楽しい夕食
せっかく大勢のお客さんが来てくれたのだから、とおばあちゃんが腕によりをかけて夕食を作ってくれた。
正直言えば、長くこの世界にいるであろうあばあちゃんにすぐにでも色々聞きたかった。
手伝いながら交わす会話は昔の事ばかりで、キヨミもついつい楽しくなる。昔はおばあちゃんの周りをチョロチョロと邪魔ばかりしていたが、少しは役立てるようになったことも嬉しかった。
その頃男性陣はトランプをしていた。
男子厨房に入るべからず、なんて古い諺を実行したわけではなく、背の高い男が二人もいたらキッチンが狭くなるからである。適材適所というやつだ。
「くそー、負けたっ!」
「やったー!」
「もう一回やるよ!」
小さな子供相手に大人気ない声を背に着々と料理が作られていく。
「まだ作るの?
おばあちゃん疲れたんじゃない?」
「大丈夫よぉ
ここへ来てから腰の痛みもなくて、若返ったようなんだから」
鼻歌まじりにそう答えるおばあちゃんは確かに動きが若い。
今まで何となく死んだ時の姿でここへ来ている認識だったが、そうではないのかもしれない。
実際に死んだ瞬間ならケースケとショウは、スプラッタな姿になっているだろう。何か法則があるのかも。
そんなことを考えている間に最後の料理が完成した。
楽しい楽しい夕食の始まりである。
カチャカチャと箸と食器がぶつかる音が絶え間なくし、その間を縫って「うめぇ」とか「美味しい」とか短く言葉が飛ぶ。
食べ盛りの男の子の食欲にキヨミは目をパチクリさせた。
「よく食べるね
確かに美味しいけど」
モグモグとマイペースに食べるキヨミとマコトにおばあちゃんがせっせと料理を取り分けてくれた。それがなければ、食いっぱぐれた料理があったかもしれない。
それくらいケースケとショウはよく食べた。
「だってすげぇ久々だもん
こんな美味い手料理」
どうやらここへ来てから弁当やインスタントばかりだったらしい。
飲食店はあるものの、作り手がいない。ショウが作れるものはカフェ飯だけで、いわゆる家庭のご飯に飢えていたのだ。
「とくに行く当てがないなら、ずっとここにいてくれてもいいんだよ
マコト君みたいに」
食後のお茶を啜りながらおばあちゃんはニコニコと告げる。息子夫婦の住居であった二階と三階を自由につかっていいとも言ってくれた。
三人はありがたくその申し出を受けた。
「それはそれとしても、やっぱり自分の家を見つけたいんだよね
おばあちゃんは見たことない?」
家の現状を見れば思い出すこともあるかもしれない。
それに今のところ他に手がかりもなかった。
「キヨミちゃんちかい?
んー」
おばあちゃんは目を閉じて考え始めた。
が…。
「……スー……スー……」
「あばあちゃん…?」
おばあちゃんの口から出てきたのは寝息だった。
「…やっぱり疲れたのかな?」
「あれだけのご馳走を作ってくれたしね」
寝かせてあげよう、とショウが寝室であるおじいちゃんの部屋へと運んでくれた。
その間、それを不安気に見つめていたマコトに気付いたのはケースケだった。
「どーした?
おまえも寝るか?」
「…うん」
マコトは大きな目をでケースケをみつめる。
何かを訴えたそうな表情をしたが、小さく頷いて寝室へと消えた。その後ろ姿にケースケは首を傾げつつもそれぞれ眠りにつく準備を始めた。
キヨミはミカの部屋を、ケースケとショウはミカの両親の部屋を使うことにした。
寝る前に軽くシャワーを浴びたいと言えば、ショウがレディファースト、といって最初に使わせてくれた。
鍵も付いてるし心配することはないだろう。一階にはおばあちゃんもいるわけだし。
そんな軽い思いで向かった洗面所で、思いも寄らない事実と対面するとは、この時は夢にも思って見なかった。