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プロローグ 後話

「俺の名前は桐沢きりさわ 明人あきと。二年生だ」

 

 

 怖い男子の名前は桐沢というらしい。

 僕は桐沢君と同学年であることに驚く。

 一応、クラスは九クラスまであるから知らなくても当然なのかもしれないが、それにしてもまったくといっていい程に僕は桐沢君のことを知らなかった。

 ここまで筋肉が逞しい、不良だとは言わないが、見た目が怖い人を知らないというのもおかしい話だと僕は思った。

 桐沢君がそれっきり黙ってしまったので、たんぽぽ頭の彼が続きを促すように言った。

 

 

「それで終わり?」

 

「他に言うことがあるのか?」

 

「あー……そうだなぁ。どうせこれが終わったら知らない者同士だろうし、あんま奥まったもんを聞くのも……。あ、そうだ。今日話す怖い話の分類というかジャンルを言ったらいいんじゃないか?」

 

「ジャンル? 俺が経験したことやその他」

 

「うわぁ……。シンプルというか説明する気まったく無いというか……」

 

「一括にはくくれない」

 

「そっか。じゃあ次は君から」

 

「え? 僕!?」

 

「順番で行こう順番で」

 

 

 唐突に振られた僕は焦って何度もどもりながら自己紹介を始めた。

 

 

「あ、僕の名前は藤谷ふじたに 健一けんいちです。学年は二年で、今日話すのは都市伝説などの類のものです。よろしくお願いします」

 

「ねぇ君本当に根暗っぽい性格してるね! そんな入学式後のクラスでの自己紹介じゃないんだから、きっちりしなくていいよ!」

 

 

 ナルシスト男が僕の自己紹介を笑いながら貶した。

 コイツ……。僕のことをいじりのターゲットにしているな……。

 僕は不快を教えるためにナルシスト男を睨む。ナルシスト男は「怖い怖い」と肩を上下させた。

 

 

「あんまり突っかかるのはよくないと思うよ」

 

「いーんだよ。なんたって俺はここにいる奴らよりも偉いんだからな」

 

 

 たんぽぽ頭の彼の注意もどこ吹く風で受け流す。

 それに若干イラつきながらも、僕はナルシスト男の一人称に違和感を覚えていた。

 さっきから「俺」と言ったり「僕」と言ったり、忙しない奴だ。

 たんぽぽ頭の彼は溜息を吐いて自己紹介を始めた。

 

 

「俺は石戸谷いしとや 蓮冶れんじ。二年生。俺も自分の周りの話が中心になるかな。あ、あと作り話なんかも」

 

「捻りがなぁーいでぇーす先ぱぁーい」

 

「いや、自己紹介で何を捻るんだ?」

 

「好きなタイプとかー、この頃ハマってるもんとかー」

 

「あ、じゃあね葵ちゃん。僕の好きなタイプはねー……」

 

「あんたには聞いてない!!」

 

 

 また口論をし始めそうだ。

 と思ったが桐沢君の「うるさい」という声に後輩が大人しくなった。

 流石の彼女でも桐沢君の怖い顔には怯むようだった。

 

 

「今度は僕の番? 八代やしろ 陣内じんない三年四組三十一番バイクでそこらへん周るのがこの頃の楽しみでー、そん時に遭遇したこととか伝聞を話そうと思ってまーす」

 

「いらない情報だわ」

 

「俺のクラスに遊びに来てね?」

 

「嫌」

 

 

 本当にまったくいらない情報だ。

 僕は次の人にへと目を向ける。淡い笑みを浮かべている彼女だ。

 どんな声なのか期待しながら僕は彼女の紹介を待った。

 

 

「……城島じょうしま 秋穂あきほです」

 

「え?」

 

 

 小さく、だが全員の耳に届いたであろう声に、ニヤニヤと笑みを浮かべていた八代が虚を突かれたような顔をして城島さんの方を見た。

 疑問に声を上げられた城島さんは、不思議そうに八代を見ている。八代は八代で、不可解だとばかりに眉根を寄せていた。

 僕は二人が見詰め合っていることに不快感が頭をもたげる。

 

 

「あの……、なんでしょうか?」

 

「えーっと、んー、……いや、なんでもない」

 

「はい……それじゃあ続けますね……」

 

 

 八代は少し慌てたようにしていた。

 だがすぐに話を切ると頭の後ろで腕を組んで椅子に深くもたれる。

 僕は八代のその行動に疑問符を浮かべながらも、どうでもいいと思い城島さんに顔を向けた。

 

 

「一年生です……。今日は、色々と話をします。……よろしくお願いします」

 

「ちょっと、色々って何よ色々ってぇー。気になるんだけど!」

 

「え、えっと……えぇっと……。……身の回りの話を……」

 

「なにー? みんなそればっかじゃん! まあ私もそうなんだけどさぁー」

 

 

 むくれた顔をした後輩は、かわいさをアピールするためかそれとも素なのか、膨れた頬に人差し指一本当てて頬の中の空気を押し出す。

 流れるような動作だったので、多分素なのだろう。それか動作慣れしているか。

 邪魔な空気を出した後輩はにぱっと花が咲くような笑顔で、机を軽く叩いた。

 

 

「次私ねー? 私は横坂よこさか あおい、今年入ったばっかのぴっかぴかの一年生でーす! 友達の話とか友達の友達の話を今日はしたいと思いまぁーす!」

 

「ほうほう。いいね、葵ちゃんの友達はかわいい子ばっかりだから、彼女らの話だと思うととても興味があるよ」

 

「げぇー! だからなんで八代先輩は私のことを知ってんのー!? 本格的にキショイ!」

 

 

 まったくの偏見で言うが、八代は粘着質そうな声をしてナルシストっぽいので、ストーカーをしているのだろうかと疑いたくなる。

 嫌な先輩だとは思うも、流石にストーカーなどの犯罪行為をしているとは思いたくはなかった。

 

 

「あと数分か」

 

「早いなぁー。んじゃ、俺準備するわ。他の人もカーテン閉めるなりなんなり手伝ってくれよ」

 

 

 桐沢君の言葉を石戸谷君が拾う。

 立ち上がって邪魔な机をさらに壁際に寄せたりカーテンを閉めにいったりしている二人に釣られるように僕も立ち上がった。

 僕はそそくさと教壇にある机から蝋燭の箱と安そうな六本のライター、それと黒いソーサーを六枚取り出した。

 

 

「こんなの見つけたよ」

 

「なになにー? って用意周到じゃん! うわー、それっぽーい!」

 

 

 横坂さんが興奮したように僕の手から蝋燭の箱をもぎ取った。

 まだ封を切られていないので、横坂さんが剥ぎ取っていく。その間僕は六人の机の上に黒いソーサーを置いていった。

 

 

「なんでこんなもんがあるんだ?」

 

「うわ石戸谷君か、びっくりした。んー、さぁ? 百物語でもしろってことかな」

 

「この紙には怖い話ならいくら続けてもいいと書いてあるぞ」

 

「百物語とは書いてないね」

 

 

 ひらひらと紙を揺らす桐沢君の手元の紙に目を滑らす。

 百物語だとは書いていない。怖い話ならいくらでもしていいというのなら、百未満で話が尽きればそこで終わってもいいし百以上に怖い話をしてもいいということだろう。

 その他には怖いと思う話や不思議な話ならなんでもしていいという記述がある。

 幽霊に関したものでなくても、宇宙人の話やその他の不可解な話も大丈夫だということか。

 それと話を進める際、十話毎に休憩を入れて下さいとも書かれていた。

 

 

「でも、蝋燭が出てきたってことは百物語だよな」

 

「いっそのことやっちゃいます?」

 

「うーん……。六人で百個の話……。俺そんなにネタ続かねぇかも」

 

「私もですよー。でもぉ、あの紙には百物語をしろって書いてませんし、百物語っぽいことしても自分達が百物語だと思ってなかったらいいんじゃないですかー?」

 

「んな適当な」

 

 

 横坂さんの言葉に呆れる石戸谷君。

 僕は少し考えてから、横坂さんの言葉に賛成した。

 

 

「まぁ、こういうのは雰囲気が大事だし、自分達の好きにしていったらいいんじゃないかな」

 

「寄ってきたらどうするんだ」

 

 

 桐沢君がことさらに真剣な顔をして言ってきた。

 

 

「大丈夫だと思うよ。多分ね」

 

「お前も適当だな、藤谷」

 

「うん。だって幽霊なんて信じてないし」

 

「びびりだぁーって自分で言ってたくせに幽霊信じないんですかぁ? なんかそれおかしくない?」

 

「おかしくないよ。僕はいきなりの物音や変な現象に驚くだけだから」

 

「その物音と変な現象を、幽霊が起こしてるって思わないんですかー、先輩?」

 

「そうだったら面白そうなんだけどね。でも、実際にはいないんじゃないかなぁって思うと、どうも信じれなくて……」

 

「なにそれよく分かんない」

 

 

 横坂さんはひらりと身を翻して自分の席に座った。

 シャッという音と共に教室内がさっきより暗くなった。それでもカーテンからはまだ光が透けている。何時になったらあの日は無くなるんだろうか。

 横坂さんが言っていた通り、暗い方が雰囲気があって断然良いと僕は思う。ただ、あの日が落ちるのを待っていたら八時を越えるかもしれない。その間の時間が無駄だし退屈だ。

 しょうがないか、と諦めて僕は自分の席に座った。皆も席に戻ってきて(八代はずっと席に座っていた)、横坂さんから回されてくる蝋燭とライターを受け取った。

 

 窓は閉めきっているが、この教室にはクーラーが付いているため暑さに喘ぐ必要は無い。

 クーラーは十時まで稼動していると紙に書いてあるので、それまでは大丈夫だろう。

 それに雑に置かれた机のせいで見えなかったが、どうやら小さな冷蔵庫もあるようだ。その中には飲み物も入っており、本当に呆れた周到さだった。

 

 

「じゃ、時間もそろそろだし、始めよっか」

 

「あの……。でも、誰から話を……?」

 

 

 横坂さんのことさら明るい声に、城島さんがおずおずと訊ねた。

 それに八代が反応して「じゃんけんで決めたら?」と、八代にしてはまともな提案が出され、皆それに頷いた。

 

 

「八代先輩提案ってのがやですけどー。やってやりますよ」

 

「ツンデレ?」

 

「ちょっと石戸谷先輩からかわないで下さいよ~!」

 

「負けた奴一人決めて、そいつから順に話をするぞ」

 

「はいはぁ~い! 桐沢先輩流石でぇ~す!」

 

 

 八代以外の男子には比較的友好的なようだ。

 あからさまなその態度にも、八代はニヤニヤと笑いっぱなしだ。

 打たれ強いとは何か違うような気がする。

 皆の合図と共に繰り出される手。勝負は奇跡的に一発で決まった。

 

 

「あぁ~……。やっぱりかぁ~……」

 

「よし、決まったな。石戸谷から順に藤谷、俺、横坂といこう」

 

「こういうのって時計回りがお約束じゃないですかぁ?」

 

「時計は嫌いなんだ。以上」

 

「なんですかそれ~! 別にいいですけどぉ~……」

 

 

 横坂さんはそう言いながら蝋燭に火を灯す。

 蝋燭を横に傾け、蝋が落ちるのを確認すると蝋燭をその上に置いた。

 横坂さんのキャラならそのままソーサーに置いて蝋燭を倒すと思っていたが、違ったようだ。

 皆の蝋燭に火が灯され、時計が丁度七時を差した頃合に、石戸谷君が口を開いた。

 

 

「んじゃ。一番、石戸谷蓮冶。仲の良かった他校の友達の話をします」

 

 

 かしこまった石戸谷君の言葉を合図に、会が幕を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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