プロローグ1
目を開けたらそこは異世界でしたーー
そんな漫画があったな、と私はぼんやり思った。
そんなこと起こりうるはずがないのに、見慣れない街並みに現実逃避してしまったのだ。
見慣れないとはいっても、私の目の前に広がっている風景は、ありふれた日本の路地。
薄く霧がかっているので遠くまでは見渡すことは叶わないが、暗いわけではない。おかしな天気の空を見上げてもどこかぼやけた白い空があるだけ。
夢…なんだろうな。
そう思えど、不安を隠しきれずキョロキョロと辺りを見回す。
道路の幅は車がすれ違えるぐらいだろうか。両側に家が立ち並んでいる。
これといった特徴のない道だ。
「あ、あの家…」
二階建ての住宅が建ち並ぶ中、三階建ての少し洒落た家は見覚えがあった。
小さな庭は色とりどりの花で賑わっている。
それは私の幼馴染の家だった。
自宅の裏手に位置する通り沿いにあり、二世帯住宅になっていて、幼稚園の頃はよくおばあちゃんにお菓子をもらったものだ。
そのおばあちゃんが亡くなってからすぐに引っ越してしまって、今はどうしているのか知らない。
この家に今誰が住んでいるのかも。
何でこんなところに居るんだっけ?と、ぼんやりと辺りを見回した時、突然二つの顔が現れた。
「うぁあああ!?」
驚きの余り思わず変な声を上げてしまい、恥ずかしさに慌てて口を塞ぐ。とはいえ漏れでた声は引っ込むことはないのだが。それに目は大きく見開いたままだ。
私の顔を覗き込んできたのは高校生らしき少年。
一人は金に近い髪色をしてニカッと笑っている。
もう一人は黒髪で何かを探るように私を見つめていた。
二人揃って随分と背が高い。私が156センチだから、170センチ以上はあるだろう。恐怖を感じるには充分な状況だ。
青ざめながらわずかに後退りいく私に金髪の少年が慌てて声をかける。
「待って、俺たち怪しいもんじゃねぇから!!
怯えんな?な?」
「…怪しい奴は大抵そう言うけどな」
「ショウ!おまえなぁ…!」
「ケースケは見るからに怪しいしな」
「ひでぇ!!
どこにでもいる、いたって普通の高校生なのに」
二人の掛け合いにふと同じクラスの男子たちを思い出す。
ちょっとヤンチャだけど、いつもみんなの笑いの中心にいた。先日のクラス懇親会でカラオケを提案して多くの指示を得ると同時に、先生に目をつけられていた。
何だか凄く懐かしいような気がして頬が自然と緩む。
「お、笑った」
気付けば黒髪の少年ーーショウが私に笑いかけている。金髪の少年ーーケースケもホッとしたようにこちらを見ていた。
二人に出会えたことは、私にとって凄く凄く幸運なことだった。そのことに気付いたのは、別れが目の前に迫った時だったけれど。
二人が側にいてくれたから、私は最期まで笑っていれた。私は全てを受け入れて進めたんだ。