十三話 足音
おう。それじゃあ話すか。
これは友達の友達から聞いた話なんだ。
こういうくだりは都市伝説によくあるけど、まぁそんな感覚で聞いてくれ。
ある女子大学生が友達と話していると、その話を聞いた。
その話の内容は「足音を聞き逃してはならない」というものだ。
よくある怪談話の類で、その女子大学生もなんとはなしに話を聞いていた。
夜、一人で砂場のある場所を歩いていると足音が聞こえるんだそうだ。
素足で砂を踏む音。その音を聞いてしまったら、音が聞こえた方を見てはいけない。
もし見てしまえば、身体の無い子供の足を見てしまうからだそうだ。
そしてその足は自分を見た者についていき、そのまま何もせず家に帰り寝ると、その足の主に首を絞められて殺されてしまうのだ。
そんな話だ。
その女子大学生は口では「こわぁーい!」と言いながらも心の中では「馬鹿みたい」と思っていた。
足音が聞こえるのも足が見えるのも、そこに本当に人がいるからで、身体が見えないのは暗かったからだ。
もし本当に幽霊がいるのだとしたら世の中はパンクしてしまう。彼女はそう思った。
もし見てしまった時の対処法は、家の扉を開く前に自身に塩を振る。それだけでいい。
結局そんなものだ。
その日は友達と分かれて家に帰った。
数日の内は友達が「どう? 会った?」としつこく聞いてきたので、その怪談話を忘れることができなかった。
だがそういうものは少し時間が経ってしまえばどうでもよくなる。
彼女の友達もそうであり、彼女自身もそうだった。
彼女達は一ヶ月もするとそんな話をしたことすらも忘れてしまった。
大学も卒業し、就職も終えた彼女は一人暮らしを眼前の目標に、仕事をしていた。
彼女は真面目な性格だったため、仕事を次の日に持ち越すのをあまり良しとしておらず、その日は残業で遅くまで残ってしまった。
早く帰ろうと支度をし、会社を出、電車に乗って家に向かった。
電車を降り駅から出ると、彼女の家に行くまでに少し暗い夜道を歩かなくてはならない。
彼女はそのことに変質者が出ないかと不安になったが、今までそんなことは無かったし、と気を持ち直して歩きだした。
彼女は一人、電灯がぽつぽつと辺りを照らす夜道を進み、途中にある公園を横切ろうとした、その時。
じゃり、
音がした。
彼女は横目で公園を見、そして見てしまった。
身体の無い、青白い子供の足を。
彼女は驚いて立ち止まった。
横目で見た光景を振り払うように目を前に向け、小走りでそこから離れた。
頭の中では大学時代、友達が話していた怪談話が巡っていた。
砂を踏む音。青白い足。それを見てしまったら死んでしまう。
ぐるぐると頭の中を駆けるそれらの中に、対処法があったことに気付いた彼女は安堵して家に向かう足を緩めた。
彼女はちょっと遠回りにコンビニに行き、塩を買った。
そして家に帰る最中、びくびくと音がしないか、足が見えないかと辺りを見回していたが、途中で馬鹿馬鹿しくなってしまった。
幽霊なんていないと自負していたのに、怪談話を思い出したからってなんでここまで怖がっているのか。
彼女はそう思い、家の前まで帰って来た。
一瞬、自身に塩を振るかどうかと迷ったが、塩を振ってしまうと自分が怪談話を信じて怖がっているように思えてしまって、結局彼女は塩を振らずに玄関を開けた。
家族におかえりと言い、返事が返ってくる中、その暖かさにホッと息を吐いて彼女は靴を脱ぎ、靴に挟まりじゃりじゃりと音を立てる砂を払い落として家にあがった。
母親が作ってくれた暖かなご飯を食べ、疲れた身体を癒すために風呂に入り、寝るまでの時間にテレビを見て自分の部屋に戻る。
部屋を暗くしてベッドに潜り込んでいる間、友達の怪談話が頭を掠めた。
少し不安になった彼女は念のためにカーテンを開けて外を確認したが、何もおらず、ついてきていないことに安心して息を吐いた。
今度こそベッドの中に潜り込んだ彼女は、自分におやすみと言って眠りについた。
その日、彼女は朝日を拝むことはついぞなかった。
……。
……。
人の忠告は聞かなくちゃねー。
はい。これで俺の話は終わり。




