第24話 審判の刻 閃光
壁に阻まれた向かい側で、戦闘の音が響いている。
彼は、それを聞き、槍を持ち、腰を落とした。
そして一振り、槍を一振りした彼は、風に包まれた。
風は色を持ち、身体に絡みつき、形を成す、緑の鎧は彼を覆う。
槍の穂先は巨大化し、光輝く。広がる赤い外套。
精霊騎士第11位の称号は、彼に自信をもたらした。ベルドルト・ディランド。その眼は正面の仮面を被る男に向けられている。
「我が名はベルドルト・ディランド。貴殿、名をお聞かせいただきたい」
「貴様ら人間に名乗る名などはない。無常に死んでもらう」
「そうですか。ならば、急ぎ倒させてもらいます。構えなさい」
仮面の男は剣を抜いた。光り輝くその剣に照らされ、彼は一瞬で金色の鎧姿となった。
金色の鎧、その頭は焼け焦げていた。
「この顔の傷に誓う。私は人を滅すると」
「ならば僕はこの槍に誓いましょう。あなたを倒し、あなたの主も倒し、人を救ってみせると」
ベルドルトは槍を構える。彼には迷いはなく、ただ目の前の敵を倒すべく力を込めた。
金色の男は剣を握る。彼にも迷いはなく、ただ目の前の敵を倒すべく足を踏み出した。
一歩、二人は距離を縮めた。
槍は振るわれる。正面から右から左から、その速さは疾風の如く。
剣は振るわれる。槍を迎えるように、その速さはまさに閃光。
二人の武器は合わさった。高速で剣と槍はぶつかり合う。甲高い音が周囲に広がる。
衝撃が周りに伝い、地が震える。彼らはただ力強く武器を振るった。
数十合打ち合った後に、彼らは一歩間合いを離した。彼らはお互いの眼を見ながら円を描くように歩く。
「やりますね……槍の間合いに簡単に入るとは、よほど自信があるようだ」
「人にするには勿体ない。見事な騎士だ……先ほどは失礼した。我が名はビッケルト。翼無し故姓はない」
「ありがとうございます。ではその名、我が心に刻み、貴殿の命をもらい受けます」
「ふ……人でなければ私は、お前と友人になれたやもしれん。だがこの顔を焼いた人は許せん。すまんが……終わらせてもらおう」
ビッケルトは剣を構え一歩引いた。身を構え、気を入れる。
光がビッケルトの剣に集まる。
「閃光の剣、覚悟!」
ビッケルトはねじ込むように剣を振った。一つの剣閃が十に分かれ、ベルドルトを囲む。
「何と!? 間に合うか!?」
ベルドルトは、逃げ場がないことを感じ、槍を頭の上で回した。
その槍は、風を生み、一瞬の後に彼を包んだ。風の壁は光の剣閃を止めた。
だが彼はその勢いに負けて後方へ吹っ飛んだ。
「ぐっ! やりますね! いい攻撃だ!」
「防げてると思うのか?」
「何!? うっ……!」
ベルドルトは膝をついた。痛み、響く痛みが彼の膝を折らせた。
鎧に包まれてる両手両足から、血が鎧を伝って外へと流れ出た。ベルドルトの両手両足は今、寸前で腱を斬られるところだったのだ。
「右手動く……足も動く、左腕も大丈夫だ。危なかったまさか鎧を貫通するなんて。鎧化に頼りすぎましたね」
ベルドルトは立ち上がった。彼の両腕と両足は痛みを感じれど、まだ十分に動いた。
槍を構え心を静める。
「どうやらその技、出すのに手間がかかるようだ。鎧を貫けるとは言え連続では出せないのではないか?」
「その通り、我が剣は模倣、故に完全ではない」
「ならば、僕が勝ちます。闘技大会で唯一、ユークリッドさんに鎧を使わせた僕の槍をお見せしましょう」
ベルドルトは、槍を構え両手を突き出した。そして槍を回す。風が起こり、その風は彼を覆った。
「では参る。疾風の風を受けるがいい」
飛び出す、ベルドルトの身体ははじけ飛ぶようにして上に飛び出した。
「上から来るか、小癪な」
「覚悟!」
ベルドルトは上から槍を突き立て、ビッケルトに襲い掛かる。ビッケルトはそれを身体を沿って躱す。
着地、その後飛び上がる。その間は瞬きをするよりも速い、一瞬で飛び上がる。ビッケルトが着地を取ろうと剣を振るよりも速い。
飛び上がり、突き下ろす。その繰り返しはまるで流星の如く。
「どぉぉぉりゃあああ!」
べルドルトの槍は降り注ぐ流星のように。ビッケルトのいる位置を正確に貫き続けた。
「小癪な! いかん閃光の構えを取る暇もない!」
その流星は、加速し、豪雨のように降り注いだ。躱し続けていたビッケルトも躱しきれなくなり、ついには受ける一方となった。
「くっ!?」
ビッケルトの足を捕らえた。ビッケルトは足を止める。
「貰った! 穿て我が槍!」
空中に飛び上がったベルドルトは、槍を片手に構え力の限り身体を捻じり、そして槍を放った。
投げられた槍は真っ直ぐにビッケルトの身体に向かっていく。その槍は豪風を纏い、まさに弾丸のようであった。
「やらせんよ!」
ビッケルトは光った。そしてその光に槍は命中した。投げられた槍は突き刺さり、地面を抉り、そこを吹き飛ばした。
ベルドルトは空中で腰に付けていた棒を引き伸ばし、剣を抜いて棒に付け、そして鎧化の影響でその柄のつけられた剣は一瞬で巨大な穂先を持つ槍となった。
彼は一投目の槍が外れたのを感じると、二投目に移った。目で近くを探し、光を追った。ビッケルトは光となって一瞬で移動していたのだ。
「見つけました! 二投目穿て!」
ベルドルトは槍を投げる。光がビッケルトの身体となるその一瞬に向かって、その槍は一投目と同様、すさまじい威力をもち突っ込んでいった。
躱せない、ベルドルトは確信した。もはやあの位置では躱せない。受けるか相殺するか、できるのは彼の知ってる限り、精霊騎士第2位のユークリッドのみ。
「仕方ない……仕方ない!」
ビッケルトは、迫りくる槍を視界の端に捕らえると鎧の手と胴の部分を解いた。露出した胸元に黄色の石が埋まっていた。
一瞬でビッケルトは指で剣をなぞり、その石を切れた指で触れた。
槍が命中し爆散するビッケルトの居た場所。その威力は周囲の地面を抉り、爆風と粉塵を舞い上げた。
ビッケルトの姿がその粉塵に隠れる。
「仕方ない!」
粉塵が光で払われる。そしてそこに現れたものは
「何!? そんな……そんな!?」
光、輝く光。光の、竜。
そこに現れたのはもはや人型ではない、光り輝く竜だった。顔にやけどの跡を持つ、竜が現れた。
竜はベルドルトの方を向き、口を開いた。そして、放たれる光の束。
その光の束はすさまじい熱量を持ち、しかも圧倒的速度でベルドルトを打ち抜いた。
「うわぁぁぁ!」
両手を交錯し受け止めようとしたベルドルトを容赦なく焼く。もし鎧化をしていなかったら、彼はきっと消し炭になっていたであろう。
ベルドルトは鎧を焦がし、空中から地面へと落ちた。
「う、うう……何ですか今のは……く、くっ息が……うまく……」
ベルドルトの鎧が風となり、解ける。彼は首を抑え、必死で空気を吸った。彼の浴びた熱線は一瞬で彼周辺の空気を奪ったのだ。
「ぐっ……しまった槍……!」
ベルドルトは二投、槍を投げた。予備の槍も含めて投げてしまった彼にはもう手持ちの武器はなかった。
彼は友人の言葉を思い出していた。いくら予備があるからって後先考えずに投げてしまうのが悪い癖だなと言われたことを思い出した。
後悔はするにはあまりにも時間がなかった。ベルドルトは顔を上げる。光り輝く竜がこちらに口を開いている。
絶望、その感情が彼を支配した。受けるべき鎧はもう消えてしまったのだ。
光が竜の口に集まる。もはや避けることができない、死。
彼は時が止まったかのような錯覚を覚えた。
伸びる光の束、貫かんと迫るその光の束はゆっくりと、ベルドルトに襲い掛かる。
一瞬、彼の眼に映るのは赤い炎。
光の束は燃えあがる赤い鎧にぶつかり、そして砕けた。
「ぬぅおおおおおおお! この程度ぉおおおおお!」
「そ、その声!? グラーフか!? 何でここに、いや大丈夫なのか!? 直撃したぞ! それに……鎧の形が違う!」
飛び込んできた炎は、光をかき消し、赤きマントを靡かせ空に一人の騎士の姿を形どった。
燃え上がる鎧、赤い眼。その騎士の名は、グラーフ・リンドール
「説明は後だ。ベルドルト、ここは任せろ」
「何だって!? 君……待ってくれ!」
グラーフは火を纏いながら地面へと着地した。
首を左右に揺らし、グラーフは炎の中から剣を取り出す。
「はぁはぁ……お前、なんだ、それは」
「来たか! 来たのか! 炎の騎士! グラーフ貴様に焼かれたこの顔! 私はこの顔を見るたびに貴様に対する怒りで止まらなくなる! 貴様のせいだ!」
金色の竜は、頭を上げ、吠える。甲高い声が周囲に鳴り響く。
「竜……竜か? 昔絵本で見て……憧れたなそういえば。懐かしいな」
「そうだ、怖かろう? 精霊竜の血、呪ったものだが貴様を怯えさせれるならば……」
「そうだ、竜殺し、憧れたな。さぁ……今度は顔だけではすまんぞ! うおおおおおおお!」
グラーフは吠える。その雄叫びは炎を呼ぶ。彼の鎧は真っ赤に燃え上がる。
「こ、こいつ! どこまでも愚弄するか! うううう! 許さん!」
燃え上がる炎の柱、金色の竜はその柱に向かって口を開けた。
光が竜の口に集まる。
グラーフはそれを見て、飛び込んだ。炎を纏った彼はまさに大砲から放たれる弾のように、すさまじい勢いで飛び込んだ。
「突っ込んでくるか! いい覚悟だ!」
光の竜は、その炎の塊に向かって光の束を吐き出した。その光は炎とぶつかり、グラーフを飲み込んだ。
「やった! 何!?」
光は裂ける。炎の剣に沿い裂ける。
飛び込む炎、開く竜の口。
「ウオオオオオオ!」
「まさか……ま、待て! 私はビッケルトだぞ! くそっ身体が! 慣れてない身体! 速く動けない!」
炎の剣を突き出し、グラーフは、炎を後方へ弾かせ、突っ込んだ。
「覚悟おおおおおおお!」
「待てええええええ!」
竜の口の中へ、突っ込んだ。その速さは閃光のように、炎は彼をどこまでも加速させた。
ビッケルトが変化したその竜は、グラーフが身体ごと貫いた竜は――
「ウオオオオオオオ!」
グラーフの雄叫びが響く。竜の頭を吹き飛ばしたグラーフは叫びと共に炎を舞い上げる。
竜の身体は粉砕され、光を発し消えていった。その光から人の身体が現れる。身体だけが現れる。
ビッケルトの頭は仮面ごと吹き飛ばされていた。頭のない身体が地面に落ちた。
槍を拾って一部始終を見ていたベルドルトは、眼を見開き驚愕した。雄叫びをあげ炎に包まれる親友の姿は、彼の知っている姿とはあまりにもかけ離れていた。
「グラーフ……本当にグラーフなのか……!? グラーフ!」
「はぁはぁ……ベルドルト、壁を、壁を壊してくれ。あと少し……で、はぁはぁ」
「壁……? これを壊すのかい? ライアノック卿の助けに行こうというのかい? それは……でも君は大丈夫なのか?」
「頼む、急いでくれ……もう、限界が違い……その前に……!」
「わかった。長い付き合いだ。君の頼みならば僕はその通りにしよう。連戦になるぞ? いいかい?」
「ああ、アア……ぐっ!」
「いくぞ」
ベルドルトは槍を構える。狙うはシグルスが作った高き壁。
ベルドルトは槍を力強く片手で構え、そして投げた。その槍は、壁を穿ち、大穴を開ける。
戦いは佳境に、ロンドが呼んだ異世界の騎士の二人は、今ここに滅された。




