をあげる。


苦しげに吐き出される息はか細い。

なくした記憶は酷い痛みを伴って戻ってくるのか、それともなくした記憶自体に痛みがあるのか。


ガタッ


立っていることもままならず、キヨミは倒れ込んだ。

程なくして洗面所の扉がノックされた。


「おい、どうした!?」

「キヨミちゃん?大丈夫?」


ケースケとショウの声が聞こえて、僅かに呼吸が楽になるも、口から出るのはヒュッと喉の悲鳴。

生理的な涙が止めどなく溢れて視界が定まらない。

震えて上手く動かない手を叱咤し、扉の鍵を開ける。時を置かずして開かれた扉。


ケースケとショウの顔が近づく。焦ったように何か捲し立てているようだが、キヨミの耳には届かない。

キヨミは「助けて」と音にならない声をあげた。

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