第7話 黒い軍団 中編
黒い鎧の胸に刃が食い込む。鉄を叩き割れるジョシュアの両手剣が鎧で止まる。
「ぬううう!」
黒い鎧の兵を力を込めて蹴り飛ばした。蹴とばされた仲間を意にも返さず他の兵は間合いを詰めてくる。
「ジョシュア! 隙間だ隙間! 硬てぇぞ! くっそテメェら!」
黒い鎧の兵士たちは剣技が優れているわけではなかった。騎士の塔で十年間剣を学んだジョシュアとダンフィルには捌ききれない程ではなかった。
しかし数がいる。鎧が固い。
「ダンフィル! さっきの二人が連れ去られる!」
「鎧化した兵がこんなにめんどくせぇとは!」
ジョシュアは兵三人を両手剣の重さのままに薙ぎ払った。壁に叩き付ける。
倒れた兵士の傍には槍、兵士が使う量産型の槍だ。あまりできがいいものではない。
「ダンフィル槍を取れ!」
「応よ!」
ダンフィルは槍を拾った。右手で振る。左手で振る。頭の上でぐるぐると回す。
「安もんだなこれ……だが使わせてもらうぜ。ジョシュアここは任せろ!」
「あれだけ自慢してたんだ。頼むぞ」
槍を頭の上で高速で回すダンフィル。風が巻き起こる。風が重さを持つ。風に色が着く。
風はダンフィルの周りに固まり、腕に胸に足に頭に、全身に鎧となって形を持った。
「俺の首にぶら下がってる石はぁ! 精霊の石なんだぜこの真黒軍団がぁ! 同じ条件なら負けるか馬鹿野郎!」
頭の上で回していた槍を止めるとそれは一回り大きくなっていた。
「ぬぅらっ!」
一足に飛ぶ。ダンフィルの身体ははじかれる様に飛んだ。
そのままの勢いで突き出した槍は兵士の一人を貫いていた。
「ジョシュア悪いが全部貰うぜぇ!」
黒い兵士たちがダンフィルの方を向く。兵士たちは気づいたのだ。今優先すべき敵は鎧化を果たしたダンフィルであることを。
兵士の一体の頭が飛んだ。ジョシュアの両手剣がその頭を攫っていたのだ。
「一人は俺が貰った。あとは好きにしろ」
「やるじゃねぇかやっぱり。よしいくぜ!」
ダンフィルの動きは速かった。圧縮された空気に撃ちだされるように、右へ左へ飛んだ。
身体の中心に槍が通る兵士。
頭の中心から叩き割られる兵士。
柄によって叩き割られる兵士。
一瞬の後に黒い兵士は動かない鎧となっていた。
ダンフィルの鎧が風となって消えた。
「久々に全力でやると頭振り回されるぜ。しかしこいつら……ジョシュア気づいたかよ?」
「ああ、中身がない。精霊の石で鎧化をした兵士だと思ったが、鎧しかない。の割には急所は人と同じようだ」
「中身なけりゃ硬さなくなりゃ弱ええよな。おっとお前ら大丈夫かよ?」
倒れた女性に寄り添う男。黒い兵士に連れていかれそうになった人たちだ。
「一体何なんだこれは。聞かせてくれないか」
「まてジョシュア、そっちの人は骨折れちまってるかもしれねぇし、医者の所に行かせてやろうぜ。医者はどこにいるんだよ?」
「医者は……私です。往診が遅くなって日が落ちてしまって……すみません、妹を連れて帰りたいのですがいいですか」
「情報どころではないか……わかった。気を付けて帰れ。家まで送ろうか。妹は俺が運ぼう。ダンフィル警戒してくれ」
「応よ」
「すみません」
連れ去られそうになった二人を一軒の家に送り届けたジョシュアとダンフィルは家の外で一つのことを思い出した。
グラーフたちを迎えに行ったミラルダが帰っていない。
「ジョシュア、あの兵士の数だ。ミラルダさんたちも巻き込まれてるかもしれねぇ」
「ああ、行こう」
「親父の精霊の石がなかったら俺たちも無事にはすまなかったかもしれねぇ。急ごうぜ」
二人は街の集合場所へ急いだ。途中の街では人一人いなかった。
日が昇ってる時に賑わっていた街はそこには存在していなかった。誰もいないだけではない、生活というものの匂いすら消えていた。
集合場所は近かった。当然のように誰もいない。
「いないな……」
「待ち切れずに神殿に向かったんじゃねぇのか? 向こうの道みたいだぜ」
「行ってみるか。ところで鎧化させた槍は大丈夫か?」
「安もんだが丈夫みたいだぜ。鎧化すると簡単に壊れちまうから気を付けねぇといけねぇんだけどな」
二人は神殿へ向かうことにした。ジョシュアは剣を抜き、ダンフィルは槍を握り、進むことにした。
道中は何もない、何もなかった。彼らはまだ気づいていなかったが、神殿への道には普段は商店が並び、活気があったのだが、今は建物も何もなかった。
夜の街は神殿へ近づくにつれて、より閑散となっていった。