第5話 報告
砦には何もなかった。砦すらも。
その事実を目にし、集合場所へ戻る二人の後ろには依然として仰々しく砦が建っていた。
理解することを二人は放棄し、集合場所につき報告をする。
「あそこにある砦は無いというのかね」
「はい」
「ううむ……やっぱりか」
精霊騎士第10位のグラーフは丘の上から砦を見てそうつぶやいた。
後ろに立っていたゼインとミラルダも神妙な顔持ちで砦を見ている。
「やはりというのは?」
「いや……ジョシュア君たちには悪いんだが、もうすでに中には入ってたんだ。私たち三人で。先の任務内容も私たちの任務内容そのままなんだ。任務内容は救出ではなく制圧なんだけどね」
「そうだ。俺達リンドール隊はルード神国へ和平交渉へ行くところだったんだ。前回の和平交渉時に捕まったロンドベリアの代表を奪還してな。んで壁をよじ登って入ったんだが……」
「誰もいなかったんすか?」
「そうだダンフィル君。しかし見てみろ。砦は依然とあそこにあるんだ」
ジョシュアとダンフィルは砦を観た。警備の人員はいないが、建物はそこにあるのだ。
2人、いやここにいる5人にはその状況が理解できなかった。
「精霊の石は人の力に反応して炎を強めたり、固定したりできる。でもさすがに砦一つを一瞬隠すようなことはできないんだよ。私も精霊騎士とはいえまだまだ修行が足りない身だが、1人でルードの軍勢をほぼ壊滅させてしまった第2位の人でさえあそこまではきないだろう」
そのままグラーフは無言になった。彼はルクメリアの中でも随一の剣士であり、頭脳明晰で有名であったが、彼はこのことに答えを出すことができないでいた。
「ジョシュアよぉ。なんか面倒な感じになっちまったなァ」
「ああ……そうだな。ところでリンドール卿、一つ聞きたいことがあるのですが」
「何かな?」
「俺達2人はこのままリンドール卿の部隊へという感じでいいのですか?」
「おっと、そうだった言い忘れてたね。そうだ君たちはこのまま私の部隊へ来てもらうことになる。まぁ僕は、いや私は前線組という感じではないので実戦はなかなかないかもしれないが、一人一人の強さが大事になるんだ」
「マジすかいきなり精霊騎士の部隊っすか。」
「騎士の塔での卒業者が今年は少なかったからね。しかも情報によるとジョシュア君とダンフィル君、二人ともちょっと面白いやり方で卒業試験を通ったそうじゃないか。堅苦しい騎士団の中でそういうのは貴重だし大事なんだよ。ゼイン君は騎士団の剣技大会に毎年出てるし、ミラルダ君は僕に一刀あびせた猛者だ。個人技は申し分なしさ」
「猛者かぁ。やっぱなぁ」
「何?」
「何でもないっす……」
「考えてもしかたないな。いってみるか。ルードの神殿に。何かわかるかもしれない。皆離れててくれ」
そういうとグラーフは腰に下げていた黒い石を取り出した。そしてもう一つ。
両手に持った石をカチッと叩き付けると小さな火花が起こった。石は火打石だ。
瞬間、火が大きくなった。そしてそこから現れる二頭の馬のような甲冑。
「急ごう。私が馬を操作するからゼイン君たちは馬車へ」
「はい、おうお前ら乗れ。ルードは狭いからすぐ着くぜ。ミラルダは先頭だ。先入れよ」
現れた馬の甲冑に中身はなかった。赤い甲冑、不思議なことに甲冑の中は見えないが実態がある。
精霊の石は属性にそったものを物質化する能力を持っていた。火打石で出した炎は出た瞬間に精霊の石によって物質になった。
「全員乗ったかな?ではいくぞルードの首都へ」
炎の甲冑が動く、馬車を引いていく。神殿のある街へ駆けていった。