先客
重々しい外見とは裏腹にキイィー…と軽い音をたてて扉は動く。
私は15cmほど開いた隙間からこっそりと屋内を覗き込んだ。
結果:玄関ホールにいた10数人の男女全てに凝視されていた。
……こっそり覗いた分余計に恥ずかしい。逃げだしたい。
屋内は洋灯がキラキラと輝きヨーロッパの高級なホテルのような様相だった。
広いホールにテーブルセット、立派なソファーが置かれている。
そしてそこに、青年、中年、女性、男性、幼い子供連れまでがおり、しかも服装の統一感もなくなんの集まりかさっぱりわからない。
「君も招待客かね」
実は屋内を観察する間、私は入ることも、かと言って実際逃げることも出来ずに扉に張り付いていた。
先客らしい中年の男から声をかけられやっと扉から離れ、屋内に入る。
ゆっくりと扉は閉まった。開けた時の軽い音とは違い、バタンン…と重々しい音を響かせて。
「いえ、その…」
私が羞恥と人見知り故にしどろもどろとなっていると、威圧的に男は続けた。
「違うのかね?では君は一体何をしにここに来たんだ!」
50台位のなにか偉そうな男だ。身なりも良く、だいぶ裕福そうに見えるし、社会的な地位もあるのだろう。その割には短気な…
脳内の住人である私は、この親父はどの程度の人間か?などと評価し、いっそ扱き下ろしたりもしているのだが
表層での私は、男に気圧されまともに返答も出来ない。
それでも、なんとかモゴモゴと答えようとする。
「あの、その…私はここに招待されたのではなくて、」
「ここの住人なのかね!?」
さらにいきり立つ男に、人の話を折るな、最後まで聞け。生き急ぐなら、勝手にさっさとくたばってしまえ!
罵詈雑言を心の中で投げ付けながら、うつむき私は事情を吐き出した。
「…どうやら、私は迷子のようなのです」
この年になって迷子も何もないだろうと、罵られるか、呆れられるかすると思ったのだが、
場全てがしんっ…と静まり返った。
前段なんでもっと省略したほうがいいのだろうか。
主人公は内向的だけれど攻撃性は人一倍高いです。臆病なせいです。
英雄的思考ではなく過剰な自己防衛。オチの行動の理由だと思っていただければ。