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天命と紙のお金

「――チートは神様のリソースとやらが足りないから無理で、蘇生能力も制限があって使えなくて、魔法とかいう訳分からんものはあるけど全容はわからなくて、他にすがれるものがないからこの星に来た、と。とりあえずここまではいいか?」

「う、うん。いいよ……?」

 極めて平坦な口調での那由多の確認に、ミーナはびくりと怯えながら頷いた。

 無理もあるまい。

 なにせ、「ボクは神様の中では若い方で、チートを付与できるほどの力を持っていないんだ」と弱気な一言を口にするわ。

「とかなんとか言って、実は何度死んでも復活できる仕様なんだろ? どんな魔法か知らんがお前さんなら蘇生できるんだからよ。いいぜ、どんなギャグ展開だろうがハード展開だろうがゾンビアタックひとつで乗り切ってやんよ」と意気込む那由多に、

「なんかすごいやる気だね? でもごめん、それも無理……下界した神に蘇生の奇跡は起こせない仕様になってて……って言ってもここ異世界の地なんだけどね。えへへ」「えへへじゃねーよ! んなことでどないせいっちゅーねんボケええええ!」と両肩を掴まれて激しく前後に揺さぶられるわ。

「地球を直すアテはあるのか?」と訊ねた那由多に、

「この世界には魔法があるみたいだよ。詳しくは知らないけど、上手いことやればどうにかなるかも。 ――異なる世界の法則だからボクにはちょっと……それに、奇跡専門なんだよね、ボク。え、隕石をなかったことにはできる奇跡? そんな便利な奇跡があったら良かったんだけどねー。でも大丈夫、那由多ならなんとかなるよ。なんてったって那由多なんだから」と人に丸投げするわ。

 那由多がこの短時間ではっきりとわかったのは、ダメだこいつ話にならねえ、ということだけだった。

 どんどんと冷たい目の色に変わっていくのがわからないほど、ミーナという神様も馬鹿ではないことだけが救いか。

「これ、こんなタイミングで切り出すべきことじゃないんだけど……でも、早めに伝えておかなきゃいけなくて」

「今更何が出てきても怒らねえよ。言ってみろ」

 那由多に促され、ミーナは恐る恐る口を割った。

「実はボク、この世界で表立って活動できないんだ。神同士の協定っていうか、不可侵条約みたいなのがあってね? 余所の星にいる間は力に制限が掛かるし、生命体に主体的な干渉はできないって決まり事があるんだ。だから……ごめんね?」

「……そうか。ま、この星にも神様がいるんじゃしゃーないわな」

 確かに重要な案件に那由多は深く頷いた。

 神の存在事由は未だ見えてこないが、少なくとも人体蘇生できるほどの技術はある。まず人類より上位にあると捉えて良いだろう。

 そんな彼らが星ごとにおわすというのであれば、神同士での争いを回避するために制約を設けるのは当然の処置だろう。火の粉を被るのは、いつだって下々の者なのだから。

 しかし、だとするとミーナは何をしにこの星へ降り立ったのか。燃えさかる地球にいられないのか、あるいは目的があって来たのか。疑問は尽きることないためいくらでも質問を投げかけたい衝動に駆られたが、那由多が言葉を発するより先にミーナが面と向き合って言った。

「那由多、キミに正式に使命を与えるよ。地球を青い惑星に直し、生命の溢れる豊かな状態にまで戻すんだ。どんな方法を取ってもいい。キミの力で、多くの人々で賑わっていたかつての姿を取り戻すんだ。いい、かな? いいよね?」

 途中まで勢いがあったものの尻すぼみになってしまった神様流のお願いに、那由多は苦笑いした。

「なんでそこで気弱になる。無理難題押し付けるなら最後までびしっとしろ」

「……いいの?」

「だーもう。期限はねえな? ねえよな? よし。ならやってやる。前代未聞の安請け合いだ、しくじっても恨むんじゃねえぞ」

 無理矢理首を縦に振らせ、那由多は鼻を鳴らした。

 灼熱の風吹き荒ぶ地球を再び人の住まう青い星に戻す。そこに至るまでどれだけの工程が必要か、現段階では想像さえつかない。

 ――だが、やると言ったからにはやる。

 ひとまずは魔法の解明に乗り出すとして、アパートの内装や造りからして技術面でも地球に勝るとも劣らないレベルが期待できる。あらゆる角度から切り込んでいって可能性を模索するのは那由多の中では既に決定事項だった。

「な、なゆたぁ」

 情けない声を上げながら、ミーナがすがりついてきた。

「おう」

 膝を擦り剥いた子供みたいな有様を、しかし那由多は受け入れた。

「本当に引き受けてくれるんだね?」

「おう」

「ボクが引きこもるしかできない無能な神様でも面倒見てくれるんだね?」

「おう。おう?」風向きが怪しくなってきたぞ。

「やたっ。じゃあはいこれ軍資金!」

「おい待て」胸ポケットに紙幣の束をねじ込まれた。

「十万コル――ここアベル統一国で使える通貨さ。日本円にして十万円ってとこかな。どこかの王様よりは奮発した自信があるよ、えっへん」

「だから待てって」

「善は急げだよ、那由多! とりあえずそのお金で呑んできなよ。この世界の様子を見ないことには始まらないよ?」

「待てやニート希望者! うおっ、嘘だろっ!?」

 腰を掴まれ、高い高いの要領で運ばれる。ミーナの細腕のどこにそんな力が秘められているのか。

 玄関口でサンダルの上に下ろされると、「じゃー行ってらっしゃい。おみやげよろしくねー」と手を振ってからフローリングの床上をごろごろと回転する自称女神の姿があった。

 先ほどまで那由多が寝ていた敷き布団に辿り着くとわざとらしくいびきをあげる。粗末な狸寝入りに「こいつ、いけしゃあしゃあと……」とサンダルでもぶつけてやろうかと考えたものの、確かに異世界散策に乗り出すべきなのもまた事実。

 少々癪なものの、那由多はサンダルを履くことにした。

「なあ、ミーナ。最後に一つだけいいか?」

 扉に手を掛けて振り向く。「なあに?」と同じく顔だけを振り向かせたミーナから、

「あの隕石、落としたのはどっかの神様じゃねえよな?」

「それだけはあり得ないから安心して。そんな不埒なことをしてくる神がいたら、ボクがボコボコにしてるから」

 と、強い言葉を引き出せたことに満足して、部屋の外へと一歩目を踏み出した。

 那由多はやけに重い右肩を揉みながら、

「鍵はこの世界に落ちている。頼んだよ、那由多」

 ミーナからのお願いに、空いている右手で後ろ手を振った。

 やるべきことはあまりに多いが、一つ一つこなしていこう。

 まずは腹ごしらえ。それから、アルコールの補給だ。


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