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02

都合よく眠っていた私は平和と国の象徴だったらしく、何より私が戦っていた時代より遥かに国土が広くなっていると報告を受けた時も衝撃だった。あんな小国だった国が、いつの間にか異世界第一位を誇る大国になってるって言われたら、びっくりするよね。


これってジェネレーションギャップですか?


あ、違いますか。そうですか。


寝起き早々、色々と説明を受けていたのはいいけれど、今まで眠り続けていた私と目覚めて話始めた私のギャップにも周囲は驚いているようで、ぶっちゃけ何度か「お願いですから口を開かないでください」と神官に懇願された。


ひどい。


神格化したのはそっちの勝手でしょうが、と言いたいところだが、今の神官にはジョークが通用しなかった。現代っ子コエェので黙るとする。


で、今回。


長きに渡り眠り続けていた私がなぜ目覚めたかと言えば、自然に目が覚めたわけではなく、強制的に起こされたという方が正しい。


世界に名だたる神官達や魔法使いをかき集め、百八人がかりで魔方陣を構成して叩き起こされた。


神々しいまでに魔方陣の光に照らされて、結晶が解け切って私が目覚めたと理解された瞬間、周囲から「おお」と感嘆と感涙が零れたものの、開口一番に「あと五分寝かせて……」って言った私は悪くない。

だから「口を開くな」と言われてしまう羽目になったんだが、現状を理解できていなかったんだから仕方ないじゃないの。


とりあえず、近場で力尽きそうになっていた神官の頭をぐりぐりと踏みしめながら「で?」と言えば、誰もがその状況に蒼白していたのだが、やがて現代の教会で一番偉いメタボな神官長様が私の前に両ひざを付きながら懇願した。


世界に平和をもたらし、世界第一位の大国でありながら、国家転覆の危機にさらされているので助けてほしい、とのこと。


足の下の神官を助けてほしいという懇願ではないことに驚いたので、踏む力を強めるとする。


魔王も居ない、魔物が押し寄せてきてるわけでもないと聞いたばかりなのに、国家転覆の危機とはこれいかに。


と、詳細を尋ねたところ、すべては去年の暮れに召喚した六代目の聖女が起因となっている。


異世界から召喚したまではよかったものの、彼女は国の権力者を次々と虜にし、侍らせ、国家予算を湯水のように使う悪女らしい。

周囲がどれだけ苦言を呈しても「私は聖女だもの」と愛されるのが当然で「何が悪いの?」と可愛らしく首を傾げるそうで。


そのまま首がもげてしまえばいいのに、と非モテ系神官(女)がポソリと呟いたのを聞いて、思わずドンマイと言ってしまった私は気の利く初代聖女です。


清き一票をよろしくお願いします。


地べたに這いずったままゼェゼェと息を切らしている神官を、足の裏でぐりぐりしながら、ふんふんと相槌を打つ私に「そろそろ解放してクダサイ……」と別の神官がカタコトになりつつ、顔を真っ青にしながらカタカタ小刻みに震えて苦言する。


私を強制的に起こした揚句、魔力切れを起こした神官に対して、情状酌量の余地はないと思うの。


第一、私を強制的に起こすために百八人もの神官が必要とか人員割き過ぎなんじゃないかと思う。


私は煩悩かと。そんな扱いされたら除夜の鐘だって私に気を遣うわ。


六百年前に眠りについた時はたった二人がかりだったのに、最近の若者はこれだから、って苦言し返せば、周囲がざわりと狼狽える。


そりゃそうだよね、私の外見年齢は二十歳で止まっているから最近の若者って言われたら「お前もだろう」と言いたくなるだろうけれど、プラス六百歳なんだから、現代に生きる連中はたとえお爺ちゃんであっても年下だ。


正直言って、六代目聖女如きに初代の私が遅れをとるとは思えない。


魔力の使い方だって眠っている間に退化しているっぽいし、文明はさほど進んでいないとなれば、異世界の知力なんてその程度と思わずにはいられない。

せめて鉄道くらい走っていたら見直したかしれないけれど、今の異世界はまるで危機感がないし弛んでいると言っても過言じゃない。


ただ、異世界では六百年だけれど、地球で六百年といえば結構長い年月だ。


もしかしたら私の時代には成し得なかった、車は空を飛んでるかもしれないし、青い狸みたいな猫型ロボットも実在しているかもしれない。

異世界はそれほど進んでないからよかったにしろ、地球に関する知識の遅れの差みたいのは有るし、もしかしたら言い負かされるかもしれないなと。


六代目聖女の話を聞いていれば、真っ先に思い浮かぶのが乙女ゲームという世界感を持ち込んでいるように思えるんだけれど、もしかしたら現代の地球ではリアルの男性が恋のシュミレーションをしてくれる、レンタル彼氏的なものがあったらどうしようかと思う。

彼女は当然のように権力者を侍らせているというけれど、現代の地球でそれがブームになっていて「えー知らないんですかぁ? 遅れてるぅ!」とか言われたら泣く。

むしろ六代目聖女に六百年の遅れを取り戻すべく、そこんとこを媚びへつらって詳しく聴きたい所存である。


色々思案しながら、ようやく足元の神官を解放してやれば、控えていた騎士達が神官を慌てて回収した。


「初代聖女様……どうか力をお貸しください。我々ではもうどうしようもないのです……」


はらはらと涙ながらにして語るメタボ神官長に続いて、次々と神官や騎士、侍女達が跪く。


切実過ぎる懇願の声に、私は寝起きの頭をぽりぽりとかきながらため息をつかざるを得なかった。


「……眠いんだけどなぁ」


ポツリとつぶやいた私の言葉に「まだ寝る気か……」と頭を垂れたまま騎士の一人がツッコミを入れたのは、聞こえなかった事にする。

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