道化
勝手に確信はしていたが、「もうここから出られないこと」を確認する気は起こらなかった。
パニックになる。そして私は、原因として嬲り殺しになるかもしれない。
でもこのまま黙っていたとしても、そのうち誰かが気づいてしまう。
私が来るまで「小用」は外で済ませていたらしいから。
皆と不安を紛らわせるために雑談を交わしながらも、グルグルと「私のための解決策」を考える。
絶対私は「不審」だろう。でも、コレ以外に「生き残る方法」は思いつかなかったのだ。
少しため息をついて人の輪から外れ、
そして極々当たり前のように、
奥へ続くドアを開ける。
ガチャリとドアノブは回り、軽く押すと真っ暗な廊下が見えた。
会話は止み、背後からは息を呑む音が聞こえた。
振り向いて言う。
「…開いちゃいました✩」
敢えて軽く言ってみた。
当然誰もツッコミなど入れてくれない。可笑しなものを見る目で見つめられる。
得たいの知れない者を見る、嫌悪と恐怖を含んだ眼差しにすぐに赦しを乞いたくなる。
でも出来ない。選択は「道化」になることだった。簡単に害されないように、舐められないように、
まるで「怪奇」の一部であるかのように振舞う。
結果、彼らは私を居ないものとして扱うことにしたようだ。
親子連れの小さな女の子だけが、突然仲間ハズレにされた私を不思議そうに見ている。
私は奥へと続くドア近くの壁に寄りかかって、彼らが相談するのを観察していた。
じわじわと不穏になる空気の中、若夫婦の嫁の方が玄関の扉が空かないことに気づき恐慌に陥った。
「出して!助けて!!」叫ぶ声と扉を叩く音、騒然とした空気に女の子も泣き出す。
殺気立った視線が集まるが、表情なく彼らを見つめる「怪奇の一部」に掴みかかれる者は居なかった。
私には表情を造る余裕などなかった。視線に篭った殺気と恐怖に当てられ、
予測の通りに進んでしまう未来に、誰よりも震え怯えていたから。