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当魔法はライセンス制となっております

 あれから数日。

 不眠不休で情報収集に励んだ結果、いくつか重大なことがわかった。

 ひとつはこの世界にコンビニやスーパーといった食料品を扱う店がほとんどなく、代わりに通信販売が興隆を迎えているということ。

 魔法仕掛けの転送装置があったことを覚えているだろうか。あれと同じ原理で、自宅にある転送ポッドなる特定座標を指定することで購入後即納品という離れ業が可能となっていた。速達の極致ともいえる所業の裏で安全性はどうなのかといった声も那由多の中で上がったが、まったくもって問題なし。転送魔法に、対象座標に人間も含む異物があると起動できないセーフティが設けてあるおかげで、いわゆる合体事故や腕を持っていかれる人身事故は未然に防がれているらしい。

 腹を空かした那由多も早速通販を利用しようとしたが、ここで問題が生じた。

 入金方法だ。

 アベル統一国における入金方法及び金銭の管理方法は至ってシンプルで、自身の魔力波長を登録して口座を作り、そこからお金をやりとりするといったものだった。なんでも魔力波長は遺伝子と同じく、いやそれ以上に個人差のあるものらしく、一卵性双生児でさえ同じ波長を形取ることはないという。よって偽装も不可能であり、安全面でも最高の方法だと言える。

 ただし、那由多は別だ。残念ながら魔力を生成する組織がないそうなので、当然魔力波長なるものを感知できるはずもなく、口座の登録は頓挫した。ダメ元でミーナにやらせてみたらこちらは一発成功。やっぱりこいつ魔法使えるんじゃないかと那由多が勘繰っていたが、ミーナはどこ吹く風でゲームに夢中になっていた。結果として出来立ての美味い料理と酒を手に入れたので、当面の問題は解消された。

 最低限の家具も買い揃えて那由多が次に強い関心を惹かれたのは、転送装置だ。

 転送装置には宅配用と移動用の二種類あり、居宅には宅配用しか設置できないというルールが設けられていた。これは先の事故防止機構でも触れていたことだが、転送装置の安全性が確立したとの話だったが絶対的に防ぎきれるものではないらしく、転送魔法が発展したいまでも年に十件ほどは事故が起きているという。たかが十件なら交通事故なんてどうなるという話だが、安全性を高めたい国は移動用の転送装置を屋外の定められた場所にのみ設置することを許した。これには外出できる程度のドレスコードを保たせる狙いもあるそうなので、自宅に転送装置が置かれる日はまずこないそうだ。

 種類の分別ができたところで、肝心のはその使い方だ。

 こちらも簡単。向かいたい座標を指定して魔力を流し、そのエネルギーで転送魔法が起動、行使されるという。

 俺、使えねーじゃん。

 と嘆く那由多だったが、魔法の技術が未発達な子供のための措置として、親御さん向けに家族で使える転送装置も用意されていた。こちらは一人が魔法を使えば装置内の人間が一堂に転移できる代物だ。一人でどこか遠くへ行きたくても行けないが、付き添いがいればどこにでもいける。移動距離によって使う魔力量は上下するそうだが大した問題ではないらしく、しばらくは困ったらミーナを拉致すれば済む話だと一人ごちた。

 自身が貰えなかったことで若干の不公平を感じているチートについては、調べれば調べるほど情報が沸いて出てきた。倒すべき敵もいないので攻撃系のチート持ちはその能力を持て余しているようだが、変化に富む能力の持ち主は文明の発展に一枚噛むこともあれば、自世界由来の技術と掛け合わせて新商品を開発しては大金を得ているそうだ。概ね好意的な解釈をされているチート能力者たちだったが、一部では先日耳にした新法制定の元となったアルケミストの悪さが紹介されているなど、良くない評判が上っていることもあった。

 チートが万人に使えるべく一部のチート持ちが協力して能力の研究をしているという記事があったが、芳しい結果はいまだ得られていないらしい。神からの授かりものとあって、解析は難しいか。

 本題にして命題である魔法の探求については、予想以上に困難を極めるものだった。

 なんでも、一部の魔法はライセンス制となっており、習得するにも資格がいるのだ。

 これには国防が大きく絡んでくるのだが、たとえば一般市民が国会議事堂すべてを覆う炎を吐き出せるとしたらどうなるか。

 当然、そんな奴は玄関前に立つ前に拘束される。

 だが火炎系魔法一つ取っても、溶鉱炉や金属の溶接など、活躍すの場面は多岐に上る。使用禁止という選択肢などあるはずがない。そこでライセンス制を導入することで、一部の人間をその道のプロとして指名することで一般市民を害のない魔法使いのレベルに引き落とすことに成功した。

 そういった背景があるためか、魔法の仔細に触れる記事は驚くほど少なかった。要ライセンスの魔法で実用的な記事は皆無だったといっていい。国防案件ということで多くの人員を雇ってネットを監視しているという記事があったが、その内容に偽りはなかったようだ。

 とどのつまり。

 この数日間の成果はというと。

「だーっ、魔法全然わかんねえっ! なんだライセンス制の魔法って! 名前だけ知れても中身わかんなきゃ意味ねーっつーの! つーかネットの情報統制レベル高過ぎだろ! 結局一つもライセンス制の魔法の中身割れなかったじゃねーか!」

 こんなところだ。

 インターネットを手に入れた那由多は来て早々に勝った気でいたが、躓くスピードも思いの外早かった。

 だがまだまだこれから。

「ま、一般的な知識や言語を把握できただけでも良しとするか。魔法の情報ぶっこ抜きに関しちゃ別プランを設けねえと」

 前向きな姿勢に変わりなし。気持ちが萎えることもなし。

 大方欲しかった情報をインプットし終えた那由多は、大きく伸びをして凝り固まった背を伸ばす。

 脇を見ればミーナがシャツから腹をはみ出したまま寝転がっていた。だらしないこと極まりないが、先日まで精神体という生身を持たない存在で、服を着て生活するのもこれが初めてだというのだから無理もないか。タオルケットをそっとかけ、頭を撫でてやる。

 ついでに散乱しているコントローラを片付けようと立ち上がったところで、玄関のチャイムが鳴らされた。このチャイムの音すら電気ではなく魔導式――電力を受け取って反応する磁気チップの魔法版だ――なのだから魔法って便利だなあと感じるが、那由多に表情を崩すだけの余裕はなかった。

 この世界での知り合いがハゲとマスターしかいない現状、会う約束のようなものをしているハゲに押しかけられても迷惑だが(酒場からの帰りは回り道をして住居を特定できないようにした。あのハゲならつけてきかねないから本気で撒いた)、今日やってきたのはおそらくほかの招かれざる客だ。

 こういうときにあってよかったインターネット。下調べはばっちりだ。

 那由多は魔導ディスプレイでできたドームを崩し、ついでにタオルケットの山を魔導ディスプレイごとミーナの上に覆いかぶせる。昼時は驚くほど蒸し暑いが、朝早いこの時間帯ならさほど気温は高くない。昼過ぎまで寝入らないかぎり、帰ってきたころに神様と魔導ディスプレイの蒸し焼きが出来上がっていることはないだろう。

 やることを済ませた那由多は意を決して扉のロックを開ける。

「おはようございますー、入国管理局の者ですがー」

 ――さあ、きやがった。

 ――不法入国を果たした俺を捕まえんとする魔の手が!


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