アルの過去
車はジャン・ペリーナ王の宮殿跡と言われる丘の上に止まった。
おりると、アルはネクタイを引きちぎると、風に投げた。風が強く、うなっている。雲が早く、光がさしては消え、さしては消えした。
「ここがすべての始まりだ。ジャン・ペリーナの歴史は、知っているな? ジャン・ペリーナ王による小国の統一後、海洋民族によって攻められ滅びた、と」
ヴィッキーはうなづいた。確かに本で読んでいる。
「海洋民族の名はベルーガ。この国に禁断の実があると聞いてやって来たという。それはリンゴであったのか、古代種の麻薬かはわからない。そして戦争になったのだ。ベルーガは麻薬を使うことを、当時何も知らなかった我が国の住民に教えた。そうして支配した。
リックは同じことを、今しようとしているんだ」
「じゃあチャドも、ベルーガというものの首領なら、もしかして」
「クリーンだと、言っていた」
強いまなざしがアルから向けられる。ヴィッキーは悲しかった。息のあった二人を見ていると、ただの仕事仲間ではないのだろうな、と思えてならなかったから。
「友達だったの?」
「高校からのね。でも」
涙を払うと、アルはヴィッキーに背中を向けた。
「俺の高校の恋人はピアニストだった。愛し合っていたよ。でも麻薬でハイになった男に殺された」
「え」
「俺は麻薬を憎んでいる。それをチャドは利用したんだ」
「そんなの、わからないよ」
「一緒に麻薬の出所を突き止めようと持ちかけて来て、じつはベルーガだったんだぞ!」
振り向いたアルは、自嘲の笑みを唇に浮かべていた。
「でもきっとチャドはアルのこと好きだった! 助けてくれていたんだよ、きっと。気の済むようにって」
「子どもに何がわかる」
「でも、これじゃああんまりにも」
薄笑いが、唇から消える。
「ヴィッキー、君は強いのか? 僕と君はそんなに違うか? 感情に駆られているのは、僕か?」
「それは、わたしもだけど」
「好奇心だの憎しみだの。疲れてしまった、僕は一人になりたいよ」
アルの肩が怒っていた。
ヴィッキーは、そっと車に戻った。とろとろ眠って、目覚めるとアルが運転席で眠っていた。明け方である。空気が冷たい。霧がかかっているが、ヴィッキーはそっと車を降りると伸びをした。
「かつがれずに、歩いてみますか」
ひとりで、決着を付けに行こう。聞きたいことを、聞きに行ってみよう。
リンゴの香りが、どこからかするような気がした。
その時。
足元が崩れて崖になった。
「あ!」
言っている間に落ちる。
「アル!」
手を伸ばし、なんとか壁にへばりつく。
下を見ると、なぜか明かりが見えた。こんな古城跡に明かり?
「誰かいるんだわ」
ヴィッキーは心を決めて、支えの手を離した。明かりの中に、身を投じたのである。




