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追い出す方も楽じゃない!

作者: キツツキ

最初は色々とアイデアがあったんですが、書いている内に、良いアイデアを閃かなくなったので、多分続編はありません。

「レックスさん、本当に悪いんですけど、今日でパーティを抜けてくれませんか?」


 言ってやった。ついに言ってやったぞ!!


 僕の名前はピーターで冒険者をやっている。職業は、味方を強化したり、敵を弱体化させるのが得意な付与魔法使いだ。そして、このランド王国に三つしかない最高位のSランクパーティの一つ『蒼穹の剣』のリーダーでもあり、個人ランクでも王国に五人しかいない最高位のSランク冒険者の一人でもある。


 個人ランクとは、その冒険者の個人としての能力の高さを示す階級で、DからSまである。Dが新人、Cが一人前、Bが努力で到達できる最高点、Aが天才、Sが人外とされる。


 パーティランクとは、六人前後からなるパーティの実績を端的に表すもので、個人ランクと同じくDからSまであるが、あくまで実績なので、そのランクに相応しい難易度のクエストを定期的に達成しなければ、降格することもよくある。


 ついでに、モンスターランクは、モンスターの脅威度を示すものであり、Sランクの上にさらに二つの階級、二人以上の個人ランクSの冒険者を有するSランクパーティで挑まなければ対処できないと言うSSランクモンスターと、SSランクのモンスターを討伐できるパーティほどのパーティが複数で協力しなければ対処できないSSSランクモンスターという天災のような化け物が存在する以外は、モンスターのランクと冒険者の個人ランクは同等の扱いである。


 少し話がそれたが、つまり、僕は王国に三千人近くいると言われる冒険者のトップクラスと言っても過言ではないのだが、そんな僕でも大きな悩みを抱えている………それは、


「おい! ピーター、一応聞いてやる! どうしてこの俺様を追放させることにしたんだ?」


 僕の目の前にいる僕と二十近く歳が離れている大男、名前はレックスさん。『蒼穹の剣』のメンバーで、僕と同じ個人Sランク冒険者だ。彼の職業は、大剣使い。パーティ内で最も高い近接攻撃力を持つ攻撃の要であり、実際に倒したモンスターの止めのほとんどが、彼の手によるものだ。


 王国最高峰の付与魔法使いの僕によるバフを受けた、同じく王国最高峰の攻撃力を持つレックスさんの一撃は今まであらゆる強力なモンスターの息の根を止めてきた。


 僕とレックスさんの二人で組んで倒せない相手はいない。にも関わらず僕は彼をパーティから外そうと考えていた。理由は、


「だって、レックスさん。クエスト報酬の六割を持っていくじゃないですか」


 レックスさんの腕がいいのは確かではあるが、彼は報酬の六割を一人で持っていくのだ。パーティには、僕とレックスさん以外にも、三人の仲間がいるにも関わらずだ。


 つまり、レックスさんが六割で、残りの四人がそれぞれ一割ずつだ。いくら何でも割に合わない。


「だが、お前の父親が六割でいいと言ったから、俺様は六割もらっているだぞ! お前は父親の遺言に背くのか?」


 そう、レックスさんがここまで暴利を貪っている理由は、先代のパーティリーダーである父が、レックスさんの取り分は六割でいいと認めたからだ。


 僕の父は、僕と同じ付与魔法使いであったが、個人Aランクの冒険者であった。Aランクの付与魔法使いであればどこのパーティからでも、引っ張りだこなのだが、先祖から続く由緒ある『蒼穹の剣』の後を継がなければならないので、『蒼穹の剣』のリーダーになった。


 しかし、父がリーダーになった当時の『蒼穹の剣』は、パーティランクもBランクと低迷していた。困まり果てた父は、当時から個人Sランク冒険者であったレックスさんを、報酬の六割という破格の条件で、パーティメンバーとして迎え入れた。


 そのおかげで、『蒼穹の剣』はAランクパーティへと躍進し、二年前に急病で世を去った父の後を継いで、隣国から緊急帰国して、リーダーになった僕の代でついにSランクパーティへと昇格を果たした。


 低迷していた『蒼穹の剣』が再建されたのは、間違いなくレックスさんのおかげだ。その事には深く感謝している。でも、冒険者というのは、武器の手入れや物資を購入したりと何かとお金が掛かる職種だ。


 特に、Sランクパーティに昇格してしまったゆえに、高難度のクエストの受注を多く受けなければならない今の『蒼穹の剣』では、特にそれが顕著で、高難度クエストの報酬でも一割しか貰えないのであれば、武具の修復やアイテムの購入をしなければないらないため、個人レベルでは毎回赤字だ。


 現在、レックス以外の『蒼穹の剣』のメンバーは、過去の貯蓄を切り崩して、何とかやりくりしているが、このままでは、近いうちに破産するのは確定的である。


 レックスさんは、女を作って家族みんなで貴族顔負けの大豪邸に住んでいるのに対し、他のメンバーは、家を売り宿屋暮らしをしている様子から見ても明らかだ。


 なので、僕は他のメンバーと相談して、まずレックスさんの取り分を下げてもらえるように、彼と交渉したが、これは先代との約束だと断られてしまった。その後も、何回か交渉してみたが、全て断られ、とうとう最終手段として、メンバー一致の考えで彼を追放することに決めた。 


「だからです! 父との約束を破らずに、他のメンバーが破産を回避するにはこの方法しかありません」


 本音を言えば、パーティ追放という最終カードを切れば、多少は妥協してくれるのではないかと期待していたが、残念ながらそうはならなかった。


「そうか……分かった」


 レックスさんは、目をつぶって呟き、僕の前から姿を消した。





 よし、これで、赤字を回避できるぞ!


 僕は、最大の懸念を取り除いた喜びから一晩中酒を飲み、酔いを少し残しながら、翌日、残りのメンバーと今後の方針を話し合うために、ギルドホールにパーティメンバーを呼び集めた。しかし、僕はその場で、予想だにしない事態に直面する。


「ピーター君! 悪いけど私、このパーティ辞めるわ」

「俺も!俺も!」

「悪いとは思いますが、私も辞めます」


 一瞬で酔いが醒めた。初めは、何を言っているのか理解できなかったが、限界まで頭を回転させ、何とか言葉を紡いだ。


「な、何で?」

「う~んとね。実は、レックスに誘われていたのよ。もし、ここを追い出されたら、俺とパーティを組まないかって?」


 最初に答えたのは、個人Aランクで職業は遠距離攻撃の要である攻撃系魔法使いの妙齢の美女のアンジーさんだ。


 とは言え、アンジーさんがいなくなるのは、痛いけど、実はこうなる予想はついていた。レックスさんには妻がいるのだが、裏でこの二人がイチャイチャしていたのを前から知っていたからだ。


 レックスさんの追放案には彼女は賛成の立場であったが、そうなった場合は、一緒に出ていくかもしれない。その予想は少なからずあった。でも、残りの二人がいれば、まだ何とかなるので、深く考えてこなかったのだが、何と、その二人も出て行くと言い出した。


「……クロスさんとルーシーさんはどうして?」


 弓使いのクロスさんと、治癒魔法使いのルーシーさん。二人とも個人ランクがAで、レックスさんのことをあまりよく思っていなかったので、この二人は裏切らないと思ったのに。


「そうだな。よく考えたんだが、確かに、レックスのせいで貧乏暮らしだが、やはり奴がいない穴はデカいと思った」

「それに、ピーター君の付与魔法は確かに凄いけど、付与魔法を掛けた相手が強ければ強いほど、その効果がさらに上昇するでしょう? 王国有数の攻撃力を持つレックスさんの代わりが簡単に見つかる? 見つかるわけないよね? だから、このままでは、『蒼穹の剣』は火力不足で、遅かれ早かれ昔みたいにBランクのパーティに逆戻りするわ」


 勿論、それは想定の範囲内だ。レックスさんがいなくなれば、パーティランクの降格は避けられないだろう。でも、レックスさん抜きでも、この三人、いや最悪、この二人と優秀な新入りを探し出して加えれば、Aランクで食い止められるはず。


 そして、Sランクパーティが受けるような超高難度のクエストを諦め、Aランク相応のクエストを達成し、みんなで報酬を山分けすれば、レックスさんがいた時よりは良い暮らしを送れる腹積もりだったのに、どうしてこうなった!


「でも、皆さん、レックスさんの追放に賛成してくれたじゃないですか!!」


 怒りを込めて叫ぶと、申し訳なさそうにクロスさんから返事が返ってきた。


「すまないな。実は、前から俺はSランクパーティの『真紅の槍』、ルーシーは『碧玉の弓』からオファーがきていてな。どちらもここよりも好待遇だったから、パーティの要であるレックスがパーティを離れたのを機に、ここを辞めようと思っていたんだ」

「うっ、う、そんな。皆さん騙していたんですか?」


 裏切られた気分だ。僕は涙を流しながら問いかけるが、三人は、目を合わせようともせずに、静かにその場を立ち去った。


 こうして、問題児一人追い出したつもりが、パーティメンバー全員がいなくなり、僕は一人きりになってしまった。










「はい、今回のクエストの報酬になります」


 パーティ崩壊から二か月後、僕は一人でもできるDランクのクエストをこなしながら、その日の生活費を稼いでいた。


「ピーターさん。そろそろ、何か活動しなければパーティランクが下がってしまいますよ」


 ギルドの受付嬢は、ここ二か月の間、Sランクパーティが定期的に達成しなければならない高難度と言われるAランク以上のクエストを達成どころか、受注してもいないため、ランク降格の可能性があることを告げる。


「でも、お姉さんだって、今の『蒼穹の剣』の現状はご存知でしょう?」

「ええ、存じています。ですがランク降格は規則ですので」


 王国でも名高い『蒼穹の剣』崩壊のニュースはあっという間に王国全土に広がった。しかし、代わりとなる人材を確保できていない。


 驚いたことに、抜けたメンバーの後釜に押し入ろうと、入ってくる人達すらいないのだ。


 個人ランクが低い冒険者は、Sランクパーティと言う大きすぎる看板に尻ごみし、即戦力になりえる個人ランクが高い、実力のある冒険者は、この国の冒険者業界を良く知っており、五人しかいない個人Sランクの僕がいるとは言え、パーティメンバー次第で弱くも強くもなる付与魔法使いの僕の元へ行くにはリスクが大きいと判断し、わざわざ今のパーティを抜けてまでやってこない。


 それでも、極僅かではあるが、ソロで活動している個人Aランクの冒険者は確かにいる。だが、


「あなたのパーティを抜けたレックスさんが作った『白金の盾』は先週、SSランククエスト、リトル・べへモスの討伐を成し遂げ、一気に特別昇格で結成から僅か二か月で、Sランクパーティに認定されたのとは対照的ですね」


 どうやったかは知らないが、追い出したレックスさんが作ったパーティは、次々と武勲を上げ、瞬く間に王国四番目のSランクパーティの仲間入りを果たした。


 そのせいで、本当に数少ないフリーの個人Aランクの冒険者達の中には、落ち目の『蒼穹の剣』に行くよりは、『白金の盾』に行くと言う風潮ができつつあり、僕が本当に欲しいレベルの人材確保が困難と言う状況にさらに拍車を掛けた。


「どうです? もう古臭い『蒼穹の剣』を畳んで他所のパーティに行かれては? 個人Sランクのピーターさんなら、どこのパーティでも喜んで迎え入れてくれますよ!」


 受付のお姉さんが言うように、パーティを畳んで、他所のパーティに行くと言う選択肢もある。冒険者ギルドとしても、個人Sランク冒険者である僕が、いつまでも、ソロで低ランククエストを受けているのはよろしくない状況に違いない。このお姉さんも、自分の考えを述べているようにみえるが、裏にギルドの考えがあるのは間違いだろう。


 このように、明らかに冒険者ギルドも僕に協力的ではない。支援金も、フリーの冒険者の紹介すらしてくれないのだから間違いない。恐らく、ギルドの本音は古臭い『蒼穹の剣』を捨てて、最近話題の新興パーティであるレックスさんの『白銀の盾』に行って欲しいのだろう。


 でも、ランド王国で長い歴史を持ち、先祖から受け継いできた『蒼穹の剣』を捨てる踏ん切りができないし、それ以前に、追い出した奴のところには行きたくはない。でも、碌な手が思いつかない。


 そう、落ち込んでいると、ギルドホールの入口付近から歓声が聞こえてきた。声のする方に顔を向けると、そこには、追い出したレックスさんとそのパーティがいた。僕がいる事に気が付いたのかレックスさんは、歓声を上げるファンの中を突っ切り話掛けてきた。


「よう! 久しぶりだなピーター!」

「レックスさん……」

「随分と辛気臭い顔をしてやがるな! まあいい。それよりも、特別に俺様の『白銀の盾』パーティを紹介してやろう!」

 

 レックスさんは自身たっぷりに、メンバーを紹介する。


「一人目は、お前も良くご存じのAランクのアンジーだ」

「お久しぶり! 元気出しなよ、ピーター君」


 アンジーさんは昔と変わらない様子だったが、随分とレックスさんと距離が近い。残りの四人は、剣闘士の男性、治癒魔法使いの女性、槍使いの男性、付与魔法使いの女性で、三人は個人Aランクの冒険者であり、槍使いの男性に至っては個人Sランクの冒険者であった。


「どうだ、ピーター凄いだろう?」


 結成して二か月足らずで、Aランク三人に、Sランク一人を揃えるのは確かに凄い。恐らく、追放されるのを見越して予め、準備していたのだろうと思っていたら、すぐにレックスさんが自慢げに話す。


「『蒼穹の剣』でたんまり稼げたからな。こいつらを引き抜く金は十分にあった。お前と親父さんには、感謝しているよ。まあ、元々、自分のパーティを作るための資金集めのために、『蒼穹の剣』に入ったんだがな」


 父から受け継いだ『蒼穹の剣』利用されたことを悟り、僕は腹を立てた。


「冒険者パーティに大切なのは、長年共にしてきた信頼関係と連携です。金で集めたパーティに未来はない!」


 悔しく紛れに言ってやったが、こんなの負け惜しみだ。それでも、僕は父から信頼こそが最も大事で金は二の次と教えを受けてきたし僕も同じ思いだ。しかし、レックスさんには真っ向から否定された。


「はあ? てめえ、俺達の上げた成果をしらねえのか? Sランクのモンスター二体に、SSランクが一体だぞ! 冒険者に重要なのは、信頼でも連携でもねぇ、腕が立つかどうかで、その腕の立つ冒険者を雇える金が多いほうが勝つに決まっているだろうがぁ!」


 まるで勝利を確信したかのように、自慢げに持論を述べるレックスさん。対する僕は、十分な結果を残したレックスさんに何も言い返せなくて酷く落ち込んだ。その様子を見てか、レックスさんはさらに勢いずく。


「そうだ! お前さえ良ければ、うちに来ないか? 古臭い『蒼穹の剣』の看板は要らねえが、お前の付与魔法の腕には一目置いている。ナラ、ああ、うちの付与魔法使いだが、Aランクのこいつよりは、Sランクのお前の方が断然ましだからな。取り分は報酬の三割でどうだ?」


 解雇してもいいと告げられたナラと言う女性冒険者が、ビクっと震えるのを尻目に、レックスさんは、ニヤニヤしながら、引き抜きを提案してきた。


「三割ですか。新入りに報酬の約三分の一とは、破格ですね」

「だろう? 付与魔法使いじゃ、Dランクのゴブリンまでしか、楽に倒せないし、悪くない取引なはずだ」


 彼の言うように付与魔法使いの僕では、雑魚モンスターを倒すDランクのクエストが一人でやれる限界なので、Sランクのクエスト報酬の三割を出すと言う彼の条件は確かに破格だ。


 だけど、こちらの落ち度があったとは言え、『蒼穹の剣』を食い物にしてきた奴の言うことなど誰が聞くものか!


「残念ですが、お断りします」

「いいのか?もう二度とこんなチャンスはないぞ? 次に声を掛けるときは二割になっているぜ」

「結構です!」

「ああ、そうかい、まあ、頑張りな。もっとも金がない上、古臭い、お前のパーティに入りたい高ランクの冒険者なんてこの国にはいないがな。まあ、俺様ももう少し金を稼いだら冒険者稼業から足を洗って今話題の冒険者貴族になるけどな。 がっはははははは!!」


 そう言うと、レックスさんは笑いながら背を向けてファンの方へ立ち去った。


「でも、どうするんですか?『蒼穹の剣』はもちろんですが、ピーター君の生活もピンチでしょう? やっぱり、世の中、お金ですよ。お金! お金がなければ何もできません。ピーター君も古臭い『蒼穹の剣』を畳んで、他所のSランクパーティに入って、たんまり稼いでレックスさんのように貴族のような暮らしをしてみてはいかがですか?他所のSランクパーティへ入りたいのであれば、ギルドから推薦状を出しますよ!」


 なけなしのプライドを守ったと、息巻いたが、一部始終を見ていた受付のお姉さんの言葉が胸に響き、大きく落ち込んだ。


 『蒼穹の剣』は何十年も前から、ランド王国の危機を何度も救っている。しかし、いざ、こちらがピンチに陥ると国も冒険者ギルドも助け船を出そうともしない。


 金の切れ目が縁の切れ目。


 モンスターの狩猟で豊かになり、多くの国民が潤ったおかげで、全てにおいて金を優先するようになってしまった今のランド王国では、どれだけ恩義があろうと、金もなく、力もない落ち目でおまけに古臭いパーティを救済しよう考える者はランド王国には一人もいないのだ。


 ランド王国は、大陸で最もモンスターの脅威が高い地域にあるため、世界で初めて職業冒険者と、それを支える冒険者ギルドが設立された国である。そのため、冒険者の先駆けとまで言われた国だったのだが、今はどうだ! 最盛期には二十近くあったSランクパーティも今ではたったの四つで、個人ランクSの冒険者の数も最盛期の十分の一だ。


 モンスターの脅威が昔よりは薄れたとは言え、未だにその脅威は衰えていない。にも関わらず、冒険者の質が落ちたのは、やはり、レックスさんのような金欲にまみれた貴族のような暮らしを始めた冒険者が急増し、強い冒険者が次々と冒険者から金持ちへと鞍替えしたおかげで、後進の育成が進まずにいることが原因だと思う。 


 他国では、かつてのランド王国を真似て冒険者ギルドや、低ランクの冒険者の育成に力を注いでいるのに、ランド王国の冒険者業は停滞していた。


 にも関わらず、かつての栄光を引きずり、他国の急成長に目を背け、王国民も国もギルドも冒険者達ですら、ランド王国には世界で一番優れた冒険者がたくさんいて、他国は、冒険者関連では、未だに遅れていると錯覚している。二年前まで、他国で冒険者をやっていた僕には、ランド王国が腐敗しつつあるのがよく分かる。


 その上で、どいつもこいつも金、金、金とうるさい。


 分かった! もういい。レックスさんの言うように、金さえあれば、最強のパーティが作れることを認めてやる。だから、僕はレックスさん以上に大金を動かして最強のパーティを作ってやる!







 三か月後、


「おい、聞いたか!『蒼穹の剣』リヴァイアサンを倒したってよ」

「本当かよ! SSSランクのモンスターの討伐とか、二十年前に解散した『純白の鎧』以来の快挙じゃないか! 古臭い落ち目のパーティは一体、どこと手を組んでやったんだ? 仲の良い『真紅の槍』と『碧玉の弓』か? それとも、『白銀の盾』か?

「いや、違うんだ。リヴァイアサンをやったのは何と『蒼穹の剣』単独なんだよ!」

「はあああああ!? あの落ち目のパーティが!! しかも複数のSランクパーティで挑まない勝てないと言われるSSSランクのモンスターを単独でやったのかよ! 一体どうやって?」

「それがよ、嘘か本当かどうか知らないが、今『蒼穹の剣』には……」


 買い物に行くと言ったパーティメンバーと一時離れ、僕は一人で、ギルドホール内の椅子に座りながら、つい最近、新生『蒼穹の剣』の立てた偉業について、ギルドホール中の冒険者達が噂しているのを心地よく聞いていた。すると、突然、ドカンと扉を壊すような音ともに、レックスさんが仲間を引き連れ入って来て、僕の前まで来た。


「おい、どういうことだ!」


 レックスさんは、睨め付けながら、開口一番に聞いてきた。


「金がないはずの『蒼穹の剣』が、一体どうやってリヴァイアサンを倒しやがったんだ!」


 まあ、レックスさんが怒るのも無理はない。三か月前まで、金も碌になく、付与魔法使いである僕しかいない『蒼穹の剣』では、どう考えてもSSSランクモンスターを討伐するなんて誰の目からを見ても不可能だったからだ。


 と、普通は考えるが、実は無一文のはずの『蒼穹の剣』にはまだ大きな資産が残っていた。


「お、いた!いた! ピーター!」


 その時、何やら場違いな声と共に、五人の冒険者達が僕とレックスさんの所にやってきた。


「あ? 誰だこいつらは? 見ない顔だな? 新入りはとっと消えろ!」


 レックスさんは冷たくあしらうが、そんなレックスさんに意を介さずに、五人の中の一人の少女が僕に尋ねてくる。


「ピーターこの人誰?」

「僕の昔の仲間のレックスさん」

「へ~、ピーターの昔の仲間、おお、この人が首になったレックスさんか!」


 少女に挑発され、レックスさんはお怒りだ。


「おい、小娘。調子に乗るなよ。俺様は個人Sランクで、Sランクパーティ『白銀の盾』のリーダーでもあるレックス様だ!」


 どうだ参ったかと、レックスさんは威風堂々と自己紹介するが、少女の方はレックスさんなどまるで興味なさそうに返答する。


「私の名前は、リーフェ・フォン・グラシール。ランド王国のお隣にあるグラシール帝国の第二皇女で、Sランク冒険者の治癒魔法使いよ」

「はっ? えっ? 大陸最強国のグラシール帝国の皇女? それにSランク冒険者だと……」


 少女の何気なく呟いた皇女とSランクと言う単語を聞き、レックスは目が点になり、周囲は騒然となった。しかし、誰かが問い詰める間もなく、残りの四人が各々自己紹介をした。


 そして、四人全員の自己紹介が終えた。余りの衝撃に周囲は静寂に包まれたが、誰か、ふと声を漏らした。


「五、五人、全員が、Sランク冒険者で、しかも全員『蒼穹の剣』に所属しているだと……」


「「「「「はあああああああああああああああああああ!!!???」」」」」


 絶叫がギルドホール中を包みこんだ。


「ピーターを入れて、個人Sランクが六人もいるとか、そんなのありかよ!」

「どこの国でも、個人Sランクって、一つのパーティに多くても二人じゃないのかよ」


 普通であれば、多くても二人入れるのがやっとなはずの個人Sランクの冒険者が六人も一つにパーティに所属していると言う前代未聞のパーティの存在を知り、ギルドホール中がパニック状態の中、いち早く正気を取り戻したレックスさんが、焦りを隠さずに僕に尋ねた。


「何故だ! どうやってSランクを五人も集めた。しかも、全員、帝国の冒険者じゃないか! 帝国のSランク冒険者は大体二十人と聞いているぞ! そのうち五人も、金がないはずの『蒼穹の剣』が、どうやって集めた! 俺様だって長年集めた金を叩いても、Sランク一人にAランク三人しか雇えなかったのに!!」


 僕は薄ら笑みを浮かべながらレックスさん教えて上げた。


「金の力ですよ」

「その金がてめえのところにはねえだろう!」

「ええ、だから、『蒼穹の剣』ごと、帝国のパーティに身売りしました」

「はあああああ?!」


 ランド王国のお隣にあるグラシール帝国。帝国では、冒険者発祥の地であるここランド王国を真似て冒険者ギルドやそれを補助するシステムを作ったが、より効率的にしようと、パーティの巨大化、帝国の言葉で言うクラン化が進んでいた。


 クランとは、組織の看板となる親パーティを頂点に、その下に複数の傘下である子パーティがいくつも存在するというものだ。


 これによって、従来の数人程度しかいなかったパーティは、一気に数百人近い人数が所属する大所帯になった。また、採取専門、護衛専門、討伐専門、新入りの冒険者の育成を専門とするパーティなど、クエスト内容を専門に受け持つパーティを多数作り、様々なクエストに対処させ、さらに、クラン内の冒険者を状況に応じて移動させることで、より効率的に利益を上げていた。


 その結果帝国では、クラン化によって市場は六つのクランにより独占されたが、クエストの独占により、各クランは巨額の利益を上げ、一つのクランで王国の全冒険者の収入並みに稼いでいるクランも存在している。


 もちろん、ランド王国でもクラン化すべきと言う声はあるが、組織化せずに自由にやりたいという大多数の冒険者達と、万が一クランが反乱を起こした場合、制圧するのが困難と言う貴族や国の意見が根強いため、実現には程遠いのが現状だ。


 しかし、帝国は違う。


 元々、王国以上の人口と経済力を誇っていた帝国ではあるが、冒険者業は大きく遅れていた。なので、帝国は、手っ取り早く冒険者大国になるために、国を挙げてクラン化を進め、王国が心配している反乱の危険も、クラン内に武力に秀でた皇族や有力貴族をクランの中枢に送り込み帝国との結び付きを深めることで未然に防ぐ対策を行った。


 そのおかげで、帝国に数百あったパーティも、クラン化によってほぼ姿を消し、先ほど述べたように、現在では六つのクランへと統合されたが、そのうちの一つに『キャメロット』と呼ばれるクランがある。


 『キャメロット』は帝国最強最大のクランで、実力さえあれば、スラム出身者まで幅広い人材を受け入れ、最低でもCランク以上の冒険者が二千人以上、最高位のSランクは六人も在籍していると言う小国の全軍にも匹敵するほどの戦力を保持している文字通り最強の冒険者集団である。


 ここまで、説明すると、僕がしたことを理解できたようで、レックスさんは苦い顔をした。


「くっ、パーティを売ったのか……」


 レックスさんが呟いた後、僕の説明に補足するように皇女様が答えた。


「『キャメロット』が『蒼穹の剣』に手を貸した理由は二つよ。一つは、クラン化によって帝国は、国内のモンスターをほとんど狩りつくしてしまい、これからは他国に進出して利益を上げる必要があるの。だから、王国に拠点を置くパーティが欲しかったの。もう一つは、知名度の向上と人材の確保よ。王国人であるあなた達は知らないと思うけど、あなた達が古いと馬鹿にした『蒼穹の剣』は、帝国冒険者から見れば憧れのパーティなのよ。そんなパーティを傘下にした『キャメロット』には、多くの帝国冒険者が畏敬の念を抱き同時に、『キャメロット』に入れば、もしかしたら『蒼穹の剣』の一員になれるかもしれないと考えるでしょう? 今の私達みたいにね」


 ぐぬぬとレックスさんが、歯ぎしりする。


 冒険者が他所の国のパーティに移籍することは問題ではない。ただ、他国から引き抜くには、国内から引き抜くとは比較にならないほどの莫大な金が必要なので、滅多に行われないのが現状だ。でも、『蒼穹の剣』ごと、『キャメロット』の傘下に入ったのであれば、話は別だ。


 クラン内の人員入れ替えと言う名目で、『キャメロット』所属の個人Sランクの冒険者を『蒼穹の剣』に配置するだけで済むので引き抜き金は一切掛からない。


「だ、だが、何故だ! いくら『蒼穹の剣』が、帝国では憧れのパーティでも、いくら何でも個人Sランクの冒険者をこんなに大量に送らないだろうが!!」


 レックスさんの言うように、身売りしてきたとは言え、見ず知らずの人間が収めるパーティに貴重な戦力である個人Sランクのほとんどを他国に送るのは不可解だ。少なくとも、Sランクとは言え見ず知らずの僕のために、そこまで力を割く義理はない。そう、見ず知らずであればね。


 僕は、優しくレックスさんに思い出させて上げた。


「レックスさん。僕が『蒼穹の剣』を継ぐ前まで、どこで何をしていたのかをお忘れですか?」

「はあ? てめえの過去なんて……そうか! てめえは確か」


 どうやら、思い出したようだ。『蒼穹の剣』を継ぐ二年前まで、僕が帝国最強の冒険者クランである『キャメロット』のトップである親パーティに所属していたことを。


 レックスさんは知らないだろうけど『キャメロット』のトップであるクランリーダーと僕は戦友であった。それこそ、レックスさんよりも、大切な戦友である。


 だから、『蒼穹の剣』はこれから『キャメロット』の傘下として、クエスト報酬の二割を納めるのと、引き換えに、『キャメロット』に所属する高ランクの冒険者達をはじめとした、普通では考えられないような巨大な援助を得ることができた。


 しかも、やってきたリーフェを始めとする五人のSランク冒険者達は、帝国で活動していた時の僕のパーティメンバーだ。連携不足などあるはずがない。


 こうして、僕は、解体寸前の『蒼穹の剣』の名を守りながら、多額の支援をほとんど無償で得て、『蒼穹の剣』をあっという間に復活させることに成功した。


 ここまで、説明して状況を完全に理解したレックスさんは悔し紛れに叫んだ。


「てめえ、他国の奴らの力を借りてまで……しかも、歴史ある『蒼穹の剣』を他国に売り渡してまで、復活したいのか!!」


 そのレックスさんの言い分に僕は怒気を込めて言い返した。


「何が、歴史ある『蒼穹の剣』だ。あんたも、他の冒険者もギルドも、みんな古臭いパーティだと蔑んで、大変な時に一切支援してくれなかったじゃないか!そのくせ、自滅するように誘導しておきながら、他国に渡るのは嫌と言うのは筋違いだ!」


 僕は今までの恨みを込めて、ギルド中に向かって吠えた。皆、負い目を感じているのか、黙ったままだが、その場で聞いていた一部のパーティから、その手があったかと言う声がしたのを確かに聞いた。





 その後、『蒼穹の剣』の一件を皮切りに、モンスターの活動が活発で、伝統のあるランド王国で一旗揚げようと、帝国以外にも、様々な国のクランが、変なプライドを持たない王国の低ランクのパーティを傘下に治め、巨額の資金と自分のクランに所属する強者を大量に王国に送り込む事態が次々と発生した。


 本来であれば、王国の冒険者ギルドが、他国の冒険者ギルドと協議してこうした問題の対策を進めるはずなのだが、長い間、自国の中でのみ金儲けの事しか考えていなかった王国の冒険者ギルドに、急成長を続ける他国の冒険者ギルドと交渉する力はなく、国との諍いには関わりたくない表明して王国の冒険者ギルドは、これを黙認した。


 その結果、他国のクランの傘下に入った王国の低ランク以下のパーティが次々とSランクパーティへと昇格を果たしたのだが、それとは対照的に、他国のクランの傘下に入ることを拒んだ『白銀の盾』を初めとする王国のSランクパーティは、善戦するも、最終的には、クランというパーティの集合体が持つ、圧倒的な資金力と豊富な人材に負けて、Sランクパーティの座を追われていった。


 


 さて、王国民の中には、僕の事を、王国の誇りを売った売国奴と蔑む人達もいるが、それと同じくらい、停滞して腐敗していた王国の冒険者業界を救ったと言う声もある。


 だから、僕は僕の事を慕ってくれる人達のために、次の目標を立てた。それは、他国のクランの力を借りて、王国の冒険者を救い、その後、他所からの影響を受けない王国初のクランを作り上げることだ。

 

 でも、その過程で、誰か、例えば、他国の冒険者を追い出すというやり方はしないと決めている。何故なら、レックスさんの時のように無理に一人追い出すと、連鎖して出て行って欲しくない人達まで、次々と出ていくのを僕は知っているからだ。


 そう、追い出された方ももちろん大変だけど、追い出す方も楽じゃないのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 ひとりが抜けると二人三人と抜けていく、あるあるですよね。
[一言] 感想を書き込んでる連中は作者さんに親でも殺されたのか? 僕にできることは少ないけれど、せめて彼らが前向きに生きていけるように祈ろう 面白かったです! 前作は徹底的なざまあでしたが、このぐら…
[一言] ガイジ感想マンが沸いてて草生えますよ。 さて、作品についてですが、短編で、多分思いついたことをささっと組み上げて行ったんだと思います。ですので、幾分かガイジ感想マンの意見にも同意できる粗が…
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