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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第一章 白銀の剣
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第3話 街道

「おおっ!?」


 ガラガラとなる車輪。石を踏み跳ねる車体。


 馬が引くその木製の車は、整備された街道を進んでいた。


「石でも踏んだんか? 変な声あげちまった……すまねぇジョシュア水くれよ」


「お前のはどうしたダンフィル」


 ダンフィルは腰から水袋を取り出してつぶした。空っぽだとアピールするかのように袋を振っている。


「仕方ないやつだ。ほら飲み過ぎるなよ」


「どうでもいいけどお前の水袋でかくね? いやいいけどよ」


 大きな馬車の中にジョシュアとダンフィルはいた。揺られる続けてもう数時間は経っていた。


 出発時には出ていなかった太陽。気が付けば真上にかかろうとしてる。


 そして馬車の中には他に二人座っていた。男と女。彼らは出立してから一言も声を発していない。


「出発するときに名乗って以来全然喋りませんが先輩方…いや、そういうのが騎士のスタイルなら俺は何も言いませんけどや」


「よせダンフィル。実地訓練の随伴だ。気を引き締めてくれているんだろう」


「ううん? ああまぁ……いやでもなぁ。でリンドール卿! いつ着くんですかねぇ!」


「もう少しの辛抱だダンフィル君!」


 馬車の外から大声で声が返ってきた。馬車の外には馬に乗った精霊騎士グラーフがいた。


「ゼイン君! ミラルダ君! そろそろ彼らに今回の任務内容を説明してあげてくれ! 馬車を動かす法力は僕のを使う!」


「はいリンドール卿。ゼインさん法力止めます」


「おぷおっまて俺が先に!」


 馬車が大きく揺れ、止まった。そしてすぐに動き出す。


「おおぅ頭のなんか切れるかと思ったぜ……すまんなお前ら。俺たち二人で馬車引いててな。気を抜いたらプッツンいっちまうんで黙ってたんだ。いやしかし…切れるかと思ったぜ」


「ゼインさん下手くそなんですよ」


「リンドール卿の石は上級だぞ? 何年も訓練してきた俺もきっついってのに……おっとすまんかったなダンフィル君、さっき聞こえてはいたんだがちょっときつくって」


「ああいえ、馬精霊の石で作ってたのかよ。鎧化以外にもいろいろ使えるんだな精霊の石」


「上級の精霊の石からできたものは身体から離れていても形を成せるのよ。使い方はまぁ属性によるんだけどね。じゃあえっと大きいのがジョシュア君でそこの小物っぽいのがダンフィル君ね?」


「はい」


「小者ってあんたなかなかキツイこというじゃないですか……」


「ふ……じゃあ地図を、ゼインさん」


「俺平騎士の中で一番年くってるんだけどな……」


 ゼインと呼ばれた男の懐から折りたたまれた紙が取り出される。


 広げられたそれには地図が書かれていた。


「今私たちがいるのはここ。ルクメリア王国の北、ロンドベリア共和国。そして目的地はロンドベリアとさらに西の国、ルード神国との間にある砦、地元の人は監獄砦と呼んでる」


「監獄……」


「そう監獄。ルード神国は本当か嘘か精霊が作ったとされる国。そこには厳格な規律が存在し、規律に反した者は最前線の砦、つまり監獄砦に送られる。まぁ人の壁ってやつね」


 地図に記された砦の大きさは一つの城のようだった。大きな砦であることが地図越しに伝わってくる。


 その地図をゼインは指さした。


「俺たちの任務はここに捕らわれてるロンドべリアの男の救出だ。この男はな。和睦のためにルードヘ行こうとしてここで捕まったんだ。んでなぁ……」


「ルードとロンドベリアは犬猿の仲なのよね。何度も戦争をしている。ルクメリアは何度も停戦をさせたけど。まぁ互いに互いが邪魔でしかたない。ルードは何度もロンドベリアに侵攻したし、逆にロンドベリアも侵攻を防ぐためと称して攻め入った。何度も」


「ミラルダ俺が説明……」


「ゼインさんは口下手なんだからあまり話さなくてもいいですはい」


「俺先輩なんだけど…ジョシュア君、ダンフィル君、騎士団ではデンと構えた方がいいぞ。舐められたらこうなっちまう」


「ゼインさん説明中です」


「お、おぅ……」


 じろりと睨まれたゼインは身体を縮め、視線を落とした。


 ジョシュアはこの二人が長年連れ添った戦友のようだとその姿を観て思った。笑いかけることはできても冗談を言い合うことは短期間の付き合いではできぬものだ。


 こけ落とすのは少し違う気がするが、とも彼は思った。


「はぁ…いい? ルードは数年前に侵攻し、ロンドベリアを滅ぼす一歩手前まで行った。まぁ精霊騎士の介入で戦線はあっという間に元通りだけど。で、締めとしてルクメリアはロンドベリアに和平を促し、それを達成するために使者を送った」


「分かりましたぜミラルダ先輩。その使者が捕まっちまったから助けて和平を進めようってこったな?」


「……ダンフィル君。次私の説明を遮ったら、その舌斬るわ。黙ってききなさい。」


「は、はぁ……」


 ギュっと細められた眼に睨まれたダンフィルはゼインと同じように小さくなった。


 ミラルダの向けた顔はそこに込められたものが怒りの感情であることを理解させるに十分だった。


「怖いだろ? なっ? ダンフィル君たちと二つぐらいしか違わないんだぜあいつ」


「え、ええ…ゼイン先輩苦労してるんすね」


 小声で話す二人。ジョシュアは真面目な顔で自分は黙っておこうと決心した。


「…で。とりあえず使者を救い出して、ルードの法王の元へ連れていき、和平を進めるわ。一時的な平和だとか懲りないやつとかいう意見もあるけど我々のやることはただの一つよ。実地訓練とはいえこれは立派な任務。敵は歩兵ぐらいしかいないけど気を引き締めて」


「はい姐さん!」


「だから……ダンフィル君、次にその呼び方したら斬るわ」


「ダンフィル君……君なかなかやるな。このゼノン・バルディオス少し感動したぞ」


「ゼノン先輩……俺ぁジョシュアみたいにだんまりで安全策取るなんてしょぼいことしねぇぜ」


「ふ…やるねぇ」


 隅で握手をするダンフィルとゼノン。ジョシュアはしょぼいと言われたことに対し少しムッとしたが、面倒になったのでほっておくことにした。


「ジョシュア君、ダンフィル君、歩兵は誰一人殺しては駄目よ二人とも。リンドール卿と私たちは外で馬車を準備してるから救い出したら何としても乗って。作戦は二人に任せます。ジョシュア君あなたの方が冷静ね。あなたを中心に動くように」


「はい。ミラルダさんお任せください」


「あ、まて! 待ってくださいミラルダ先輩! こいつあなたが思ってるような」


「ダンフィル君?」


「いや知らねぇだろうけどジョシュアは!」


「ダンフィル君」


 すっと冷たい目になるミラルダ。それに押され声を押しとどめるダンフィル。


「うっ……知りませんぜ俺ぁ……」


 馬車が動く。車輪が速足になる。


 街道の先に、遠くに、巨大な砦がみえてきた。

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