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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第一章 白銀の剣
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第4話 門

 監獄砦、その広さは小さな町よりも広く、その中には一度入れば二度と出てはこれないと称される城門よりも堅く、城壁よりも高い壁に遮られた監獄があった。


 嘗ては誰も入れることのない砦としての役割を持っていたものだが、いつしか誰も出さない監獄となっていたのだ。


 門は一つしかなく、開くのは囚人が入る時のみだという。その門の前に今二人の男が立っていた。


「警備とかはねぇみたいだな。なぁジョシュアよ一応聞くが…何する気だぁ?」


「叩き壊して入る」


「お前さぁ。暴れて使者が殺されたらどうするんだよなぁ? っておいコラ抜くな剣を。もうちょい考えようぜなぁ?」


 ダンフィルは焦りの中に諦めを感じていた。彼は知っていたのだ。騎士の塔から友だったジョシュア・ユリウス・セブティリアンはやってみるタイプだと。


 そして彼は寡黙な姿からは想像もできないような程に、考えないやつだということを。


 ジョシュアは背から大きな両手剣を下した。彼の剣は背中にフックで掛けているだけだった。鞘は抜き身。すぐに背中の鎧部分が傷だらけになるが彼は気にしてなかった。


 そう彼は一切を気にせず、真っ直ぐに進むのが一番の近道だと、それが一番だと、信じていた。


「ちょっと待て精霊の石無しでこんなんに打ち込んだら剣折れるぞジョシュア」


「持ってるだろダンフィルが」


「ああん? おい待て。俺のは中級の精霊の石だぞ。しかも親父のお古だ。鎧化はできても外に何か飛ばすとかお前の助けになれるとかそんな便利なもんじゃ」


「違う。欠片の方だ。塔からかっぱらって来たんだろう」


「おいおいおい精霊の欠片使えってのか?」


「使わなければ俺の剣が折れる。早くしろ」


「マジかよ……」


 彼は腰の小物入れから割れた欠片を取り出した。


手のひらサイズのその欠片は淡く黄色く光っていた。


「属性は何だ?」


「雷。腐っても上級の欠片だ。あと小さすぎるから鎧化はできねぇぞ。どうしてぇんだ?」


「剣に被せてくれ。一太刀できればいい」


「普通は爆発させて使うもんだからな。覚悟しろよジョシュア」


 ジョシュアはその身の丈ほどもある剣を両手で肩口に構えた。門は正面。


 それを見たダンフィルは手に持った石を握り込み、少し集中する。淡い光が激しく光りだした。


「でっかくするぞ。じゃあいくぜ? 踏ん張れ馬鹿野郎!」


「応!」


 ダンフィルは石を投げた。石が光る。ひび割れた部分を中心に石が砕ける。


 大きな光の玉ができた。黄色く、白く、激しく点滅している。


 ジョシュアはその光の中に剣を突き入れた。光が剣の周囲に集まる。


 一瞬強く光った。それと同時に大きな音が響く。


 光が消えた跡からは、ジョシュアの持っていた大きな剣はさらに大きく、正面の門の大きさを超え、城壁の程の大きさになっていた。刺々しく、大きく、そしてジョシュアの足が震えるほどに重くなっていた。


「でかくしすぎたぜ! ジョシュア大丈夫か?」


 一歩、一歩、一歩


 腰が落ちないよう、膝が曲がらないよう、じりじりと進む。ジョシュアの額に汗が浮かぶ。


 彼の太い腕はもうパンパンに膨らみ、血管が浮いていた。


「むおおお……!」


 力づくで剣を掲げる。剣に帯びる光が少し弱くなった。


 大上段に掲げあげられた剣からは少しづつ光が漏れ、端から崩れだしていた。


「おいジョシュア早くやれ! 欠片の効果が切れる!」


 ジョシュアの背中が弓ぞりになった。力の限りを前に、前に寄せる。


「ふんん!」


 光を放ち、消え去りながら振り下ろされる巨大な剣。


 門まで一直線に落とされた剣。門に触れる剣は触れた瞬間にガリガリと音を立て光を放ち消えていく。


 削れる感触と共に光は消えていく。


 消えた光のあとはジョシュアの両手剣に戻っていた。


「くそっ駄目か!」


 そして、門は傷がついただけだった。彼の一太刀は門まで届かなかったのだ。


「あ、あれ? 思ったよりも派手にいかなかったな。まぁ欠片だしなぁ?」


「やはり俺の法力が乗らなかったか……重量は十分だったんだが。どうすれば法力は鍛えられるんだ」


「お前才能ねぇっていってもこれは俺の法力でやったんだ。お前は関係ねぇよ。しっかしこれじゃただのいたずら……ってあれ?」


「うん? これは……」


 ジョシュアは門の横をみた。門の脇が削れて通路ができていた。それは中まで通じているようだった。


「一人ずつならいけるぜこりゃ。派手にやるのもいいがこういうのもありじゃねぇか? 何か知らねぇけど門の内側に人いねぇみてぇだし。城壁の上にもいねぇ。逆に何かありそうな気がするが何だろうなこれ」


「入ってみてから考えよう。いくぞダンフィル」


「そもそも俺たちのような騎士団入っていきなりのやつにやらせる仕事かねぇ。なぁんか……なぁ」


 門の横の隙間から入る二人、隙間の奥は門の内側の広場に繋がっていた。


「これは……」


「ああん? おいおいおい何だこれ」


 その門の内側で彼らは見た。


 何もない。


 何もないことを彼らはみた。遠くから見えていた壁、そして壁の上から覗く建物。


 無くなっていた。彼らが馬車から降りてほんの数刻。それだけで中にあったものが無くなっていた。


 壁、砦を覆っていた壁だけはある。あとは草と土。そして木だけだった。


「ジョシュア……なんかおかしい。何もねぇけど何かいるぜ。何だこの感じ。ここだけ切り取られた感じっていうんか? わかんねぇ」


「……何もないなら戻るぞダンフィル。隙間から戻れ」


 彼らは感じていた。ここにはいてはいけないと。門の隙間を通り、彼らは戻ることにした。


 彼らは感じていた。何かがいると。何かいる者はこちらを見ていると。


 彼らは馬車へ戻った。

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