『血溜まり池』
ぼんやりと病室の天井を眺めていた。
他人と部屋を同じくすることを嫌う俺を気遣って、親が一人部屋にしてくれたので、俺以外にこの病室に人はいなかった。
開けられた窓から優しく吹き込む風が、白いカーテンをそよそよとはためかせているのを横目で見、俺はなんにも考えることができなくて天井を眺め続ける。
俺は、一体何をしているんだ。
なんにも考えることができない。
あれ、俺ってなんでこんなところにいるんだったけかなぁ。
ようやく天井から下へと視線をずらすと、そこには吊られた俺の両脚があった。
自分で見ても間抜けだと思えるその格好は、俺の絶望だった。
ゆるゆると視線を天井に戻す。
確か朝に走り込みをしていたんだ。
走るのが好きで、走ることだけが生きがいで、走ることだけが楽しみだった俺は、その日走っていて、走っていて? ――――あぁ。
その後、どうしたんだっけかなぁ。
なんにも考えることができなくなっている。
早く学校に行きたい。学校に行って走って、学校に行くのに走って、走って走って走って、…………、……、
チッ、チッと時計の音が聞こえた。
俺は横に目を向ける。そこには目覚まし時計があった。
友達が、時計が無いと不便だろうと俺にくれたやつだ。
時計は音を立てながら時間を刻んでいく。
この時計は何回回ったか。
俺が走らなくなって何回、この時計は、
チッ、チッ、チッ、チッ、
あぁ、そういえば。
そういえばあの時、池を見たんだった。
学校の、正門ではなく裏手の門から俺はその日出て、いや出る前に俺はそれを見たんだ。
いつもなら立ち入り禁止と書かれた扉があるはずだったんだ。
裏手の門の近くに不自然に建つ白い倉庫。一体何に使うのか分からない、真新しく建てられたのか汚れが少ないそれの扉を、雁字搦めにする鎖。その上に立ち入り禁止と書かれたプレートが、いつもなら、そういつもならかかっているはずだったのだ。
だけど今日は、その時は珍しくも鎖が解け、立ち入り禁止と書かれたプレートはだらりと垂れ下がっていた。
俺は珍しく思った。
好奇心に、勝てなかった。
俺はその倉庫の扉を開けた。
倉庫の中に床は無く、地面に掘られた池がそこにあった。
その池は赤黒く染まっており、カビと埃と鉄の匂いを漂わせたそれに、俺は気持ち悪くなって逃げ出した。
あぁ、そうだ、あれだ。
あれを見た次の日、俺は、俺は。
天井を見飽きた俺はゆるりと目を瞑る。
そして夢を見た。
雁字搦めにされた倉庫の戒めを解き、その池に真新しい赤い水を自身から注ぎ入れる未来の俺の夢を。




