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コリタス

「え、コリタスに行くの」

 砂漠の道を行く車中で、ヴィッキーは声を上げた。

「あそこ、大人の街だって聞いたわ。お父さんが若い頃につとめていた街だから、聞いたことがあるの」

「子どももいるよ」

「え、ほんとう? 遊んでるの?」

「いや、こき使われているよ。でも、そうだな、おまえくらいならそろそろ」

「え?」

「おまえ、いくつだ?」

「十五」

「楼閣に上がってる年だな、あの街じゃ」

「楼閣ってなあに?」

「大人の遊ぶ所だ。IDが必要だな。お前のアイディーカードをかせ、偽造屋に出す」

 チャドが淡々と作業を進めて行く。プリペイド式の携帯でいくつかの交換所を経由させてその店に連絡を取る。

「ああ、客になりたい。年齢の偽造を頼む」

「このIDって何のカードなの? そんなに大事なの?」

 しーっと、チャドが静かにするようアクションする。そして何回かのやり取りとしたあと、携帯をきった。それから小型端末でIDカードのデータを送る。

 すぐに電話がかかってくる。

 値段交渉の後、電話を切るとIDカードを返しつつ、ヴィッキーの頭をなでた。

「サウスホテルの受付に預けておくそうだ。十八歳の扱いになる。少しおめかししないとな」

「え? え?」

「大人の社交場に入るには、十五歳じゃ足りないから、十八歳だという偽造のIDを作って、かつおめかしをして、僕たちと入場してもらおうというのだ」

 珍しく長文を美男子のアルが話す。

 このとき気づいたのだが、アルの発音は上流階級のものだった。

(なんで上流の人が、こんなことをしているのかしら)

 ヴィッキーはそう思ったが、すぐに忘れた。


 街の入り口には大きな門があって、IDの検閲があった。

「なんだい、検閲?」

「ええ、国の決まりですからね。ここは歓楽地ですから、子どもは入れません」

 検閲官が一人一人の顔をIDと見比べていく。運転席のアル、次にチャド、それから。

「君!」

 検閲官が声を荒げる。ヴィッキーはびくっとして懐中電灯の光を見上げる。検閲官ががしっとヴィッキーの肩をつかむ。

 ばれた!

 そう思った時だ。

「君、名前は? わたしはもう仕事を上がるから、中であえるかなあ」

 ぱしっと黒いマニキュアで装った指先で、ヴィッキーはその手を払う。

 まとめあげた赤髪が、一束はらりと白いうなじにかかる。

 黒いドレスは胸元から首元にかけレースで、豪華。

 青いマスカラの彩る茶色い瞳がきらりと光る。

「アリア」

「アリアさん……」

「もういいだろう」

 アルが急かすと、検閲官は我に帰って「どうぞ」と門を開けた。

「さっきのうちに、途中のサウスホテルによってよかった。親切だったわね、こんなにきれいにしてもらって」

 ヴィッキーはご機嫌であったが、アルはげんなりした様子だった。

 というのも、この変身はハネムーンを騙っての衣装チェンジで、相棒にどうしてもと、ヴィッキーが「アルを」とダダこねたからであった。タキシード姿を来崩したアルは、着替えてからだいぶ立ってもまだご機嫌のヴィッキーになおさらいらだっているようだった。

「もういいかげんにしてやれ、ヴィッキー」

 高級車に変えた車をホテルマンに預け、チャドは黒色のタキシード姿でヴィッキーを叱った。

「だって、あんたと夫婦役なんて、絶対いやなんだから」

「いい加減にしろと言っているんだっ」

 アルが大声を出す。あのアルが、と言う思いでびっくりして、ヴィッキーは泣き出した。

「子どもはすぐ泣けばいいと思っているよなあ。マスカラがとれればただのガキなんだ、早く泣き止むことをすすめるが」

 アルはつらつらと言い放つと、背を向けた。

 何度か、チャドが二人の間を目配せするのを感じながら、ヴィッキーは二人とは逆方向に駆け出した。

「なによ、なによ、なによ」

 そして近くのカジノに入ると、付属のバーカウンターに座って、頬杖をついた。通りすがりに、何人かの男の人たちがちらちらとヴィッキーを見ては、白い歯をこぼした。

 それがどういう意味か、ヴィッキーはわからなかったが、モテているのではと思った。初めての、モテ期では!

 すっと、すてきな男性が横に座った。

「あら」

「やあ、ひとり?」

 さっきの検閲官である。

「ええ、そう、ひとり」

「へえ、君みたいなすてきな人が?」

「ありがとう」

「ねえ、どこからきたの?」

「ひみつ」

「横、いいですか?」

 もう一人の男の人が、さっと座った。

「君、僕たち今、いい所なんだけど」

 検閲官がそういうと、もう一人が彼の後ろに立った。

「彼女には、ちょっと関わらない方がいい」

(やだ、私を巡って争いが)

 あらま、あらま、とにやけていると、検閲官が殴り倒された。

殴った男と、検閲官をはさんでもう一人の男が、同じタイミングでヴィッキーを見た。

「やだ、なに?」

 二人は歩みを同じくしてヴィッキーに詰め寄ると、ばっと抱え上げた。

 場内騒然となるかと思いきや、シンとしている。凍り付いて、誰も動けない。

「やだ、やだ、たすけて、アルう、チャドお」

 ここにきて、『組織』という言葉が思い起こされて来た。そうだ、こいつらは麻薬の組織に違いない。ここは彼らの根城で、ここを殲滅するためにアルとチャドは来たのに違いない。


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