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Next my life?

「おい起きろ」

 その落ち着きながらもどこか乱暴さを感じるような男の声で俺に意識がある事に気付いた。だが視界は真っ暗でまぶたを開けようとしても異様な程重たくて何を言えばいいのか何をすればいいのか全くわからないし、下手したら重力の方向を知る事すら叶わないかもしれない。でも何かはしなければいけないと思い、そこで確認の為に身体を動かす事にしてみた。

 まず初めに両手を握ったり広げたりしてみる。

 一、二、一、二……

 指を折り曲げている感覚と指の腹が手のひらを触れている感覚がしっかりと伝わってくる……どうやら繋がっているらしい。だがどうしてだろうか、指から伝わる手の温度が冷たく感じる。死んだはずの俺の身に何かあったのだろうか……だが証拠が少なすぎて確証も得られないしまだどういう状況かも把握出来ていない。

「ふむ、まだ魂が混濁しておるのか……仕方ない」

 前方にいると思われる声の主がそう言った直後に前から風のような何かが俺の身体を押して、よろめき始めた身体を無意識に四肢を動かして体勢を持ち直そうとするが足がもつれてしまって倒れしりもちをついてしまった。

 うう、何なんだ今のは……だけど腕も脚も動かせるって事はきっとそういう事なんだろう、それともう少し無茶が出来るかを試すか。

 俺は立ち上がるために上半身を倒して手の平を頭の横で床に付けて下半身を上半身の方に折り畳んで腰を少し浮かしてから、そのままバネの要領で全身を伸ばし勢いをつけて身体を起こしそのまま床か何かに着地して立ち上がった。

 激しい動き……といってもおかしいがそういうのも大丈夫みたいだ。

 そして最後に右手を顔の位置まで動かし、親指と人指し指で両目の重いまぶたを上げたーー


 暗闇だった、周囲を見ても俺を中心に半径一メートルが照らされているだけで他は暗闇だけだった。

 そもそもなぜ照らされているんだ、どこを見てもそれらしい光源なんて見当たらないぞ?

 だが俺ははっとして自分の身体を調べられる限り確認する。

 ……かなり汚れているが死んだ時と同じ服だ……でもこれって、血……!?

 それを見て取り乱した俺は見回し過ぎて方向を見失いあわててとにかく前に走ろうとしたが、突然後ろからコツンという足音が聞こえ、直後その方向に振り返った。

 そこには、男性がいた。ここからおそらく五メートルぐらいの距離、身長は二メートルと少し、髪もひざあたりまである銀色で、耳も十分長く先が尖っていて、黒色のローブの下に青色の生地がちらりと見えて、特徴的なペンダントを身に付けているかなり若く良識そうでイケメンな顔の男が。

 おそらくさっきの声の主はこの男だろうと思う、だがその男を見た瞬間俺は体験した事のないとてつもない物を感じた。そう、逆らってはいけない、従わなければならない、気にそぐわない事をすれば一生終わらない人生を歩む事になる、全身が凍りつく程底の見えない恐怖を。

 俺は一歩退こうとした。だが先ほど動いていたのが嘘のように脚が全く動かない、無理矢理にでもと腕も動かそうとするがそれも全然動かない、なにがなんでもと身体全体でやろうとするが一切動けない、もう身体が脳の命令を拒否しているのか、それとも脳が直感的に命令を送らないでいるのか。

 そう考えているうちに男はゆっくりと俺の方に近づいてくる。四メートル……三メートル……二メートルと、一歩ずつがただただ不気味で、歩いてくる度に身体が重くなって鼓動が早くなっていく錯覚すら感じた。

 何も出来ない、出来るはずがない、抗う事なんて出来る訳ない。

 そして男が俺の一メートル先で歩を止め、その二メートル以上もある身長に気圧される。

 ーーもう、捨てたかった、あのまま死んでいたかった。

 そう思った俺に、男は俺の目を見てあの声で、こう言った。

「……うむ、絶望して死んだ目をしておるな」

「ぇ……ぁ……」


 俺が男に向かって最初に言えたのは、虫の羽音にすら負けるぐらいの、弱く、小さく、情けない、極限までかすれたうめき声だった。

 男は俺から一歩下がるとフッと姿が消えて数秒後、闇だったこの場所が一瞬で光に包まれ、あまりのまぶしさに咄嗟に目を力強く閉じてさっきまで動かなかったはずの左腕で目元を覆う。そして改めてこの場所を見るために両目をゆっくりと開ける。

 ーーそこは高さも横幅も奥行きもかなり広く柱も規則的に列べられていて、一番奥の段差を上がった所には玉座が二つある白と黒と紫が基調の豪華な部屋、つまり王様がいるイメージが強いあの部屋だった。

 その事を知った俺はあまりの凄さにしばらく棒立ちになっている事に気付いてすぐにあの男がどこにいるか辺りを注意深く探すが、玉座から目を離して一秒もせずにもう一度玉座の方を向くと向かって右の玉座に男は座っていた。そこまでの距離はおそらく二十メートル。

 やはりと言うべきかその男を視界に捉えた途端にあの恐怖が沸き上がってきたが、さっきのに比べれば全然違って体が自由に動けるのがわかる。だがここから逃げるのは俺がなぜこんな所にいるのかを知る機会を失う事を指すだろう、その為にもあの男から真実を聞き出さなければ。そう決心した俺は玉座の方へと歩を進める。しかし足が床に着くまでの時間が異様に長く感じ、また距離も異常な程遠く感じた。そして段差の前に差し掛かった時、俺はそこで立ち止まってしまった。

 実際の所は怖かった、死んだはずの俺がなぜ生きているのかの理由を聞き出すのが、壊れたはずの俺がなぜ直っているのかの理由を聞き出すのが。

 しかし俺がそこで停止していると男は立ち上がってこっちに来るのか段差を降り始める。

 訳がわからない、あいつは俺をどうしたいのか全く想像がつかない。

 ゆっくりと着実に、男は段差を降りてくる。そして下から三段目の位置で男が止まり、そこから俺の顔をじっと見つめてきた。こっちも何かしなければと思ったが、俺も男の顔を、目を見つめ返すしかなかった。

 その時に気付いた事だが、見つめていると恐怖よりも好奇心が勝るくらいに男の眼は澄んで透き通った青色をしていて、どこか俺の事を見透かしているようにさえ思えた。

 そして十秒以上の沈黙の中、男は何を思ったのだろうか微笑んだ。

「初めまして、我の名はエクサバーンディア=トラリアナ=ソレイニシア、人は我を魔王トラルと呼ぶ」

 自分の事をそう言ったこの男は俺に向かってお辞儀をする。それに俺も答えなければと思い、

「俺の、名前は、紫音……四ノ宮、紫音……」

 かなり声が震えてた、まだ慣れていないんだ、それに、心臓が、止まっているように感じるんだ。

「ふむ、シオンと申すのか」

「早速なのですが……俺が、生きてここに、いる訳を……教えて、ください……」

 ガタガタな声で俺は一番に聞きたかった事を口に出した。だがトラルは微笑んでいた口元を戻し、残りの三段を降りてから俺を通りすぎる様にゆっくり歩く。

「では、お前が死ぬ際の出来事を覚えておるか?」

 実に単純だが、思い出せばトラウマになってしまいそうな質問。しかし俺はトラルに伝えると共に心の整理のために思い出せる限りの事を彼に向かって口にし始める。

「……俺は前の世界で両親に見放されて嘆き悲しんで、一人じゃ何も出来ない自分はもうこの世で生きていけないと感じ、夜に人知れない山奥で自傷した上で高い崖から飛び降りました……落ちた直後は何ヵ月も経ったように感じたし、頭の中に思い出がよみがえって泣いてました……それから太陽が昇ったり降りたりを繰り返して何度目かの朝に誰かが視界の端に見えて……」

 ここで違和感を知った。いや、完全におかしい事に気付いた。


 ーーなんで死んだ後の事を覚えてるんだ?


「やはりそうであったか」

 トラルは全てを察したような口ぶりでこっちを振り返り、かと思えば一瞬で遠くに移動し、直後に部屋の光景が外の世界へと移り変わる。

「我は今から十の月が昇る前、我の親族と共に身を清め力を極めるその一連で実験も行っていたのだ。その時の物はゾンビを生み出す魔方陣を強化した代物だったのだが、不思議な事に術式は発動しても何も起こらなかった。しかし術式が失敗したのであれば発動しない故、我はその時から一睡もせずに調べ、五つの月が昇りし時にこの世には変化がない事に気付き我は何か別の世界があるのではないかと仮定し、三つの月が過ぎし頃にシオンの世界を見つけ、二つの月が過ぎるまでに世界間の転移をする事を行える術式と魔方陣を完成させ、すぐに起動しシオンを呼び寄せたのだ」

 トラルが状況を言う度にその情景が映し出され、言い終えた後はまたあの部屋に戻りトラルはいつの間にか俺の横に立っていた。

 長くてよくわからないが、要は偶然が重なってこうなった……という事なのかもしれない。

「そしてシオンの話を聞いて思った……あの術は『生きている人間一人を世界関係なく無差別に選んでゾンビに変換する』凶悪極まりない物だと」

「それって……」

 誰か一人が必ず不幸な化け物になるという事だと言おうとしたが、まだ確信は持てない、今は実例が俺一人だけで、まだ証拠が少ないから。しかし魔方陣や転移という単語から違う確信を得た。


 俺は、生ける死体となって異世界に転移した事をーー


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