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俺はスライム!  作者: 椿坂悠季
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プロローグ

 昔懐かしいレトロゲーム。

 今、またブームを巻き起こしているという。


 俺もその時代を生きた世代。某有名ソフトが発売になった時は、信じられない程の長蛇の列が出来ていたのを覚えている。

 当時は社会現象になるほどの熱狂ぶりだったが、今でもレトロソフトを扱っている店があることを考えると、やっぱり昔のゲームはそれだけ人気があったという事だろう。


 最近のゲームはオンラインのものがほとんど。時間が合わないと、結局一人でプレイすることになる。

 そんなゲームに飽きた俺は、昔のソフトを探そうと、押し入れに入っている段ボール箱を引っ張り出してきた。


「ああ、これやったな。激ムズ過ぎて途中であきらめたっけ。こっちは……、ヤベぇ。これアイツの名前書いてあるじゃん。返し忘れてたんだな」


 そうやって、一人でぶつぶつ言いながら漁っていると、見たことがないソフトが出てきた。

 箱入りで、まるで新品同然。一度もやったことがなさそうだ。

 タイトルは『魔王の黙示録』。全く聞いたことがない。


「なんだ、これ? いつ買ったやつだろう?」


 記憶にも残っていないということは、親が買ってきて仕舞ったままになっていたのかもしれない。


 俺は興味をそそられプレイしてみることにした。

 ビニール袋に入れられたゲーム機を取り出し、さっそくテレビに配線を繋ぐ。そして、改めてそのソフトを見た。


『魔王軍の一員となり、人間の世界を支配しよう! 君の貢献度によってストーリーが変わるぞ』


 箱裏にはそんな文句が書かれている。


「魔王軍の一員? 普通は倒す方だろ?」


 俺は首を傾げた。

 よくあるゲーム、特にRPGなどは、自分が勇者となり悪を倒すというのがお約束。そして、魔王と言えばラスボスだ。

 だが、このゲームは逆で、人間側を攻めるということらしい。


「なんて斬新な……」


 きっと、この設定のせいで知られていないのかもしれない。

 クソゲーの匂いを感じつつも、俺は箱からカセットを取り出した。

 黒い本体に赤いパイロットランプが付いていて、ラベルにはいかにもなイラストが描かれている。

 カセットをゲーム機に差し込み電源を入れると、タイトルと同時に重々しい音楽が流れ出した。


「これは、子供向けじゃないな」


 そんなことを思いながらスタートを押すと、音楽が変わり名前入力画面になる。

 レトロゲームならではの「ひらがな」表記に苦笑いしながら、俺は「じゃっく」と入力した。

 すると、オープニングムービーが始まる。


『魔王と人間の争いは百年以上続いていた。多くの魔物が倒され、魔族たちもたくさん消滅した。だが、魔王は戦いを止めなかった。なぜなら、魔物だから、魔族だからという理由だけで傷付けようとする人間を、許せなかったからだ――』


 いきなりの人間否定に俺は驚いた。

 確かに『ただ狩るだけのゲーム』なども存在するが、ほとんどのゲームは正義の為に戦っていたはずだ。

 いや、そもそもそれは人間側の正義であって、魔物側の正義だってあるのかもしれない。

 俺はそんな想いを抱きながらゲームを進めた。


 場面が変わり、俺の分身であるキャラクターが王の間へとやってくる。

 そこで、魔王が俺に話しかけてきた。


「じゃっくよ、良く来てくれた。我々は今劣勢だが、そなたの働き次第で優勢に変わることだろう。もちろん、やってくれるな?」


 と、ここで「はい」「いいえ」の選択肢が出てきた。


「えっ? いきなり? や、だってそういうゲームだろ?」


 俺は迷うことなく「はい」を選んだ。すると、急にカセットのパイロットランプが点滅し始めた。


「な、なんだよ。壊れたのか?」


 そんな心配をよそに、ますます点滅が激しくなる。


「くそっ!」


 電源を切ろうとゲーム機に手を伸ばしたその時、パイロットランプの赤い光が俺の体を包み込んだ――。



◆◆◆◆◆◆◆


 俺が目覚めたのは薄暗い部屋だった。明かりはあるようだが、どうもぼんやりしている。

 意識をハッキリさせようと瞬きしていると、誰かの声が聞こえた。


「おお、気がついたか。気分はどうだ?」 


「あ、はい。だいじょう……ぶっ!?」


 無意識に返事をして、声をかけてきた相手を見た俺は、そのまま固まってしまった。

 俺の顔を覗き込んできたのは、ガイコツだったのだ。


(な、なんの冗談だよ。おい!)


 状況が分からず固まってる俺に、そのガイコツはさらに話しかけてきた。


「ああ、すまんな。驚かせてしまったか。だが、心配はいらん。ここには邪悪な人間どもはいないからな」


「えっ?」


 何の話をしているのか分からない俺に、今度は間仕切りの向こうからランプを持った別の人物が話しかけてきた。


「お前さんが森でぶっ倒れてるのを、そこにいるライアンが運んできたんじゃよ」


 白衣姿の人間――のように見えたが、それにしては顔が青白い。


「安心しろ。先生はバンパイアだ。人間じゃない」


(いや、むしろ心配なんですけど……)


 そんな俺をよそに、二人は会話を始める。


「それにしても、西の森にまで人間が現れるとはな。守りを固めるよう進言しておいた方がいいかもしれん」


「そうだな、後で言っておこう」


「しかし、よりによってスライムをいたぶるとは……。我らへの見せしめか?」


「さあな。そこまでは分からん。だが、傷が浅くて良かった」


「ああ、そうだな。後でダークプリーストの――」


「ちょっと、待ったあ!!」


 俺はたまらず会話に入っていった。

 さっき、なにやらおかしな事を言ってなかったか?


「ど、どうした?」


「い、今、スライムをいたぶってたって……」


「ああ。それがどうした?」


「まさか、他に仲間がいたのか?」


「そうじゃなくて。俺はにん――」


「ああ、忍者スライムか」


「はあ?」


(なんだよ、忍者スライムって。聞いたことねえし!)


 話が噛み合わないことにイライラした俺は、部屋を出ようとしてハッとする。


「か、身体が……透けてる?」


 なんと、自分の身体を透かしてベッドが見えるのだ。


(な、なんだこれ?)


 そして、さらに驚く。

 今、立ち上がろうとした先に……足は無かった。


「あ、あの……」


「今度はなんだ?」


「鏡とかって、あります?」


「鏡?」


「これでいいか?」


 バンパイアが持ってきた鏡を恐る恐る覗いてみると、そこに映っていたのは俺では無かった。

 いや、正確には俺なのだが、人間の姿の俺ではなく、グミみたいな丸い輪郭をした俺が映っていたのだ。


「なんじゃこりゃあー!?」


 俺は叫ばずにはいられなかった。




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