お別れも突然に
おじいちゃんはそれに気付いた時も慌てることなく、ただおばあちゃんの手を両手で握った。
「ばあさん…待っていてくれて、ありがとう」
「おじいさん、どうしたんです?急に…」
昔気質のおじいちゃんは寡黙で愛の言葉どころか、感謝すら滅多に口にしない人だった。
それは当時では珍しくもない。
見合いを経て結婚が決まった時、おじいさんは「結婚してくれてありがとう」と言った。それ以来ではないか、とおばあちゃんは驚きつつ照れる。
「わしは嫁に来てくれたのがばあさんでよかった
ばあさんは…わしでよかったか?」
おじいちゃんの眉尻が下がり、弱気な態度におばあちゃんは更に驚く。
だが、コクコクと頷いて顔をくしゃりとさせた。皺を縫うように涙が流れる。
「ええ、ええ…幸せでしたよ」
おばあしゃんの体は透けていて、手足の先端から綻ぶように白い霧となり拡散していく。
「また、先に行きますけどね
大丈夫ですよ
また一緒になれますから…」
おばあちゃんはそれだけ言い残すと消えてしまった。
キヨミは衝撃のあまりただただおばあちゃんの座っていた場所を見つめていた。
頭が割るような痛みに襲われながら。