第2話
入学式が終了し、本日はこれにて終了。学生達はあらかじめ送っておいた各々の荷物を回収するため荷物配送所へ向かう。明日からオリエンテーション等が行われ、来週から本格的に学業が開始する予定だ。今日この後は自由時間となり、身辺整理や居住区の見学が許可されている。
「じゃあ、11時半に食堂に集合!」
サクラは幼馴染2人にそう告げるとボストンバッグを2つ担ぎあげた。薄い桃色をした髪の女の子である。
「サクラ、ずいぶん重たそうだニャー」
「俺やミキみたいにスーツケースにしとけば、転がせて楽なのに」
「ドラゴンライダーを目指すんだもん。これくらい体力造りと思えば楽なものよ」
「あいかわらず体力だけは人一倍、んニャ、人二倍はあるニャ」
先程からニャーニャー騒がしいのは幼馴染である猫獣人のミキ。猫の耳と尻尾が特徴的な女の子だ。獣人は亜人と呼ばれる種族の1種であり、異界大戦時に亜人種は人間界に紛れこんでしまったと言われている。現在では亜人種はこの世界に定着しており、人とも婚姻できる。亜人種は軍でも活躍しており、今期入学した学生の中にも亜人種は結構いる。サクラとミキのやり取りを聞きながら微笑んでいる黒髪の男子はトマースという。サクラ、ミキそしてトマースの3人は小等部から高等部まで共に過ごしたのはもちろんだが、小等部に入る以前から近所同士であり同い年ということもあり、赤ん坊の頃からの付き合いになる。何をするのもこの3人はいつも一緒であった。
(アタシ、ドラゴンライダーになるため軍学校に入るわ!)
高等部の3学年になりサクラはミキとトマースにそう告げた。
(サクラが軍学校に行くなら、ニャーもいくニャ!)
(お〜い、仲間はずれにすんなよ)
こうして、3人とも無事に入試を突破し現在に至る訳だ。
「男子寮はあっちの棟だから、もう行くな。じゃあ、また後で」
「うん、後でね」
「トマースは可哀想ニャ。ニャーとサクラは部屋も一緒だし。寂しくないニャ」
「ふん、すぐに友達くらい作るさ!」
「コミュ症のトマースに友達できるかね〜」
「いや、コミュ症ってそんな自分に限ってその様な事態はないである」
トマースは図星をつかれドギマギしている。恥ずかしがったり緊張すると変な言葉遣いになるのが面白くてついついイジッてしまうのであった。
「ここが我らの新たなる居城!」
「広い部屋ニャー、4人部屋? プライベートがないニャ!」
確かに正方形で広い部屋であるが、ベッドが4つと、各ベッド脇にロッカーと机が設置されておりこの空間を4等分すると1人辺りの空間は若干狭いかな。しかも仕切りといったものはなく、ミキが言った通りプライベート丸出しである。
「まあ、軍なんてこんなものらしいしね。すぐに慣れるって」
ロッカーに名札が貼られているため自分のベッドはすぐにわかった。荷物を置き思い切り背伸びをする。体力自慢であってもそこは女子。重たいボストンバッグ2つも抱えて階段のぼったりしたら少しは乳酸が溜まるもんだ。ニャーさんはベッドで猫モードになりくつろいでる。この猫モード、身長はほぼ変わらず本当に猫化しているのだ。獣人は戦闘状態や緊張状態になると身長はそのままに、由来する獣に変身することがある。獣化することで身体能力が抜群に上がり、由来する獣の特徴も十分発揮するのだ。ミキの場合、猫なので特に柔軟性や瞬発力が飛躍的に上がる。さらに鋭利な爪は強力な武器にもなるのだ。獣人の獣化というのはそれ程危険である。そのため法により特別な理由がない限り屋外での獣化は禁止されている。しかし、獣人の獣化は戦闘状態や緊張状態でない時でも発動することがある。くつろいでいたり、眠っている時など現状のミキのように自然と獣化することがあるのだ。
サクラは獣化しているミキに気付かれないように忍び足で近付く。射程距離に入った所で一気に飛びついた!
「ミキー!可愛いー!モフモフさせてー!」
「ンキャー、ニャんだ!サクラ、やめてー!」
制服着た状態で猫化したミキは町で流行りの黒猫サリー人形のリアルバージョンにしか見えない。
「サ、サリーがいる!」
入り口から聞き慣れない叫び声が聞こえ2人は共にそちらに目を向けた。
幼女が好奇心旺盛な瞳でサリーを、もとえ猫化したミキを見つめていた。