第4話
「相変わらず諸星くんは素直じゃ無いねえ」
「でたな、マッドサイエンティスト」
そんな中、白衣姿のやたら長身の女子が、タープの陰からぬっと出てきた。髪型とその色自体は由実と大差ないが、髪質が固めのためモサモサではなくボサボサしている。
「マッドは酷いなあ。ちょっとばかし、合法的な媚薬を開発してるだけじゃないかセンセイ氏ー」
「ちょっと、やら、だけ、とそれを片づけるのがマッドだと言っているのだ。ハカセ殿」
「おお! なんてこったい!」
3人の幼なじみで、名前は西宮原雅。顔は極めて良いが、奇怪な行動が目立つので友達はあまりいない、総合科学同好会唯一の部員だ。
とりあえず短くした、といった無造作な黒髪頭を両手で押えて叫ぶ彼女は、フハハ、と軽口を叩きあった由実と共に、悪役のような笑い声を上げる。
「で、どうだね。肉の味は」
「おいひい……」
「そいつは上々であるな」
口の中で霜のふった肉から溢れる、脂の上質な旨味が口に広がり、思わず顔がほころんだ様子を幼なじみ3人に温かい目で見られ、赤面して真顔を作った。
「しかし、真梓くんは美味しそうに物を食すものであるから、こちらとしても非常に作りがいがあるというものだ」
「マズくても力の限りマズそうにするから愉快なんだよねぇ」
「分かるー。あのまきまきされたグミ食べたときの顔傑作だったー」
「……。大田さん、これ持ってて」
「はい」
そのときの事を思い出した真梓は、美名美に皿を預けると、騙して食べさせた雅と美姫の2人を無言で追い回し始めた。
「ちょっ、マーちゃんこわいこわい!」
「あのときはごめんってー。見た感じタピオカっぽいからいけると思ったんだよー」
「いけるわけないでしょ!」
裏庭を右往左往している3人の表情は、言葉とは裏腹に楽しげな様子だった。
「あの3人は実に愉快でな。見ていて全く飽きないのだよ」
由実はクツクツと笑いながら、オリーブ油が追加されたスキレットに、肉用のトングで肉を上に乗せて塩胡椒の混合した物をかける。
「まあ、美名美くんは一緒にいて、全く面倒が無いから良いがね」
「由実先輩って、なんだかんだ言う割には、結構他人に優しいですよね」
「ほう。営業妨害かね?」
「どこに売り込んでるんですか」
心外だなぁ、ととぼけながら、肉焼き用のトングで肉をひっくり返した。
「なあに、私にメリットがあるはぐれ者どもなのだ。こちらが良い思いばかりするのは都合が良すぎるというものだろう」
「ギブアンドテイク、と」
「いかにも」
スキレットから手を離した由実は、焚き火台の薪が少なくなっている様子を見て、素早く薪を追加してまた元の位置に戻った。
「それにしても意外ですね」
「私が群れている事かね?」
「はい」
「群れと言うよりは、偶然に単独行動個体が、ここに群がっているだけだよ。言うなれば幹に集まるカナブンの様なものだ」
「カナブン……」
その例えに、美名美は分かった様な分からない様な顔をしている。
「カナブンは酷いなあ。華のあるオオムラサキにしてくれよセンセイ氏」
「ハカセ殿にそのような優雅さがあるとは思わんがね。カナブンで十分だ、カナブンで。私も含めてな」
「じゃあ私スズメバチにして貰える?」
「別に良いが、彼女は樹上では雑魚だがいいのか?」
「ええ……」
「じゃー、美姫はプラチナコガネでー」
「面白いチョイスだ」
もう一度肉をひっくり返してから、ニンジンをスキレットに放り込んで炒める。
「オオムラサキの称号は我々変人より、美名美くんがピッタリであろう」
「ああ。納得だね」
「まあ、そうね」
「めっちゃ強者ー」
「ど、どうも……」
言ってることはやや適当だが、全員の言葉には全くイヤミが無く、美名美は恥ずかしそうに視線をずらす。
「焼けたぞ美姫くん」
「わーい」
先程と同じ様にススっと肉をカットして盛り付け、バンザイして喜ぶ美姫に提供すると、彼女はすぐに食べて、うんまい! と目をかっぴらいて言った。
「さて次は美名美くんだ。焼き加減はミディアムレアで良いかね?」
「はい、お願いします」
「うむ」
「あれ、ボクじゃないの?」
「文句があるなら自分で焼きたまえハカセ殿」
「加減分からないんだけど」
「まだ黒焦げ一辺倒なのかね貴殿は。食材が勿体ないから治せといっているだろう?」
寮暮らしが終わったらどうするんだね、と唇を尖らせる雅に呆れた様子で由実が言うと、
「センセイ氏のウチに転がり込もうかな」
「止めてくれたまえ。私は曲亭馬琴ではないのだぞ」
「北斎みたいに散らかすのはセンセイ氏だけどね」
「やかましい。肉を食わせぬぞ」
「ごめんてセンセイ氏ー。直接的なのはやめてくれよー」
食いっぱぐれだけは勘弁なので、恥も何も無く情けない声を出した。
「よかろう」
殊勝な態度の雅に対して、由実は特に気にしていない様子であっさりと許した。




