強制
昔、坑道を掘るとき有毒なガスが出てないか確認するため、わざとカナリアを放したそうです。
毒味というか罠の囮というか。
道化としては失格だが、私は慌ててドアを開け放つ。
待機組も皆、怯えながらもドアの向こうを窺うが、照明に慣れた目では全く見通せない。
状況がわからない。
「クソっ!!」
私は携帯電話のライトをつけ、暗闇に踏み入った。どうやらここは通路のようだ。
待機組の男達も私の後ろから同じようにして入ってくる。
弱々しい光でも、目が闇に慣れてきたこともあってやっと様子が見えてきた。
ドアから15Mもいかないところに、しゃがんでいるらしい4つと壁際に1つの影がある。
直ぐに会話も聞き取れた。
「オイ!しっかりしろ!」
「っっひどい、骨が見えてる…」
「痛い、いてえよぉぉ…」
「う、ぅぅぅ」
まず、頭を抱え蹲っている中年を発見。
次に確認できたのは短気オヤジと鉄オタ。しゃがみこみ慌てた様子でもう一人に声をかけている。
若夫婦(旦那)は、金属製の甲冑と一緒に床に転がり、ひたすら呻いていた。
なぜ甲冑?と思うが、壁際の影はなんと金属製の甲冑だった。
通路右側に複数飾られている。まるで舞台の大道具のようだが、
今はそんなことを気にしている暇はない。
倒れてきた甲冑一つに巻き込まれて、右腕と右足を折ったようだ。
残りの一人。眼鏡青年は、尻餅を付いていつまでも呆然としていた。
待機班が手伝い、怪我人を玄関ホールに運び出す。
眼鏡青年、中年も回収され、私も含め全員が一旦ホールに戻った。
明るいところで見ると若夫婦(旦那)の怪我の酷さがはっきりとわかる。
特に腕は、皮膚から折れた白い骨が突き出ていて、出血も酷い。
足も膝関節が砕かれたのか、ありえない方向に曲がっている。
扉が開かなくなったよりさらに騒然とした空気の中、
ソファーに寝かせてテーブルクロスや鎮痛剤やらで応急措置をしている。
私はそのあまりに無惨な様子に、呆然とするしかなかった。
「カナリアが必要だ!!」
私と同じように呆然としていた眼鏡青年が、突然叫んだ。
皆何事かと彼を見つめる。
「玄関の扉は開かず、治療が必要な怪我人もいる!!早急に脱出方法を探さねばならない!!
お前が先頭を歩くんだ!」
血走った目でにじり寄ってきた眼鏡青年に、私はガクガクと頷くことしか出来なかった。
「若夫婦(旦那)」はモヤシーな感じのする「眼鏡青年」を舐めてまして
お前が出張ってんじゃねーよ!と思ってたので、探検時先頭は旦那でした。
眼鏡青年は、微妙なテンションだし頼りにはされてません。
今回の事故は「罠じゃナイヨ、超常現象だヨ」というところ。