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閑話

 バンッと机を叩く音がした。

 僕は驚きすぎて心臓が止まるかと思った。

 僕の隣の石戸谷君が机を叩いたんだ。僕はゆっくりと、立ち上がって顔を俯けている石戸谷君を仰ぎ見た。

 

 

 石戸谷君は、笑っていた。

 

 

 僕はぞっとして、その顔に魅入った。

 石戸谷君の目が僕を見、八代先輩を見る。

 笑みがさらに歪んだ。

 

 

「八代センパイさぁ」

 

「……なんだい?」

 

「やっぱ見てたんだ?」

 

「見てたよ」

 

「他の奴らのことも、ちょっと調べればすぐ分かることだよなぁ?」

 

「そうだったとしても、一人一人調べるか? 調べた奴らがここに来ると予想できるか?」

 

「アンタほどに頭が良かったらできるんじゃねぇの?」

 

「頭の良い奴らをなんだと思ってるんだお前は。そんなことを予想できるやつなんて早々いないし、それが僕だったとしてもこんなお遊びにいちいち本気を出すはずがないだろう?」

 

「そんなチャラけた性格だったらなるんじゃねぇの」

 

「馬鹿だなぁお前。……俺が偶然それを見たのは、お前の不幸体質のせいだよ」

 

「あっ、そう」

 

 

 そう言って石戸谷君は椅子に崩れ落ちるように座った。

 顔はまだ俯けている。たんぽぽのような頭のせいで、髪の毛で顔が隠れることはない。

 僕は石戸谷君に持っていた春のイメージが墨で塗りつぶされていくのに、ちょっとした落胆を感じていた。

 石戸谷君は自嘲気味に笑っていた。

 

 しばらくの間、重苦しい沈黙がその場を支配した。

 横坂さんを見ると、息苦しそうに口元に手を当て震えていた。

 城島さんは顔を下にして震えていた。

 桐沢君はどうでもいいといった感じに、だけど不服そうに眉間に皺寄せて腕を組んでいた。

 八代先輩はつまらなさそうにカーテンに仕切られた窓を見ていた。

 

 

「……あ、あの」

 

 

 僕は意を決して声を出す。

 場違いだということは知っていたが、早くしないと、と思って勇気を出した。

 このメンバーは、……、……、……、

 

 

「あ、あの、どうしますか? 怖い話、続けますか?」

 

「あー……」

 

 

 桐沢君が無意味に音を出す。

 この場の雰囲気は、お開きにしたい、といったものだった。

 ……それは困る。非常に困る。これで終わってしまうのはとてももったいない。

 僕は言い募った。

 

 

「あの、じゃあ僕の話で最後にしませんか?」

 

「……藤谷君」

 

「あ、いや、だってね、石戸谷君。せっかく集まったんですし、僕もう少しここにいたいなぁ、って……」

 

「藤谷、お前……」

 

「桐沢君、そんな呆れた顔しないでよ。僕は、僕はね……」

 

「藤谷先輩、が、最後なんですか……?」

 

「うん、そうだよ。僕の話が最後でいいから、それからお開きにしようよ」

 

「根暗君……君ってホント寂しい子なんだね……」

 

「う……うぅ……」

 

 

 非難の目が僕に集中する。

 しょうがない。しょうがないことだ。

 クラスからイジメられている卑屈な僕の言葉なんて、誰も聞きやしないんだ。

 八代先輩がどこから僕のことを知ったのかはわからない。

 イジメといっても噂に聞く重度なものじゃない。まだ軽度なものなんだ。

 クラスの中にいる人間も、よほどのことがない故に、僕のことをイジメている奴らやその近くにいる奴らしか知らない。

 

 あぁ、本当にどこで知ったんだろう。

 みじめだ。僕はみじめだ。

 

 だけども、僕は。

 

 

「藤谷君」

 

 

 前の席に座る城島さんが、いつの間に顔をあげたのか、儚い笑顔で言った。

 

 

「私は、聞きたいなぁ」

 

 

 僕はその笑顔を見て確信した。

 あぁ、なんだ。やっぱり彼女じゃないか。

 確信した僕は心の中で笑う。

 周りを見回すと、皆「仕方がない」と言った顔でそこに座っていた。

 

 そう、それでいいんだよ。

 

 

「あー、それじゃあ、俺も一つ話そうかなぁ~」

 

 

 石戸谷君がそんなことを言う。

 城島さんはそれに淡く笑った。横坂さんも青い顔ながら少し元気が出てきたようだ。

 頭の後ろに手を組んでぶっきらぼうに言う石戸谷君を見ながら、「嘘……だよね……きっと……」と小さく呟き、なにかを自分に納得させていた。

 場の凍った空気は、いつの間にか軟化していた。僕はそのことに少なからず驚き、この機会を逃してはいけないと口を固く結ぶ。

 僕は曲がっていた背を伸ばして「それじゃあ、」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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