王族の血
厚い扉が開けられ、ビップルームが現れる。こちらに背を向けていた革いすが、くるりと回る。
「やあ、ヴィッキー。君の方から来てくれるなんて」
「リック!」
リックが合図すると、二人の男は腕を放して、部屋を出て行った。
ゆっくりとリックはヴィッキーの周りを回ると、後ろから抱きしめた。
「きゃあ」
すうっと腕を上げて、彼女の胸元で手を止める。
「これ」
「いや!」
彼が触れたのは小さな胸ではなく、胸元についた鷲の紋章だった。
「君が捨てるはずないと思っていた。君の血が、そうさせないはずだと」
「血?」
「ジャン・ペリーナの血が」
「地元民だから」
「違う、王族だ、王族の血だよ」
「え?」
「君の母上は私のいとこだった。そして私の恋人だった」
「……!?」
「わたしはジャン・ペリーナ王の末裔。彼女も。そして君も」
「お母さんが、王族だった?」
「そして父親は、私だ」
そんなわけがない。そう思ったとき、父の声が聞こえて来た。
<俺のガキじゃない! 血もつながらないよそのガキを、俺に残して死にやがったんだよ!>
<うせろ>
そんなわけがない。
母と送った運動会での父への声援。父の優しい笑い顔。ぶっちぎりの一位。帰りの肩車。母に叱られた時の庇い立てで一緒に怒られる父の苦笑い。
「愛されているもの。お父さんに、愛されているもの」
「じゃなぜいたぶる」
「なんで知ってるの?」
言って、ヴィッキーはしまったと思った。したり顔が、目の前にあった。
「私は助けようと君の家に電話をかけ、迎えに行った。その途中、君に会ったのは縁だろうか」
にやにやしている。気に食わない。ヴィッキーは腹の中で何かが渦巻くのを感じていた。重く、凶暴で、暗い何か。
「あんたみたいな雑魚、組織は相手にしないわ」
「ん?」
「麻薬。見つけて売るんでしょ? お金がないの?」
「君って奴は」
ははは、と声を上げてリックが笑う。ひとしきり笑うと、ジャケットを直してささやいた。
「私がボスだよ。私が王だ」
血がざわつく。耳鳴りがする。めまいもして来そうだった。ヴィッキーは目を見開いた。
「私に大統領もがすがりつきにくる。<もっといい薬を、いい薬を!>ってね」
ぺろっと唇をなめた姿は、蛇のようだ。
「私は麻薬を悪いと思わない。多少身体は長持ちしないが、いろんな能力が解放されるではないか。この国はどんどん豊かになる、そうだろう。わたしは実質人々にそれを与える王だ。わたしこそ、ジャン・ペリーナ王の再来だ。今にあの地で禁断の果実を見つけてやる」
「禁断の果実って、聖書に出てくるリンゴね? そうか、だから古代種の麻薬のことをそう遠回しに言っていたのね」
「さあ、わかったら私と来ることを誓いなさい。さもないと」
パチンと指を鳴らすと、窓だった所がスクリーンに変わった。そこに映されていたのは、横たわった二人の男、アルとチャドだった。彼らには、銃が向けられていた。
「さもないと、殺すって言うのね?」
「彼らは眠っている。静かに逝けるだろう」
「悪魔!」
「アン」
「アンはママよ、私じゃないわ」
「アンにそっくりだよ」
涙ぐむリックに、思わず心が動く。
(本当にお父さんなのかしら)
そのとき。画面を破って二人の男が飛び込んで来た。チャドとアルである。
「ばかな!?」
「ここには仲間がいてね」
ちらりとチャドが目配せする。そこには、検閲官がいた。
「その台詞、全部録音した。あんたももう終わりだな」
「ふん。ベルーガの若様か」
「ベルーガ!?」
なぜかアルが大きく反応を示す。ベルーガって何かしら、とヴィッキーが思ったとき、何かが記憶の片隅で引っかかった。
「そうとも、アル君。君の相棒の名はチャド・ベルーガ。私の勢力と対をなし、この国に禁断のリンゴを求めて攻め入った海洋国家ベルーガの、長だ。知らなかったのかい?」
「嘘だあ……三つ巴ってやつなのかしら?」
せわしさにぼーとして、ヴィッキーは立ち惚けた。
「私の足元をすくって勢力を拡大しようだなんて、しかも首領自ら。くっくっく、ベルーガも弱っていたのですね」
「おねがーーーーい、だれかせいりしてよう」
耐えきれなくなって、ヴィッキーは大声を上げた。
「つまり、犯罪勢力の争いに、僕と君は巻き込まれているようだ」
アルはそういうと、ヴィッキーの腕を引いた。
「アル!」
「うごくな」
アルはリボルバーをリックとチャドに交互に向けた。
「アル、違う」
「うるさい!」
「おれは」
チャドがはっとする。レーザーガンがアルを狙っている。
「させるか」
チャドが間に飛び出した時、リックの拳銃がアルを狙う。チャドは被弾しつつ、アルの頭をはたくように下げる。ひきずられてアルと手をつないでいたヴィッキーが倒れる。
「いくぞ」
ヴィッキーはまたアルに抱えられた。
(私って荷物みたい)
肩越しに、倒れているチャドが見えた。右手が、バイバイ、と揺れている気がした。
「チャド」
たったさっき、けんかしてたのに。




