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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第三章 極光の夢
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第26話 夢の終わり 第10位

 ――見せてくれた夢は、あなたの夢で、結局それは私の夢ではなかった。


 マリア・ラングルージュ。始まりの精霊騎士第10位。そして精霊種最古の血統の一つ、ラングルージュの名を冠する者。


 ラングルージュの家系は必ず精霊種になる。必ず。人の血が入れば精霊は、その血をゆっくりと薄めながらついには人になる。一度でも血が混じれば翼は生えなくなる。


 だが彼女の血統は違う。どれほど人の血が入ろうとも、人として生まれたとしても、いずれか先祖返りして精霊になる。つまり、ラングルージュの血は、精霊種としての最高の力を持つ血筋である。


 彼女の父は人で、母は精霊。子は翼無しの精霊となるはずが、生まれた時の彼女の背には白銀の翼が輝いていた。


 マリア・ラングルージュは人を親に持つ翼を持つ精霊種。世界唯一無二の存在。


 でも、何も特別なことは無かった。無いて、笑って、恋をして。それは何も特別ではなかった。


 それは皆、誰一人彼女を特別視しなかったから。だからマリアは真っ直ぐに、皆と同じ夢を見ることができる。


 楽しいから、皆で剣を覚えた。


 悔しいから、魂結晶の使い方を覚えた。


 恋しいから、その男を求めた。


 空しいから、その男を諦めた。


 夢を語る男があまりにも眩しくて、彼のすることを見たいと、マリアは旅についていった。


 長い旅の果てに、強力な敵と出会う。彼女は敵から父と、村人を守るために身を挺して戦い、そして死んだ。マリア・ラングルージュは始まりの精霊騎士の中で、ゲンヴァ・イルバージュに続く二人目の戦死者となった。


 そこまでが彼女の生前。だが、彼女の血は特別で、彼女の身体は特別で、死んで朽ちる前に、彼女の身体は結晶となる。


 それは、白銀の結晶。何よりも硬く、何よりも重い、結晶。だが父が触ると綿のように軽く、柔らくなる結晶。重く、軽い、ありえない物性を持つ結晶。


「ふぅ……楽しくないわぁ、ねぇあなた、この時代の騎士なんでしょ? 情けないと思わない?」


 石像に腰を掛けて、マリアは白銀の翼を畳んで足を組んで頬杖を突く。その姿は妖艶で、まるで何もかも飲み込みそうな色気と儚さを秘めていた。


 彼女の足元には何人ものルクメリア騎士団の騎士たちが倒れている。ほとんどが一刀の下に斬り伏せられたのだ。


 マリアの手には曲剣、彼の父、ディレット・ラングルージュが打った最高傑作の刀剣。それはしなやかさを持ち、たわみ、曲がりはするが、決して折れない片刃の剣。それを鞘にしまうと、彼女は石像から腰を上げた。


 きわどく、露出の多い服をなびかせて、彼女は歩く。腰を揺らし、その身体を誇示するかのように。倒れている騎士たちを踏みながら歩く。


「鎧を出すまでもないわよ? ほらほら、どうしたの? 誰か起きてみなさい。それとも、死んじゃった? 加減したんだけどなぁ」


「あ、おごっ」


「ふふ、ふふふふ! ああもう……こんな場じゃなかったら男前のやつ捕まえて一生弄んでやるのに」


 一人の騎士の胸を執拗に踏みつけ、マリアは口角を上げて笑う。足の下にいる騎士は口から血を流しながら、ビクビクと痙攣していた。


 笑う、マリアはへらへらと笑う。愉悦さを感じているのだろうか。その白銀の翼を広げて、笑いながら前を向く。


 彼女の視線の先には大きな身体を持つ男、その太い腕と、太い脚、胸はまるで鉄板のよう。


 ジョシュア・ユリウス・セブティリアン。白銀の剣を持ち、マリアの前に立つ。


 その威圧感の前に、マリアは足を騎士の胸から降ろす。曲刀を右手で握り、鞘から抜き、それを顔の前に持ってくると、右に払った。


「んー……まさか領域の主とは……ちょっと趣味じゃないけど、まぁこれで我慢しよっかなぁ?」


 マリアがニヤリと笑う。少し腰を落として、剣を構える彼女の姿は一つの隙も無く。


「何だ、随分と高飛車な女だったんだなマリア」


 ジョシュアはそれをみて自らの剣に語り掛ける。輝く白銀の剣の前に、曲刀を持つ彼女は少し驚いた顔をする。


『早く倒しましょう。若いころに馬鹿をしてた自分をみるのって結構くるわ……』


 白銀の剣がジョシュアに向かって言葉を発する。その声に、使徒のマリアはまた驚きの顔を見せる。


「しゃ、喋ってるぅ!? 私しゃべってるぅ!? えっなんで!? どうして!? だって星の記憶だと、アークの記憶だと、喋れないんじゃん! 何で!?」


 先ほどの妖艶な姿はどこへ行ったのか、白銀の翼をぴこぴこと上下させ、使徒のマリアは甲高い声をあげた。戦っていることも忘れて彼女は一足にジョシュアの剣に向かう。


「私! 何で!? 私はマリア・ラングルージュで、アークと星の記憶から産れた使徒で、裁縫ができなくて、料理もできなくて、刀しか使えなくて! それで! 死んだら身体が結晶化して! 魂結晶の暴走? いや、それいいけど! それで、それで……意識なんてほとんどなかったのに。何で?」


『何でって言われても……』


「はぁはぁ……そんな馬鹿なことって、星の記憶、私は記憶。だから、記憶が二つ存在するなんて、魂は、星に帰って、使徒の記憶は星からしか……記憶は星の記憶で……魂は魂結晶で……」


 鼻息荒く、使徒のマリアは白銀の剣マリアに語り掛け、そして固まる。その手を顎に当て、じっと考えこんでいた。


 ふと顔が上がる。その顔からは慌てふためいていた時の顔とは違い、真面目な顔をしていた。


「……まぁいいわ。答えは剣で聞きましょう」


 白銀の翼を広げて、マリアは剣を地面に突き立てる。盛り上がった石や土は彼女を覆う。


 石や土に埋もれた彼女は剣を左へとゆっくりと構え、そして一気に右に払った。その払われる衝撃で一気に彼女の身体に纏わりついたモノは消し飛ぶ。


 現れるのは白銀の鎧。背には白銀の翼と、それに覆いかぶさるような赤いマント、どことなく、ジョシュアの鎧姿と似たような姿だった。


「私を持つ者ならば、加減は不要でしょう。さぁあなたも鎧を出しなさい。ふふふ」


「いや、このままでいい。来い」


「自信あるのね。まぁいいわ。楽できれば私も嬉しいし、あなたを殺せば、私たちの勝ちだしねっ!」


 走る。その白銀の鎧を着たマリアは一足でその距離を詰めた。


 踏み込む、地面が割れるほどに、その踏み込みと同時に横に払われる曲刀。受け止めるジョシュアの剣は、白銀の光を放ち軽々とその剣を受け止める。


 甲高い金属音が周囲に鳴り響く。衝撃で地面が捲れる。


 マリアは自分の身体を引く、下がると同時にもう一閃、ジョシュアの剣は少しだけ角度を変え、マリアの剣を受け止めた。


「これは…強いわね。ジークといい勝負よ。ここまで人が強くなれるなんて」


「お前に言うのもおかしな話かもしれないが、お前のおかげだ」


「あーそう、それは光栄です」


「行くぞ」


「はい、おいでなさい。でも……悪いけど硬いわよ私の鎧」


 その言葉を聞いて、ジョシュアは鼻で笑う。そして剣を肩に、ゆっくりと彼はマリアに近づいた。


「ならば何度目で割れるか、数えてやろう。まず一度目」


 ジョシュアは白銀の剣を大きく振り上げ、そのまま一気に振り下ろした。ただ力に任せて。


 マリアは曲剣でそれを受け止める。


「はぁっ!? うっそっ!?」


 さすがの名剣か。折れることは無かったが、一撃でその曲剣は叩き落される。剣を握っていた握力を軽々と無力化したのだ。


「二度目」


 もう一度振り上げ、ジョシュアは背を少し反らすと、また同じ軌道で剣を振り下ろした。両腕を交差させて受け止めるマリアの腕は叩き斬られずに、そのガントレットには少し傷が走った。


「うっ……」


「三度」


 もう一度、振りかぶる。斧を振り下ろすかのように無骨に振り下ろされること三度。マリアのガントレットはそれで砕け散った。もうひと押しすれば両の腕は地に落ちていただろう。だがジョシュアは、ガントレットを砕いた瞬間に剣を止めた。


 その技術は実際とんでもないものだったが、それよりも何よりも、マリアは自分の鎧が砕け散ったことに驚いていた。


「あ、ああ!? うっそ冗談でしょ!? 私の、私の鎧よ!? だって、防御力だけなら、ロンドの剣だって防げるのにっ……!?」


 マリアは痺れる腕を揺らしながら、飛びのくように後ろへと跳んだ。腕のしびれは身体に伝わり、そして足に伝わる。マリアはその勢いのまま後ろに尻餅をついた。


 その瞬間に彼女の白銀の鎧は消え去る。


「……ああ、駄目ね。これでも私、剣の腕だけならかなりのものなのに、あーもう……結局中途半端ね私」


 自虐的に笑う彼女は、その足を両手で抱えた。白銀の翼はおりたたまれ、まるで鳥が翼を休めるかのように、顔を膝にうずめる。


 ジョシュアは白銀の剣を彼女の前に突き立て、そして地面にどかんと座った。


「ねぇ、私、楽しかったのよ。旅、だから、あそこで終わりたくなかったの」


 マリアは膝に顔をうずめたまま、ぼそぼそと話し始めた。ジョシュアはそれを無言で聞く。


「でも、終わっちゃったのよ。蛮族の剣士に、殺されちゃったのよ。仇は、アークがとってくれたけどさ。でもさ、終わったのよ。私、途中で終わっちゃった」


 顔を上げたマリアの眼は、少しだけ涙が潤んでいた。その銀髪に隠れた赤い眼から流れる涙は白銀の翼を濡らす。


「ねぇ、剣の私、私って、死んでからどうだった? 何を考えてた? あの後悔まみれの最期から、星の中に私の記憶はない。教えて?」


 ジョシュアは白銀の剣をコンと叩いた。答えてやれと、彼は言っている。白銀の剣マリアは表情は無いが、あるとすれば仕方がないという顔をしていただろう。ゆっくりと彼女は語り始めた。


『私、魂の力ありったけ吸うまで凄い意識曖昧だったんだけど、でも思っていたことは一つよ』


「……なに?」


『後悔するぐらいなら今生きなきゃってね。こんなに強いのに奥さんに一回も口喧嘩で勝てない男とか見てると笑えるわよ。ふふふ』


「おい、誰のことだ」


『誰のことでしょう?』


 口を真一文字に結び、ジョシュアは腕を組んでふてくされたような顔を見せた。使徒のマリアはその顔を見て、口元をほころばせる。


「ぷ、ははは! そう! やっぱりそうよね! うん……やっぱりそう、私、いやマリアの魂は、まだ星に帰ってなかったのね。ふふふ……ははは!」


 笑う、使徒のマリアは笑う。その姿に、ジョシュアと剣のマリアはあっけにとられた。


「はぁー……あなたは確かに言った。今を生きると、そうよ、生きてるのよ。マリアは生きてるのよ。だって、お父さんは、結晶化した私をそのまま剣にしたのよ。だから刀身は肉体で、魂結晶はそのまま心臓の位置に。だから、そのままなのよ。形が変わっても、私はそのまま生きてるの!」


 彼女は笑う。高らかに。


『は、はぁ? えっどういうことよ』


「ラングルージュの血は、特別ってことよ。ふふふ……はぁ、それじゃ記憶に過ぎない私は消えましょう。本物がいるんですもの、私の存在の意味なんてないわ」


 使徒のマリアは立ち上がる。満足そうな顔をして、そして彼女は少しずつ光を放って、その姿をだんだん薄めていった。


「あ、そこに落ちてる私の剣、あれ上げるわ。あれは記憶じゃない、実剣よ。アークが形見でもっててくれたの。私の相棒で、私を殺した剣なんだから大事に使ってよ」


「ああ……ありがたく貰っておこう」


「うん、あー……なぁんだ。いろんなことあるのね。それじゃあとよろしくね。私と、私の使い手さん、アークを止めてください。あの人を殺してください。お願いしますね」


 そう言い残すとマリアの姿をした使徒は消えていった。ジョシュアは落ちている剣を拾うと、白銀の剣を見ると、そのまま次の相手の下へと歩いていった。

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