習作其の一
テーマ:三題噺
お題:電気、迷信、意図的な才能
指定ジャンル:ラブコメ
留意事項:エロ描写なし。ネタがネタなんで十五禁。
「ところでマスター。気になることがあります」
日光が眩しい小春日和の午後。
そのメイド服が眩しい少女は、そう言いながら彼の主人である青年にコーヒーを差し出した。
「なんだい。僕の分かる範囲でなら答えるけど」
青年は目で礼を言うと手元の情報工学の論文を脇に置き、コーヒーカップを手に取ってそう答えた。
「そうですか。では、質問させていただきますが」
少女は淡々とそう返答しながらも、少し困ったように首を傾げる。
珍しいこともあるものだ、と青年はそんな彼女の姿を見ながら、一口コーヒーを口に含んだ――
「マスター。その、なぜ私に夜のご奉仕を命じられないのですか」
刹那、彼はコーヒーを盛大に吹き出した。
「げほっ、げほっ」
「……大丈夫ですか? おかしいですね、コーヒーはいつも通りの手順で入れたのですが」
「いや、そうじゃなくて」
彼は未だ動揺しながら、カップをソーサーの上に置きながら少女に事の次第を尋ねる。
「なんでそう思ったんだい。そもそも夜のご奉仕って何の事か分かってるの?」
「そうですね、一応は。分からなかったのでインターネットで調べましたが」
ということは情報の出処はネットか、と青年は溜息を付く。
「因みにネットではなんて?」
「要するにセッ」
「違う、そっちじゃなくて」
わざとやってないか、と青年は顔が熱くなるのを感じながら間違いを指摘する。
「ああ、申し訳ありません。いわく『夜の奉仕なきメイドはメイドにあらず』と」
少女は叱られた子犬のように視線を下げると、不安そうにお盆を抱え込む。
「マスター、私はメイドです。私はマスターに奉仕するために生まれましたし、それ以外の存在理由もないと考えています。ですから、どうぞ私に夜のご奉仕をご命じください。でないと私の存在意義が――」
「大丈夫だって。そんなことしなくたって君は十分に存在意義があるよ」
びっくりしたように少女が目を見開いて青年を見る。
青年は静かに微笑むと、再びコーヒーカップを手に取った。
「……確かにね、僕は君を理想のメイドとして振舞うように今まで教育してきたさ」
コーヒーを口に含むと、ブルーマウンテン特有の甘い香りが鼻腔いっぱいにふんわりと広がる。
「でもね、それは『僕の理想』であって、『全人類の理想』ではないのさ。分かるかい?」
「……どういうことでしょうか?」
そうだなぁ、と青年は頭をぽりぽりと掻く。
「じゃあさ、君はどうしたいんだい?」
「私ですか?」
少女は再び視線を落とすと、しばらくして力強く青年にこう答えを返した。
「私は……マスターにご奉仕できればそれでいいです」
「でしょ? じゃ、問題ないじゃない。君は僕に奉仕してくれてるよ。それこそ申し訳ないほどにね」
青年はコーヒーを飲み干すと、カップをソーサーに置いて彼女に差し出してにこりと笑う。
「なら、君は立派に僕のメイドだ。他の誰が何と言おうと、ね」
少女はしばらくカップに視線を注ぐと、ふっと微笑んでコーヒーカップを受け取る。
「マスター、ありがとうございました。では、私は仕事に戻ります」
「ああ、ごちそうさま」
青年は少女の後ろ姿を見送ると、再び論文を手に取りながらポツリと呟いた。
「やれやれ……次は羞恥心をプログラムしなきゃな」
酒の勢いで初投稿。
自己評価はイマイチ。
やはり小説は酔っ払って書くものではない