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閑話 後話

 アイスを食べている間中、シンと静まり返った教室内。

 途中、横坂さんが「こっくりさんやろうよ」と提案したが、見た目のわりに怖い物が苦手らしい桐沢君がすごみながら止めた。

 こっくりさんをやることにどちらかと言うと賛成だった僕は桐沢君のすごみに「いいんじゃないかな。やろうよ」と言えず、黙々と口を動かすだけに留めた。

 

 僕は思うが、ここに来てみんなの話を聞いていると、やはり怖い話を聞くよりも自分で体験した方がいいと再度確認する。

 話を聞くだけではどこがどう怖いのか分からない。それは所詮話に過ぎないからだ。僕は極度の怖がりだが、体験したいと思う。今までの話のものを全て自分が体験するのかと思うと得体の知れない恐怖がじりじりと心臓を焦がしていった。

 そうだ。これだ。僕はこの感覚が好きなんだ。

 好きだけどもやはり話だけじゃあ。

 

 

「外に出てはいけない、か……」

 

 

 桐沢君が廊下に貼られていた紙をまた読み始めている。

 桐沢君が読んでいる文字はきっと『話が終わるまで外に出てはいけない』という部分だろう。

 これは、つまりトイレにも立ってはいけないという意味だ。果たしてこの人達はその浅い深部まで読み取ることはできるのだろうか。

 国語力が低そうな人達ばっかりだからなぁと失礼なことを思ってみたりする。

 

 僕はふと城島さんに目を向けた。

 城島さんは赤いアイスキャンディを見ながら小動物のように食べていた。

 石戸谷君の言葉が甦り、次に八代先輩に目を向ける。

 黄色と白のアイスキャンディを口に突っ込んでいる八代先輩はつまらなさそうに時計を睨みつけていた。

 

 石戸谷君は城島さんに関わらない方がいいと言っていた。八代先輩も訳有りな人みたいだし……。

 このメンバーでいいかな、と小さく呟いた。

 

 

「ん? どうした、藤谷君」

 

「え? あ、あぁいや……なんでもないよ……」

 

「……? そう」

 

 

 石戸谷君はもう食べ終わったようで、頬杖をついていた顔をぐるりと僕に向けてきていた。

 僕は誤魔化すように八代先輩に声をかける。

 

 

「や、しろ先輩」

 

「なんだ根暗君」

 

「さっき石戸谷君が八代先輩のことを『かの有名な』と言っていましたが、それってなんのことか訊いてもいいですか?」

 

「ダメ」

 

 

 即答で断られてしまった。

 ムスッと不機嫌そうに言われてしまった僕は、それでもやはり知りたくて「ダメなんですか?」と訊く。

 

 

「ダメなものはダメ」

 

「まぁまぁそう言わずにぃー、八代先輩。どうせ学校中に知れ渡ってますしねぇ。藤谷君は知らなかったみたいだけども。皆知ってることを教えてやらないと可哀想ってもんじゃないんですかぁ?」

 

「黙れ石戸谷。だぁかぁらぁ俺はお前のこと嫌いなんだよ」

 

「知ってます。というわけで藤谷君、教えてあげるよ」

 

 

 石戸谷君は奇妙に顔を歪めて僕に顔を傾けた。

 その顔は楽しくてたまらないといったもので、僕はその顔が僕の頭の中にある幽霊像にとても似ていると思えた。

 なんだろう。何かこの二人には確執があるのだろうか。

 

 

「でね、藤谷君」

 

「喋るな!!」

 

 

 バンッと机を思い切り叩く音がして僕の身体が竦む。

 強張る目を恐る恐る八代先輩に向けると、八代先輩のキレイに整った顔が鬼のように歪みこちらを睨んでいることに気付き、僕は恐怖を感じて身体をさらに縮めた。

 

 

「石戸谷! お前僕に会うのは初めてだろう! 俺になんの恨みがあるっていうんだ!」

 

「そりゃぁありますよ。でもまぁ八代先輩が知るはずのないことですがね。『かの有名な』八代先輩でも知らないことです」

 

「…………っ!」

 

 

 ギリギリギリ、

 音が聞こえてきそうなほど歯を食いしばっている八代先輩を、石戸谷君は鼻で笑う。

 石戸谷君は八代先輩に個人的な恨みを持っているのか。

 それはそれで石戸谷君にその恨みを訊いてみたいものだが、今のこの状況で訊くことはできない。

 八代先輩の怒りの矛先をこちらに向けられたくない。

 僕はあぁすごいなぁ、と心中で呟いた。

 

 

「お前ホンットむかつく!」

 

「俺もだっての」

 

「もういい! 僕が自分で言う! だからお前は黙ってろ!!」

 

「やった。ラッキー。手間省いてくれるんですね八代センパイ。ありがとうございます?」

 

 

 吐き捨てた言葉を石戸谷君はけらけら笑って、なんでもないことのように僕に「良かったね。話してくれるって」と言った。

 八代先輩が僕を睨む。目で人を射殺せるなら、今の目がきっとそうなのだろう。

 ひゅっと息を浅く吸い込み、吐き出せずに僕は固まった。

 

 

「あ~。もう、いいか? もういいならさっさと話を続けよう。八代のは話に加えたらいい」

 

 

 桐沢君がそう言って紙を折りたたみ、新しい蝋燭に火を点けた。

 八代先輩の目が僕から離れ、僕は細くだが、息を吐き出せることに安堵した。

 

 

「えぇ~? でも、八代先輩のってそれ、怖い話なんですか~?」

 

「不思議な話でもいいと書いてあったぞ」

 

「不思議な話なんですか~?」

 

「なんだ、横坂。お前も知らないのか」

 

「知りません知りません! だからとぉっても楽しみです!」

 

「そうか」

 

 

 横坂さんは無邪気に笑って子供のように身体をぐらぐらと揺らした。

 そんな彼女に八代先輩はきっと忌々しそうな顔をしているんだろう。僕はまたあの目に出会ったら嫌なので確認はせずに勝手に想像した。

 

 

「……それでは、次は私ですね……?」

 

 

 城島さんが控えめにか細い声で言い、休憩の終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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