掘る音
夜中、雨の音で目が覚めたヴィッキーは、何か土を掘るような音を聞いて窓の外を見た。
白いものがちらりと見えた。白い手袋。
それに、土がかぶさるのをヴィッキーは息を殺してみていた。
まごうことなく、運転手の腕であった。そしてそれは、土の中に。
土の中に。
「どういうこと?」
ヴィッキーはたじろいで窓からはなれた。
「逃げなければ、これは、殺人だわ」
でも、だれが、どうして運転手をああしたのかわからない。
「どうしたんだい、ヴィッキー」
ずぶぬれの足音が近づいて来て、ヴィッキーはすべてを理解した。
(この声はリックさんの声。そして雨に打たれてずぶぬれだというなら、さっき外で雨の中運転手さんを埋めていたのは)
「リックさん!」
そう叫んだとき、暖炉の上が光った。緑色のまばゆい光で、ヴィッキーの赤毛を不思議な色に染め上げた。
「あ、ああ、そのブローチは!」
リックが驚いたように身を震わせる。
「そうか、やっぱり君は」
「なんだかわからないけど、ヤバそう? 私殺される? ははっ!」
ヴィッキーは奇怪な声を上げると、ぱっと窓から飛び出した。
「待ちなさい! ヴィッキー!」
「いやなこった、この殺人鬼!」
明かり代わりに、暖炉の上のものを持って来ていた。それはブローチであった。
「まて!」
声は聞こえてくるが、リックの姿は見えない。走り続けて、ヴィッキーは森の外に出た。そこには、父が立っていた。
「ここだと思った」
「とうさん」
「どこにも行かないでくれ」
「……もう殴らないでね」
「わかった」
そう約束しても、いつも父は約束を破るのだ。
緑の明かりは、いつの間にか消えていた。夜明けの光がかわりにブローチを射す。みると、紋章のようである。
「ジャン・ペリーナ王の紋章じゃないか」
「え?」
「この土地が小領主に支配されていたころ、ジャン・ペリーナという王がいたのだ。そしてその王は海洋民族のベルーガによって戦いを挑まれ、負けたのだ」
「そうなの?」
「うたがうのか?」
ため息をついて、重たげに父は腰をおろすと、煙草を一服吸いだした。
「アン、お前のもとには、まだやらんぞ」
何かそのようなことを一人ごちて、父は煙草を大きく吸って、深くはいた。
こういう父だから、何度も戻ってしまうのだとヴィッキーは思ってしまうのだった。




