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ジョニトリー!  作者: 夜鷹亜目
ジョニトリーと甘い夏!
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第二十五話

「楽しそうに何の話をしているんだ司。それに兄上」


 いや、貴方の兄上になった覚えは一切無いんですが。

 サンダルで砂地を悠々と歩きながら立木見さんがやって来た。

 肩紐の無いオフショルダービキニは青を基調としていて、ひらひらとしている。


 そして肝心要のボディー(彩音の言葉を借りるならバデー)だが……不遜な態度とは裏腹に、とても慎ましい体型である。だが直截に告げたら怒りを買うのでここは褒めておこうではないか。当たり障りなく、『とってもよくお似合いですよ』とでも言っておこう。

 が、そう口にするよりも早く、立木見さんが獲物を前にした猛禽類の如き瞳を向けてきた。


「死ぬか?」

「テレパス!?」


 恐れ戦く俺を他所に、彩音が口を開く。


「別に大した話題ではありませんよ。それより、獅々田さんはご一緒じゃないんですか?」

「可憐か。何やら意気消沈としていたみたいだったが、私が着替えの手伝いをしてやろうと進言したらあからさまに避けられてしまってな。それからの行動は分からん」


 獅々田さん、車中でも無言だったからなぁ。何があったのか尋ねるのも憚られるぐらいに、ネフェルピトーみたいな黒いオーラを垂れ流していた。……まぁ、立木見さんに着替えの手伝いをさせなかったところを鑑みるに、自棄にはなっていなさそうだ。一安心。

 と、胸を撫で下ろしていたら立木見さんが睨みを利かしてきた。


「何やら失礼な事を考えていないか愚兄よ」

「め、滅相もございません! ――って、愚兄って最早太田家の仲間入りしてまぁまぁ打ち解けたみたいな雰囲気漂い始めてません!? ――っててて、何で『やれやれ今更の事を』みたいな感じで肩竦めるんですか!?」

「皆まで言わすな」


 言ってくださいよ。

 と、立木見さんの眼光が鋭く光った。そして素早い身のこなしで砂浜を駆け出す。

 言い方はあれだが立木見さんは普段から奇行種なので俺は「ほへー」と見送る。俺の横で彩音も「ほへー」と見送る。傍目からすればきっとバカ兄妹。

 ともあれ立木見さんの行く先へ何となしに目線を滑らせ、そこで俺は声を漏らした。


「あれは、獅々田さん?」


 俯き加減ではあるが、俺には分かる。肩甲骨付近まで伸びるサラサラの黒髪。間違い無い。ドキドキメモリーズの千春ちゃんを彷彿とさせるあの姿は獅々田さんだ。

 腰には緑色の布地に蝶や花が刺繍されたパレオを巻いている。そして俺が特に目を引かれてしまったのは上。パレオと似たデザインのトップビキニ。それを着た胸部。でかい。あれはEはあるね(童貞)。


 とまぁ、獅々田さんの恰好はさて置いて、それよりも気にかかったことがある。彼女の横に立つ二人の男性だ。

 海パン姿の男性たちは、俯く獅々田さんに何やら声をかけているみたいだった。軽薄そうな笑みを浮かべて、身振り手振りで何だか楽しそう。しかし、その中心にいる獅々田さんは口を結んだまま。


「あれはナンパでありますね。間違いなく」


 彩音の言う通り、ありゃナンパだろう。

 獅々田さんも鬱陶しいだろうに、あんな連中適当にあしらって逃げ出せばいいのに。

 胸中にぷくりと形容しがたい感情が沸きあがる。と。


「まだ引き摺っているのでありますかね」

「引き摺る? 何を」


 すると彩音は俺に横目を向けて。


「ここに来るまでずーっと獅々田さんだんまりでありましたけど、更衣室でぽつりと呟いていたのでありますよ」

「だから、何を」


 尋ねながら獅々田さんの動向を窺うと、彼女は相変わらずで。代わりに、傍らに立つナンパ男が手を動かした。それは、彼女の白磁の肩。

 たまらず駆け出そうとして。


「獅々田さん。フラれたらしいんでありますよ。『フラれた』って呟いていたであります」

「し、獅々田さんが、フラれた……って!?」


 唖然。

 同時に、呆然。

 何故なら、ナンパ男がニヤニヤと下心満載の顔で獅々田さんの肩に触れようとした瞬間。彼のそのニヤニヤ顔は横からひしゃげたから。

 そりゃ呆然とするでしょう。だって、ナンパ男の面がひしゃげたのは、駆け寄っていた立木見さんがその横っ面に跳び膝蹴りをかましていたからだ。

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