リピート能力
物心つく前から俺にはとある能力がある。だが、それは俺の意思に関係無く発症するため結構使いにくい能力だ。結論から言うと、俺は時間を戻せるようだ。例えば、学校のテストで悪い点数を取りお母さんに怒られると不安を仰いだとき、公園で遊んでいてちょっとした石ころに躓いて転んだとき、俺自身が嫌に思ったタイミングでそれは起こりやすい。100%ではないがかなりの高確率でその能力は発症する。
この能力を家族や友人に話したことがある。それは俺が小学校に入る前、このような能力が他の人にも備わっていると信じていた時期だ。結果は言わずもがな、誰も信じてはくれなかった。その時に気づく。この能力を持っているのは自分だけで、他の人はそもそも能力なんて持っていない、と。
嫌な出来事があれば、その出来事の前に戻ってやり直しができる。控えめに言って最高だ。なぜなら、失敗した経験を残さないまま人生を進められるからだ。俺は小学校、中学校、高校と常に満点の成績で卒業していく。もちろんテスト前に戻ってやり直しをするので絶対にバレないカンニング方法だ。教師共には何度も疑われ、その度に失敗もした。だがその度に何度もやり直して成功の人生を築いた。
もちろん学校関係だけじゃない。好きな女の子が別の男に告白しようものなら過去に戻ってその男を貶める。それでも駄目なら他の方法で。これを繰り返して好きな女の子を欲しいままにする。まさに俺のものは俺のもの。お前のものも俺のもの。ジャイアン状態。
大学に入ってからも俺は欲しいものは全て手に入れ、嫌なことは全て払ってきた。だが二十歳になったある日、突然俺は自分の能力が使えなくなった。テストで悪い点数を取ろうが、彼女にフラれようが、何をしても人生を戻すことは出来なかった。
俺は能力を失い、あるべき人間の姿に戻った。本来、人間は能力を持っていない。それは幼少期に分かっている。平等であり対等てもある。ならば普通の人間のように人生を謳歌すれば良い。だが俺はそれが出来なかった。
自身の能力にかまけて生きてきた俺は、普通の人生の歩み方を知らない。貶め、欺き、隠れ、威張る。俺の本来の能力では成功なんてものは縁遠く堕ちるところまで堕ちていった。
大学。もちろん単位なんて取れない。留年を繰り返し、そのうち辞めた。
就職。もちろんしていない。採用してくれる企業はどこにもなかった。
バイト。失敗の連続で、何処も彼処もクビの連続。
恋愛。ただただ遊んでるだけの俺を好いてくれる人はおらず、出会いすらない。
家族。俺は自暴自棄になり反発しまくったせいで家を追い出された。
ホームレス生活。家は無い。金も無い。友人もいない。家族もいない。俺は何も無い。
俺は、能力だけを頼りに生きてきた自分の人生を悔いた。ここまで堕ちて初めて、どれだけ自分が愚かな人間だったかに気づいた。反省するには遅すぎる。もう何も取り戻せない。人生はやり直せないからだ。
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気がつくと目の前で母が苦笑していた。この光景、どこかで見た憶えがある。そうだ。幼少の頃、母に能力を打ち明けたときだ。頭が混乱する。俺はさっきまで寒空の下、ダンボールの中で眠っていたはず…。もしかして能力が発症してここまで戻ってきたのか?それともこれまでの人生は全て夢の出来事か?
そんなことはどうでもいい。俺は幼少期まで戻って来れた、いや今の俺は小学校に入る前の子供なんだ。もうあんな目には遭いたくない。やり直そう。今度こそ素晴らしき俺の人生を。